第240話

「ぐっ…」

「大丈夫か?」

「なんとか…。でも、エリックを助けたの誰なんだろう…。こんなところに入れるなんて普通の人間じゃ無理だ…。空間移動でもしたのかな?」

 だとしたら、エリックが船内に急に現れたのも説明がつく。ただ…。

「わからん…。もしかしたら、そうかもしれない…。でも、移動先にこんな状態だったら動けない気もするけどな…」

「だよな…」

「…あっ!」

「どうした?」

 エリックは目を見開き急に大きな声をだした。僕は辺りを見渡したが、特に異常はなかった。

「思い出した…。水の魔法使いだ…。水で全身を覆ってた」

「…水? なにいってんだよ…。水なら更に感電するだろ? 見間違えじゃないか?」

「いや、そうでもない…。古い古文書で読んだことがある…。不純物のない水は雷をも通さないと…。あれは…精霊水だ…」

「…精霊水? まさか…。…ガセじゃない?」

 ゲームだと水属性は雷に絶対弱いはずだ…。多分…。

「…あるんだよ! ただそんなことのできる魔法使いがいるのかはわからんが…」

「…そんな珍しい魔法なのによく知ってるな」

「…ネズミの王だよ。関係ない話かと思っていたんだが…。いや、そうか…。だから、コビットの国と猫の国に…。でも、そうだとしたら…」

 エリックはアゴのあたりを触りながら下を向いた。何か考えているようだった。

「…ノスク、連れてきたほうがよかったかな?」

「…ん? ああ…。いや、あいつじゃ無理だ…。恐らく相当高度な魔法なんだ…。あいつじゃ邪念が多すぎる…。…お前も水の魔法なんて発動するなよ? 邪念しかないんだから…」

「そっ、そんなことないけど! まっ、まあ、解ったよ…。…ん? そろそろ地面が見えてきた」

 

 僕たちが地面に足をつけると昼のように明るく雷が辺りを照らしていた。

「全然、敵がいないな…」

「もしかすると、こいつは大規模なフィールド魔法なのかもしれないな…」

「…フィールド魔法?」

「俺が剣を作るときに参考にした魔法だ…。あれは次元階層を任意に変更して自らの戦いやすい場所に移動する…。高度な術式の一つみたいなんだが、この空間自体も雷魔法が発生しやすくなってるのかもしれない」

「でも、前に来たときと雰囲気は似てるけど…。別の次元…別の空間ってことなのか? そんな気がしないけど…」

 僕はもう一度辺りをみたが、ただの洞窟だった。雷が壁を伝ってとんでもなく流れている以外は…。

「…いっただろ? 任意だって…。普通は小さな空間しかできない…。MPや操作範囲の問題があるからな…。でも、相手は普通じゃない…。恐らく書き換えているんじゃないのか? この世界ごと…」

「書き換えてるって…。それって…かなりまずいんじゃ…」

「ああ、時間はなさそうだ…。奥に進むぞ…。道順は覚えてる…。トバすぞ…。ついてきてくれ…」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 僕はシャルからもらった黄色い薬をポケットから取り出して飲んだ。

「…どうした? ああ…薬か…。…大丈夫なのか? …それ?」

「まあ、ラタトスクは使えないなら飲むしかないよ…。以外にうまいな…」

 甘くパチパチと口の中で弾けるとシュワッとして口の中で消えてしまった。姿や形は変わらなかったが、さっきまで重りをつけていたような体が、軽快に動き始めた。

「効果はあるみたいだな…。それだけ動けるってことは…副作用も怖そうだが…」

「まあ、リカバリーは発動しておくさ…。…どうする? エリックも飲む?」

「…俺はやめとこう。近いことはできるからな…。…こっから先は戻れないぞ…。…準備はいいか?」

「ああ…。…いこう!」

 僕はエリックに道案内を任せて走りながら辺りを警戒して進むと、あの見覚えのある空間にでた。空間の中心から雷がとめどなく邪悪な光を放ちながら部屋中を駆け巡り流れていた。


「ここは…」

「…今度は誰だ?」

「お前はキメラ!? どこにいる!」

 僕はキメラの姿を探したがどこにも見当たらなかった。その時だった。

「なにか飛んでくる!」

 エリックの声に反応して前方を見ると、巨大なモーニングスターが壁をえぐりながら僕とエリックに襲い掛かってきた。

「くっ…」

 …危なかった。

「気をつけろ!」

 キメラは雷の中心から現れて、残念そうな顔をしていた。

「おしい…。もう少しで木っ端微塵に…。…ん? …おっ、お前達は!?」

「久しぶりだな…」

「もう一人はどこだ!?」

「……」

 …もう一人? ルアのことか…。

「まあ、いい…。今更、お前のコピーを作るなどできんからな…。お前達を利用して…。完全なる制御を…」

「黙れ、キメラ! 俺の三十年を返しやがれ!」

「ふんっ! それは私のセリフだ! お前の才能を伸ばしてやっただけだろう…。効率よくな…。なにを怒る必要がある? お前は道具…道具だ…」

「てめぇ…」

「お前には利用価値がある…。私の部下になれ…。新世界を作るのだ…」

「お前の作る新世界なんて死んでもお断りだ! もう一度、土に帰ってもらうぜ! いくぞ、アル!」

 エリックは変身して精霊のような姿になった。僕は返事をして二つの剣を抜いた。

「…ああ!」

「お前か…。お前に受けた屈辱だけは……。死んでも忘れられん…。やはり、我慢できんな…。…グゥアアアア! ……シネェエエエエエ!」

 強い雷撃が僕達を襲いかかった。僕は体を起こすと異変を感じた。


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