8章

92.見えてきた祭りの姿 一

 明くる日、舞台や屋台の設営に駆り出され、瞬く間に一日が過ぎていった。俺と須藤は力仕事メインで動き、千佳と小湊さんは備品のチェックや舞台イベントの段取りに付き合っていたらしい。そんななか、玉子串の屋台も一緒に組み上げられ、日が暮れるころにはその全容も明らかとなった。


「うん、バッチリねっ!」


 屋台の正面に立つ小湊さんは腕を組み満足げに頷いた。屋台の上、ひさしの部分には太文字の踊るような字体で『玉子串』と描かれている。


「凄い、こんな本格的な屋台ができたんですね……」


 千佳も感嘆の声を漏らした。


「んふふー、凄いでしょすごいでしょ、もっと褒めていいんだよ?」


 調理に関する部分は千佳と俺が須藤や小湊さんを特訓したが、屋台に関することについては小湊さんが率先して四谷さんと話して決めた。どんな調理器具が必要かとか、そういう中身について要望を出してはいたものの……。屋台の外観などは小湊さんに任せていたし、ちゃんとしたデザインを見たのはこうして出来上がった今が初めてだ。


「なんかまったく違和感ないぜ」


 須藤もそのクオリティに呆気にとられているようだ。たしかに、周囲の屋台とも上手く溶け込んでいる。実際はこの出店のなかで一番若いぽっと出の屋台だが、この堂々としたデザインのおかげでむしろ老舗っぽさみたいな年季まで見え隠れしている気がする。

 小湊さんは、想像通りのものが出来上がったと鼻高々だ。


「でしょでしょー? これ、このひさしの部分の文字、私が書いたんだ~」


「マジかよ……、ってことはこの屋台のシートも特注で作ったってことか? 金も結構したんじゃないか?」


 小湊さんと話す時、いつも力が入りすぎてキョドってしまう須藤も今は自然と会話ができているようで、なんとなく一安心だ。

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