85.失念 二
「俺は別に」
「祐司さん、みなまで言わなくてもいいですよ。私には分かってます、安心してください」
千佳は知った顔しているけれど、それは確実に気のせいだ。
これはどう説明したものか。
「あのな、俺は別に小湊さんのことはどうとも」
「いいんです、いいんです。そういう照れ隠しをしたくなる気持ちも分かりますが、私にはそういうの要らないですよ? それより誘い方ですが。やはりこういう時はさらっと言っちゃうのが楽だと思うんですよ、祐司さん。須藤さんもいますし、まだ青年団の方々もいろいろ準備されてます。ですから、倉庫についたらそのまま小湊さんに手伝いはいるかを聞いて、その流れで誘っちゃうんです」
「や、だから」
「さりげなく、さりげなくがポイントですよ? もしなにか作業されていたらですが、そのなかで小湊さんを連れ出すのは難しいと思います。ですが、もし他の人の目があるなかでさらっというのが厳しいようでしたら、ほら、境内の屋台設営してますよね、あれを話のタネにして連れ出すのがいいと思います。ただ、話があるとかいうよりはよっぽど説得力のある連れ出し方ですね。うん、それがいい、これでしたらいけますよ、祐司さん」
ポンと胸の前で手を合わせ、良案だと嬉し気に笑ってみせる。
「……なぁ」
「そうと決まれば、あと気を付けることは……、ぁ、喉乾いてませんか? 誘うその時になって、喉カラカラで噛んじゃったりしたら台無しですからね。それと……一応念のため、制汗スプレーもかけていきましょうか」
「……」
「そんな不安そうな顔しなくていいですよ。自然体、は難しいと思いますが、ガチガチにならなければいいだけです。祐司さんならきっと大丈夫です」
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