第284話

「あいつに急患だって伝えてくれ…」

「…急患ですか?」

「最悪…命が危ない…」

「…命が?」

「いいから早く!」

「はっ、はい…!」

 受付の女の人は僕の体をみて疑いの眼差しで見てきたが、命が危ないと男の人が言うと奥の部屋に走っていった。すると、奥の部屋から血相を変えて聴診器を巻きつけた女の人がやってきた。

「…きゅっ、急患はどこ!?」

「…ここだ……」

「……ふざけてるの? それとも…昨日の仕返しのつもり…?」

「ちっ、違う! 本当に危ないんだって…!」

 その人は僕の顔を見るなり、男の人と喧嘩をし始めた。僕は隙をみて逃げるつもりだったが、女の人に捕まえられてしまった。

「まちなさい!」

「いや…あの…」

 あれ…この人…。どこかで…。

「…いい? 君はまだ若いんだから…こんなバカに付き合ってたら損するわよ…」

「……もしかして…ユリスさん?」

 アリスが大人になったらこんな感じなんだろう。僕は記憶の片隅にあった名前を呼んでみた。

「もしかしなくても…ユリスさんよ…。全く…。……一応見ておきましょうか?」

「…いや、僕は……」

 僕が再び逃げようとすると、女の人は注射器を手に取りチラつかせてきた。

「動かない…! あんまり動くと、間違って刺しちゃうわよ…」

「こいつは本当にやるから、気をつけろよ…」

「…はっ、はい……」

 僕はロボットのように動かなくなった。彼女は僕の体を確認しているようだったが、突然険しい顔になった。

「全く…。やっぱり、どこにもケガなんて………。…なに…これ……」

「…なっ? …いっただろ?」

「……ここじゃまずいわね…。自宅にいきましょうか…」

「じゃあ…先に行ってるならな…」

「ええ…」

 僕抜きでドンドン話が進み、まずいことになっていることに気がついた。

「いや…あの…僕は…どこも悪くなんて…」

「…あまり…妙な所にいくとでれなくなるぞ…。俺達の記憶の中からな…」

「……貴方達は一体…?」

「気になるならついてこい…。悪いようにはしないから…。さあ…いくぞ…」

 僕はトボトボと歩いてついていき、家の中に入った。リビングに行くと、仲良さそうに二人は写真に映っていた。


「……喧嘩中ですか?」

「……まっ…大人にはあるんだよ…」

「そっ、そうですか…」

 僕も大人なんだけどな…。

「それで…ここになにしにきた?」

「なに…とは…?」

「なにか目的があって来たんじゃないのか?」

「いえ…別に…。…気がついたらここに……」

 僕がそんな事を言うと男の人は頭を抱えた。そんな中、さっきの女の人は服を着替えて入ってきた。

「ただいま…」

「…おかえり……」

「…はぁ……。まさか…こんなことになるなんてね…。だから…私は…」

「まあ…その話はやめよう…。今はこの子の事だ…」

「そうね…。それで…その子の目的は?」

「特にないみたいだな…」

「…特にない? 特にないのにここにくるわけ…」

「えっと…少し説明させて下さい…」

 僕は今までの経緯をざっくりと説明した。倒さなければならない敵がいる事…。僕はその攻略法を探している事…。そして…黒いメモリーカードと白いメモリーカードを挿して、電源ボタンのような物を押したらあの切り株の前にいた事…。

 

「電源ボタンか…。その…ボタンを押す時に何を思った?」

「その時ですか…」

 特に何も思ってないと思うけど…。

「なんでもいいの…。些細な事でも…」

「いや…まあ…ゲームみたいだなって…」

「…ゲーム?」

「…ゲーム?」

 僕は僕の世界にあるゲームの事を説明すると、二人は頭を抱えだした。僕は戸惑っていると、男の人は話しかけてきた。

 

「つまり…ここをそのゲームだと思ったんだな…」

「まっ、まあ…」

「最悪ね…」

「すっ、すみません…」

「はぁ…」

「はぁ…」

「…どっ、どうしたんですか?」

 確かに人の世界をゲームだと思ったのは悪いと思い、謝ってみたものの二人は怒っている感じではない。僕には二人が頭を抱えている理由が全くわからなかった。二人は顔を見合わせた後に男の人は立ち上がり、本を一冊取ってきた。

「これは…?」

「まあ…おとぎ話だな…。俺が作った…」

「…あんまり売れなかったけどね……」

「…うっ、売れただろ!」

「…ふんっ!」

「……こっ、こいつ…!」

 二人は睨み合いを始めたので、僕は咳払いを一つして本を読み始めた。

「ごっ、ごほっん…。えっと…」

 話を読むにつれてわかってきた。これはおとぎ話などではなく、本当にあった話なのだと…。

 

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