恋する人形のクリスマス

懐中時計

第1話

 日が暮れるのが早くなってきた今日この頃の季節。日もそろそろ高くなる時間帯とはいえ、寒さのためか道行く人々の足取りは早い。そのスピードに急かされるように、街は日ごとに華やかに飾り付けられていく。もう2週間も経てばクリスマスで、私のいる場所からは街の皆の手にこのデパートの袋が収まっているのを目にする機会が増えた。

 今も、私の目の前でプレゼントの算段をしている青年が一人。もう1時間くらいは悩んでいるかも。きっと彼女の分かしら、と思うと自然と微笑んでしまう。もちろん、見た目はいつものちょっと控えめですました笑顔から1ミリたりとも表情が動くことは無い。心持ちの話だ。

 だってショーウィンドウ越しに目があったマネキンが動いたら怖いでしょう?

 私はアンネ。デパート『シュヴァリエ』のエントランスのショーウィンドウから日々通りを眺めている、物言わぬ看板娘マネキンの一人だ。

 こんなふうに日々どんな人が来るのかと興味津々で通りを眺める私だが、毎週水曜日のマチネ―――つまりは今日を特別心待ちにしている。何故なら、彼がやってくる日だからだ。

 ほら、噂をすれば影。目の前に生成りのかわいらしい車が停まる。降りてきたのは仕立てのいい黒のコートと落ち着いた紺のマフラーをまいた男の人。乗ってきた車の横にはボルドーの洒落た書体でシュナイダーの文字。彼はその姓が示すとおりの仕立て屋で、うちのデパートに服を卸しているお得意さまである。名前は……まだ知らないけれど。何せここにいると、見たものしか情報がないから。

(……はあ、私の首がもう少し回ればいいのに)

 ポージングの関係で、そっぽを向いて微笑むことしかできないのが恨めしい。この角度ではすぐに彼は見えなくなってしまうのだ。マネキンの悲しい性としか言いようがない。

 結局この日も、文字通り一目見ただけで仕立て屋の彼はすぐに視界からいなくなってしまった。

 でも私はこれで満足。だってマネキンと人間の恋なんて、端から叶うことすらないのだもの。

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