51.変わらないもの 四

「……?」


 ぱちくりと目をしばたたかせて、頭で理解した瞬間だろう、にっこりと微笑ほほえんだ。その表情がどちらの意味なのか、ずっと見てきた俺にも分からない。


「あー、と……」


 頭を掻いた。正面から千佳の目を見れない。言い訳が喉の奥からせり上がってきた。『さっきのは雰囲気に呑まれてというか、自分でも意味が分からないんだ、忘れてくれ』『なーんてな、冗談だよ、冗談。これからも変わらずにいれたらいいな』

 喉元まで達したそれは、けれどすんでのところでき止めることに成功した。

 本当は分かってるんだ。夕焼けに麦わら帽子の千佳が夢と被って見えたから。だからそう、それは自然と口をついたんだ。


「祐司さん、上出来です」


 笑っていた。クスクスと。それは見慣れた顔だった。その大人びた笑い方は夢の千佳とはまた違う、それでもとても綺麗な笑みだった。


「それじゃぁ――」


「えぇ、もちろん」


 せっかくだ、遠出して海に行くのもいいだろう。その前にまずは水着が必要か。だったら県庁前駅のストリートでウィンドウショッピングだな。そうだ、たしか海って早く行かないとクラゲが出るんだっけ? だったら……明日って晴れだっけ、さっそく千佳を誘わなきゃ。ってなるとこれは俗に言うデートって奴になるんだろうか。

 ぱっと前が開けたような、そういう高揚感に包まれた。


「ふふ。そんな嬉しそうにして。そんなに自信なかったのですか?」


「まぁな」


 だってこんな行き当たりばったりの告白だぞ? 須藤よりはマシかもしれないが、夜景の見えるレストランでもないし、最高の告白とは決していえないだろう。


「ふふ。そりゃ誰だってこんなシチュエーションで、この雰囲気で、そんな告白されたらオッケーしちゃいます」


 家へと帰る、二人だけの夕焼け小道。辺りに人影はなく、今だけは、二人だけの世界だった。


「ですから、きっと小湊さんだって受け入れてくれますよ」

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