49.変わらないもの 二

 さてと。缶ジュースくらいならあったはずだ、千佳が戻ってくるまでに用意するか。


「なにもない……、か」


 見事にからだ。冷凍庫を開けば氷菓子があったが、それを食べながら課題は出来ない。もう一度なかを確認する。


「お、これがあるか」


 ソースの棚にレモン果汁の小瓶があった。天然水なんてものはないが、なにもないよりはいいだろう。ちゃちゃっと準備しておこう。

 戸棚を開け、普段はあまり出番がないグラスを二つ用意する。そこに水とレモン果汁を少々。氷を何個か落とし、ストローを挿せばレモン水の完成だ。

 千佳が戻ってきたのだろう、座卓に運んだところでちょうど玄関から音がした。そのまま座卓で出迎える。


「ただいま戻りました」


「おかえり。暑かっただろ?」


「あはは。この程度ならまだまだですよ、っとこちらは?」


 すとんと腰を下ろし鞄を置くと、不思議そうにグラスへ目を向けた。


「レモン水つくってみた」


「レモン水? ありがとうございます」


 手に取りストローを口にくわえる。コクリと喉が動き、氷が揺れた。


「どうだ?」


「ちょっと濃いめですけど……」


 目分量はマズかったか。


「そうか、ちょっと貸してくれ、薄めてくるわ」


「ふふ、それがまたこの暑さにはちょうどいいです。そうですね、氷が溶けたらほどよい感じになるでしょうか?」


「よかった」


 こういうのは好みの部分もあるし、それこそ運動後だとか飲むシーンにもよる。ぴったりだったなら一安心だ。


「ふふ、ありがとうございます。さて、さっそく始めましょうか」


「どれからやる?」


「では数学から手をつけましょう」


 それからはぶっ続けで課題の消化に費やした。アラームが五時を告げるころにはへとへとで、凝り固まった腰もバキバキと悲鳴を上げている。


「んー、終わった!」


 今日はもうこれで終わりだ、疲れた。


「おつかれさまでした」


「おつかれ」


 数学は一冊まるまる終わったし、途中となった国語のテキストは付箋を貼ってぱたりと閉じる。もう見たくない。

 千佳も、うーんと伸びをして体をほぐす。それからパラパラとテキストをめくり、進み具合を確かめに入った。


「いい調子です、早いうちに片付けましょう」


「あぁ、そうだな……」


 もしかして千佳は明日もやる気だろうか? こっちは二、三日くらい開けたいところだけど。


「さ、買い物に行きましょうか」


「あぁ、教科書とかそのまま横に置いといていいから」


 千佳もいちいち持ってくるのも手間だろうしな。


「助かります」


 千佳は戸締りをはじめ、俺も財布を取りに部屋へと戻り。二人並んで家を出た。

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