第112話

 潜入部隊に選ばれたのは、必然的に上位職──ちかもレベルがカンストしているかそれに近い者たちだ。

 不思議というか偶然というか、それとも運命のいたずらか。

 集まったメンバーは職業が被ることなく、全職業がコンプリートしていた。


 未カンストメンバーの底上げを、フルチケットブーストでさくっと終わらせ半魚人の下へ。


「どうですか?」

「ンゲロロ。準備万端げろ。途中までは我らがご案内するゲロ。その先は水がないゲロから」

「あぁ。ではそこまで頼むよ♪」


 以前、半魚人を海底の町に行く時に貰った酢昆布。今回もそれを貰って海に潜った。

 鎧を着ていたら沈むのかなーっと思ったけど、そんなことはないみたいだ。

 けど水の抵抗があるので、僕ら地上人では動きが鈍るのは当然なわけで。


「じゃあ行くケロよ」

「入口はもう開いているゲラ」

「がぼぼぼあ、ぼあがぶぼ」

「何言ってるか分からないケラよ」


 うん、やっぱりそうなるか。

 隠された入口から地下通路へと泳いで侵入。半魚人たちに手を引かれて通路の奥へ。

 海水に浸かった通路を照らすのは、半魚人が手にした光る石だけ。光源としてはなんとも頼りない。

 正直僕には、周りなんて全然見えない。

 半魚人たちにはこれで十分なんだろうな。壁にぶつかることなくすいすい泳いで行く。


 やがて足の着く場所までやって来た。


「ここからはお前たち、頑張るゲラ」

「ありがとう」

「気を付けるケラよ」

「お互いにね☆」


 半魚人たちに別れを告げ、僕らは進んだ。

 階段を上ったり下りたり。何度も道を曲がって、そうしてようやくお城の地下へと到着した。


「はぁ、ずいぶん時間が掛かったわね。時間というより、日数?」

「直線距離にしても、丸二日は掛かる距離ですから」


 アリアさんはお茶の用意をしながらそう話す。

 地下の通路は一本道ではなく、それでも迷わず来れたのはブレッドが全部道を覚えていたから。

 王家の者だけが知るこの通路は、実際に見たことはなくても地図を頭の中に入れるもんだって彼は話した。


「では最終確認だよ。ボクらの目的は、地下に安置された封印の神器だ。これを奪い、あるべき場所へ戻す」


 いつになくブレッドが真面目な口調で話した。

 さすがにここにきて、ノーテンキなままではいられないんだろう。


 邪心を封印した神器か……きっと厳重に守られているだろうし、気合を入れなきゃな。


 課金ショップを開いて、全員に即時蘇生祝福チケットと身代わりのお札をたんまり渡しておく。

 地上で今、陽動作戦を行っている仲間たちにもひとり20~30ずつ渡している。

 即死蘇生は自分用ではなく、他人に使える。チケットを破ると対象を選択する魔法陣が出た。

 身代わりは持っているだけでいい。出血多量、即死ダメージ。なんでもいい。とにかく死ぬ瞬間に、札が身代わりになる。

 そのまま生きながらえるだけなら、そのまままた死んでしまうけど、そこは課金アイテム。

 瀕死状態だけは回避できるみたいだ。


「で、こっちが即・生命回復のポーション。こっちは三十秒間、全ての状態異常を跳ねのけるチケット。これが三分間、全ステータスを+10するクッキー。あとは──」

「……古のアイテムがこうもぽんぽんと……」

「んー、まだ残高は十分だし、出し惜しみしても仕方ないんだよねぇ」


 攻撃力を上げるチケットもあるが、生存率を考えると防御特化のほうがいいよね。

 十分な数を購入して配って回る。


「よし、じゃあ行こう!」






 お城の地下は、まるで神殿のようだった。

 天井は高く、足元も天井も光沢のある汐井石造り。支える柱も同じだ。

 柱にはランタンの明かりが灯されていたけれど、周囲に光源はなく薄暗い。

 そんな柱と柱の間を進んだ先に人影があった。


 ひとりではない。複数だ。


「む、誰だ!?」

「いやぁ兄上。このような場所でお会いするとは」

「ブ、ブレッド!? 何故ここへっ」


 いたのはブレッドの兄──ってことは、あっちも王子様か。

 それと赤黒い法衣、それともローブ? とにかくそんな服を着た性別不明が十三人ほどいた。


「構わん。殺してしまえ!」

「承知いたしました。"我が女神ゼリアチェスの名において、汝らに死を与えん──デス"」


 デス!?

 そ、即死魔法か…………チケット一枚消費っと。


 邪神関係の魔法ってことは、あの連中は司祭なのか。


「な、何故だ!? 何故誰も死なないっ」

「ならまもう一度! "我が女神ゼリアチェスの名において、汝らに死を与えん──デス"」


 ぐっ……これはさすがに食らってしまう。チケットのクールタイムだからね。

 胸を締め付ける感じはあったけれど、耐えたかも?

 たぶん魔法抵抗値だから、魔力が関係しているんだろう。

 周囲を見ると、魔法職は全員立っていて、他は数人が生きていた。


「ルーシア! ルーシアァァァァ」

「アーシア落ち着くんだっ。蘇生チケットを使うから大丈夫だってっ」

「あ、そうでしたの。はやくっ、はやくっ」


 チケットを使って蘇生すると、ルーシアがむくりと起き上がった。

 それを見た周囲の人たちも同じようにチケットで仲間を蘇生。

 全員が起き上がると、ブレッドのお兄さんやその部下っぽいのが悲鳴にも近い声を上げた。


「何故だーっ! 何故蘇るっ」

「ま、まさか……ゾンビ軍団なのか!?」

「ひっ。ゾンビ……ならば奴らの中に死霊使いがいるのかっ」

「再来か……過去の再来か!?」


 再来?

 あぁそういえば昔、帝国に攻めたプレイヤーがいたんだっけ。

 僅かな人数で、だけど死んでも即時復活が出来るもんだから、当時はゾンビだと思われていたみたいな。


「え、えぇいっ惑わされるな! 奴らはカッキンアイテムとやらを使っているだけであろうっ」


 カッキン?


「あのー、それって課金アイテムの間違いじゃ?」

「は?」


 敵の王子が固まる。


「カ、カッキンであろう!」

「いや課金だし」

「いいから殺せ!」

「"我が女神ゼリアチェスの名において、汝らに死を与えん──デス"」


 今度は身代わりの札が発動した。全員無事だ。


「「何故だーっ!」」


 叫ぶ司祭に、容赦なく矢が飛び魔法が飛び。

 あっという間に十三人は倒れた。


「残ったのは兄上だけですね」


 ブレッドはニッコリ笑ってそう言った。


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