54.貸しひとつ 二
これまで誰かに話すこともなかったし、とにかく最初の最初から話した。上手く話せたかは怪しいけれど、事故のことはもとより、今も千佳がべったりなのは罪悪感の裏返しだということもすべて話した。
途中、電車が一本やってきたけど乗り降りする人はなく、すぐに駅を出て行った。
「ある意味こうなることも分かってたんだ。だから今まで黙っていたし、触れずにいたけれど……」
「割り切れないものがある?」
ずっと聞いてくれていた小湊さんが、ここで久しぶりに口を開いた。
「そう。頑張ってみたけれど、千佳みたいには切り替えられなくて」
「まぁ、それ自体をなかったことにされるんだもん、そのやり場のないモヤモヤ、なんとなく分かるよ」
勘違いされ、振ったことになっている小湊さんと、告白自体を無かったことにされた俺。状況は違うけどたしかに似た境遇だった。
「俺が気にしてるだけで、千佳は普通なんだ。俺さえ普通に出来てたら、元のようにはなれるけど」
「そんな簡単に割り切れないし、振るまえないから変な空気になっちゃって、私のとこに?」
「まぁ……。そうだよ」
ぐうの音も出ない。
「はいはいそうやってすぐめげないの。とりあえず、私からひとつ言わせてもらうとね――、アンタはえらい! 頑張った! ほれ、ぐりぐりー」
「な、ちょっ、やめろよ! なにがしたいんだよ!?」
強めのグーで胸を押され、それがくすぐったくて身を引いた。
「あははっ、うん、まずはおめでとうって言いたいんだよ!」
「どこがだよ!」
そっちの勘違いと違ってこっちはなかったことにされてんだぞ!
「だってさ? 思わず言っちゃったってことは、それだけ本気になっちゃった、ってことでしょう?」
「本気もなにも……」
本当にぽろっと出ちゃっただけで……。と、ここで否定してもなにもならないか。その言い訳は唾と一緒にゴクリと呑んだ。
「恋愛なんてさ、お試し感覚でさらっと付き合ったりもするじゃんか。でもアンタ達は違う。違うというか、できない。元には戻れないかもしれない。それでも思わず言っちゃうくらい、本気の本気になっちゃった。そう思えること自体、すごく大切なことなんだって思うんだ」
茶化すでもなく真っ直ぐな目で、小湊さんは
「それと。信じられないかもだけど、相楽さんは篠森のこと大好きだよ? 友達でも幼なじみでも勿論なくて、男としてね?」
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