第207話

 僕は剣の柄を強く握り、静かにその時を待っていた。

「エルフの王国にしても、もう少し後で招待するつもりだったのに…。フォーが暴走して、エルフのお姫様をあんな姿で連れてくるから…」

「…無関係だとでもいうのか?」

 サーティスは顔を抑え、身体を震わせていた。

「ぐっふ…。ひゃひゃひゃっはははは…。そんな事はいわないよ。でも、ジャックである君にフォーは殺されちゃって…。…あれ? 殺したのは結局、リアヌスだったかな? そういえばリアヌスの姿が見えないなぁ…。どこかに隠れてるのかなぁ」

 僕は余所見をした瞬間、事前に剣にチャージしていた闇の力を使い、サーティスを叩き斬った。しかし、ダメージはないようだった。

「くそっ…」

「おいおい…。人が話してるのに斬りかかるなよ…。いくらあんなバカみたいな姿で殺されたからってさ…。ぐひゃはははは…」

「それ以上口を開くな…。お前だけは…。確実に殺す…」

「でも、いいのかな…。僕ちゃんを殺しても…」

「…今更、命乞いか?」

 サーティスはニタっと笑うと、妙なディスプレイを発動させた。そこにはシャルやエリック、ノスクにゼロとユキが映っていた。

「僕ちゃんを殺せばヘルが暴走して、国中を飲み込む…。君がせっかく塞いだのにね」

「なっ!?」

 こいつ、気付いていたのか!?

「気付いてないと思ってたのかい? 放っておいたのは、その方が面白そうだったからだよ…。君達が頑張って魔族を助けているのに…。無駄だったね…。残念…。ぐへっ…。ぐひゃはははは…」

「お前…何がしたいんだよ…。仮にも魔族の王だろ!?」

「そんな事はどうでもいいんだよ。僕ちゃんは魔王…。好きなときに好きな事をして、嫌いなものは全て消してもいいんだ。君はわりと面白そうだから、…僕の仲間にならないかい?」

「断る!」

 サーティスはどこからか大きなカマを取りだした。

「そうか…。…なら、僕のコレクションの方に入ってもらおうかな!」

 サーティスは目くらましの火花を僕の目の前にちらして高速で近づいてきた。

「ぐっ…」

「ひゃっはははは!」

 僕は瞬時にラタトスクを発動させ、相手の動きを少しスローにした。そして、追尾ミサイルのようにサーティスを追わせた。

「…いけっ!」

 こういうやつに対しては基本的には目を頼りにしてはいけない。だが、それでも見えない攻撃をかわし続けなければならない…。

「ひゃっはははは…。…ん?」

 僕は土の魔法と風の魔法を発動し、自身の周りに砂嵐を発動させた。

「……」

 ここからだ…。

「君も目くらましのつもりかい? …それとも、僕ちゃんの位置を正確に掴むためかい? でも、これじゃあ位置がバレバレだよ!」

 大きなカマが目の前に回転しながら現れ僕の体に突き刺さった。

「ぐはっ…」

 僕は竜巻をとめてリカバリーを開始した。サーティスは僕の体にゆっくりと近づいた。

「…おや? おやおや? 一発、大当たりだ!」

「ぐっ…」

 サーティスはゆっくりと僕の体に突き刺さったカマを握った。サーティスは僕の体を見て、にっこりと笑った。

「ぐひゃはははは…。…これで君も僕の仲間だ!」

「やめっ…」

 僕の体は真っ二つに切り裂かれた。

「ひっひっひ…。なかなか面白い余興だった。次はリアヌスの番だ。リアヌスはなるべく無傷で手に入れたいなぁ…」

 …いまだ! …ヴェズルフェルニル発動!

「ふぅ…。成功だ…。サーティス…。まだ俺の番は終わってないぜ…」

 サーティスはさっと後ろに引いた。

「…なぜ、それで生きていられる。回復魔法か!?」

「はははっ…。回復魔法じゃないよ…。そもそも回復する必要がないし…」

 僕はドゥラスロールで発動した精密に作った自分の体を消し、透明化を解除した。

「…なんだその魔法は!?」

「なんだっていうことは、サーティス…。お前もすべてを知ってるわけじゃないみたいだな?」

「…ひっひっひ、なかなか面白いことしてくれるじゃないか。まっ、僕ちゃんと似たようなことが、できるってわけね…。でも、惜しいことをしたね…。折角、僕ちゃん実体化してたのにさ…。僕ちゃんを斬っていたら倒せたかもしれないよ? …ひゃっはははは!」

「……」

 サーティスはカマを床に落とした。フロア中に金属音が響き渡った。

「…あ?」

「ああ…。だから、お前をここに固定したんだ…」

「…なに?」

 ヴェズルフェルニルは空間を部分的に固定することができる。絶対的な防御力を誇る盾にもなるが、相手を閉じ込める檻にもできる。

「お前はもう逃げられない…。いくら主要の臓器を異空間に隠していても、今のお前をすべて消し炭にすれば…。…どうなるかな?」

 僕はニヤッと笑った。

「ふっふっふっ…。ひゃっはははは…。……やってくれるじゃねえか! このクソガキがぁあああ! 生きてることを後悔させてやるよ!」

「それはこっちのセリフだ…。まっ、洗脳を解いたあともクソ野郎で安心したよ…」

「…洗脳だと? 俺が洗脳されてるとでもいいたいのか!? この俺がぁあ!? この俺を動揺でもさせたいのか!?」

 サーティスは基本的に変わってないが、部分的に少しいじられていた形跡があった。

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