結婚を意識してどうしても俺と別れたくない彼女がとった方法
tantan
第1話◎彼女が掴んだモノ!
「ごめんなさい、本当に反省しています」
真奈美は俺の前で思いっきり土下座をしながら、思いっきり謝罪の言葉を述べていた。
俺の名前は湊信也。
今年で28才になり仕事も順調。
そして順調ついでとでも言うのだろうか、30に近くなる最近になって結婚というのを徐々に意識し出した頃でもある。
真奈美は去年、俺(信也)が働く会社に入社した24の女の子。
俺は、彼女が入社した会社で指導員として、仕事のノウハウを教えている内に付き合うようになった、今は俗に言う彼氏と呼ばれる関係なのだが……
実は最近というか付き合ってそれほどたたない内から、俺は彼女と別れたくてしかたがなかった。
元々は彼女の方から言ってきてスタートした交際。
付き合った当初は外見もかなり可愛らしい彼女なだけに、俺の方もかなりノリノリな感じを出していた。
出してはいたのだが、ただ一つ彼女には非常に大きな欠点があった。
その彼女の難点というのは酒に溺れるということなのだ。
普段は見た目の清純さも加わり可愛らしく、誰からも愛されるように完璧に振る舞う彼女。
それに見た目の性格だけではなく、色々な相性というのも俺たちはバッチリだと思う。
バッチリだとは思うのだが、それ以上に……
一度、酒に酔ってしまうと、これまでの性格は何だったの?
と言うほどに性格を変貌させるのだ…
付き合った当初は大学を卒業したばかりということもあって、お酒の飲み方というのを知らないのかな?
何ていうような広い心で彼女を見ていたのだが……
いかんせん、酷すぎる……
二人きりの時だろうが大勢の時だろうが、そんなのは関係ないとばかりに、縦横無尽に暴れまわる彼女がそこにはいた。
俺一人であれば、ある程度は我慢できる話なのだが、周囲も含んでということになれば話は別。
大事になる前に俺は彼女と手を切りたくて、今日は居酒屋に呼び出して別れを切り出していた。
別れ話を切り出した当初は、彼女も信じられなかったらしく
「またまたぁ~、そんなこと言ってぇ~。冗談はダメよぉ!」
と笑いながら言っていたのだが、俺の一切ぶれない主張に彼女は次第に状況というのを理解してきたのだろう。
先ほどから彼女は、泣きながら土下座と謝罪を繰り返していた。
「そうは言っても無理なもんは無理だよ」
「えっ?なんで?まだ全然無理じゃないでしょ?」
「何が、なんで?なんだよ。もう全て遅すぎだろ?」
「遅すぎじゃないでしょ、だって信ちゃん昨日も夜、私からずっと離れなかったじゃないのぉ~」
「えぇっ……、いや、あれはお前が無理矢理俺の家に来たんだろ?」
「それは信ちゃんがこさせるように仕向けたんでしょ?何日も連絡を寄越さないで私に心配かけてたんでしょ?」
今日の別れ話については、以前から俺は計画していた。
なので、今日スッキリ別れ話をして未練なく別れるつもりで、俺は最近ずっと彼女とは疎遠にしていた。
だが彼女の方は、それを良しとせず昨日、俺の家に無理矢理押し掛けてきたのだ。
「別に心配かけるつもりじゃないよ。今日別れ話をするつもりだったのは、前々から計画していたからね。それで、最近は連絡とってなかったんだよ」
「へぇ~、別れるつもりだったのに。昨日あんなことをしたんだぁ~。そうなんだぁ~」
彼女はそう言いながら席を立ち自身の上着を脱ぎ、入り口においてあるハンガーに上着をかけた。
「どっ…どうした?熱いのか?」
居酒屋にいて室内が寒いと言う話は、あまり聞いたことがない。
それだけに彼女がとった行動というのは、俺にとって別に自然で特別でもなんでもない行動だったはずなのだが、何となく気になった俺は思わず彼女にそう声をかけていた。
「ん~?別にぃ~。信ちゃんこそどうしたの?」
彼女は妖しい笑みを浮かべながら、俺を見下ろす。
付き合って一年と少ししといったところか。
それくらいしかたってないとは言え、ある程度は経過している。
だから分かる。
こういった態度を俺にとる時の彼女は、何か考えている時だと言うことが!
だからこそ彼女に先手を打たれたくはないと考えた俺は、自らの席を立とうとしたのだが遅かった……
「ちょ、ちょ、ちょっと!ちょっと!痛いって!痛い!なに、なに、なにぃ~?」
最初、俺の向かいに座っていた彼女は服をかけた後、俺の隣に右隣に移動してきたかと思うと、そのまま俺の右肩を思いっきり掴み動きを封じるようにして俺の隣に座ったのだ。
「あー、ごめんねぇー。どうせ話すなら、近くで話す方がいいかなと思ってぇ~」
そう言いながら彼女は自分の両手を俺の右腕に絡ませてくる。
香水の良い匂いと俺の右腕には柔らかい大好きな感触があった。
「ちょっとぉ~、近すぎるって!もう少し離れろよ!おいぃ!」
「何いってんの?信ちゃん。そんなこと言う割りには全然力入ってないよねぇ~」
彼女が耳元で囁くように言ってくる。
耳に吐息が当たり若干、むず痒いような感覚に襲われて俺は首をすくませてしまう。
そして、その時俺の口から出た言葉というのが……
「ああぁぁ……」
と言うものだった。
本来であれば、ヤメロと言った内容が出てくる言葉としては正しいのだろうが、残念ながらその時の俺には、そんな言葉は出てこない。
代わりに彼女の方から笑い声が漏れだし、俺は自分がどんどん恥ずかしく思えてきた。
「あぁ~、面白い。信ちゃんってやっぱ最高だねぇ~。笑いすぎて涙出てきたよ」
さんざん俺を笑い者にした彼女は、一通り満足したのか俺から一瞬両手を離す。
彼女が両手を離したことにより隙間が生まれた。
俺はこの時をチャンスと思って、彼女から距離をとるべく半身の姿勢をとったのだが……
この一瞬の隙を狙って彼女は俺に攻撃をしかけてきたのだ。
一瞬無防備になった俺のズボン。
彼女は自分の左手を強引に俺のズボンとベルトの間に滑り込ませ隙間を作る。
そして、それにより生まれた僅かな隙間を使い、自分の右手を思いっきり捻り込ませ、あろうことか俺を思いっきり握り混んできた。
「よーやく、ご対面ですねぇ~。しぃんちゃーん。ねぇー、これでも貴方はさっきと同じことが言えますかぁ~?」
彼女は自分の右手にこれでもかと力を加え俺を握ったまま、そして同時に俺の方を睨み付けながら言ってくる。
「お…」
彼女がここまで強引に責め込んでくるとは思わなかった。
今の現状を見てさすがに俺も感情が高ぶってしまう。
そして、それは彼女も察したのだろう。
俺の予想外に大きな第一声を聞いて、彼女は左手の人差し指を立てて俺の唇に当ててきた。
恐らくは喋るなと言うことなのだろう。
「しぃー、信ちゃん!大きな声出して良いの?ここ居酒屋だよ?変に思って店員さん来て、今の信ちゃんと私の格好を見てどう思うのかなぁ~。多分、とんでもないことになると思うんだけどぉ~」
そう彼女に言われて俺は自分の目線を下の方に向けてみた。
下にはもちろん彼女の右手がある、俺を握っている右手が……
こんな状況を仮に店員さんに見られでもしたら、その場は怒られて終わりというだけなのかもしれない。
だが、この居酒屋というのは俺の家に近いだけあり何度も彼女と来ている。
恐らく、この後無事に彼女と別れることが出来たとしても多分、この現状というものを見られでもしたら、当分の間?いや、もしかするとこの居酒屋の営業が続く限り言われる付けることになるのではないだろうか。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……
それだけは何としても避けなければ……
俺は彼女の恐怖の右手という脅迫の前に、絶望感を抱かざるを得なかった。
「どうしたのぉ~?何か喋るんじゃなかったのぉ~?ねぇ~!ねぇ~!」
俺が無言になってしまったことで、彼女は俺が危機を感じている状況に気づいたのだろう。
今度は右手に力を込めているだけではあきたらず、そのまま自身の右手を上下に動かし出す。
「あぁっ…、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと…、それはさすがに…ちょっと待って……」
彼女の突然の連続攻撃に俺は、自分の結界を守るべくひたすらに彼女の説得を試みる。
「えぇ~、信ちゃん、だって、これ好きでしょぉ~?ねぇ~?いっつもやめないでとか最後に言うじゃん」
ニヤニヤと笑いながら、彼女は見下すように俺に言ってきた。
一瞬……
ゾクッとしたが……
それはそれと俺は気分を持ち直す。
「いや、それは……今は居酒屋の中だからね?時と場合を考えないとね……だからお願いだから、一旦、その右手を外そうか……ね?」
「はぁ~?何言ってんのぉ~?外せって言われて外すバカはいないでしょ?それに、知ってる~?ここの居酒屋は朝までやってるんだよぉ。良かったねぇ~、しぃ~んちゃ~ん、朝までじっくりと楽しみながらお話し合いできるねぇ~」
彼女はそう言いながら唇を思いっきり吊り上げると下卑た笑みと言っても差し支えがない表情を俺に向けた。
そして、そのまま右手のギアを一段階上げ、彼女は俺の表情を楽しんでいる。
俺は自分の左手を自分で噛みながら、声が上がるのを我慢するしか方法が思い付かなかった。
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