第138話

「ああ…」

「おっ、おい! 相棒、くっつくなって…。男同士で気持ち悪いだろ!?」

「いいだろ! さっきお前だって抱きついて…。…なっ、なんだこの光? …ルア!? どうしたんだ!?」

 ルアの方を見るとキラキラと輝き、段々と姿が薄くなっていった。ルアは自分の手が透けていくのを見ていた。

「あちゃー…。そろそろ時間ぎれっぽいな…」

「…おっ、お前! かっ、体が!?」

「心配するなって多分相棒の体に戻るだけさ…。相棒がきたから戻る力が強まったんだろ…。…ってそんな泣きそうな顔するなよ」

「ルア…」

「相棒、消える前に聞いてくれ…。俺が今まで消えなかった理由…。それに関していえばよくわからないんだ…。でも、理由があるとすればこれぐらいなんだけど…。これ…なにかわかる?」

 ルアは白い包帯を解いて、右手をあげて黒い鎖を見ていた。

「…鎖?」

「…相棒も覚えてないのかよ?」

 ルアは左手で鎖を外すと、とてつもない黒いオーラがルアの右手から噴出した。

「…なっ、お前、更に消えて!?」

「…やっぱり、早まったか。…ほいっ! 相棒これやるよ」

 ルアは鎖を僕の右手に置き手を強く握った。

「……」

「相棒、きっとこれが役立つはずだ…。...俺はちょっと先に戻るけど、この世界のこと救ってくれよな…。…頼んだぜ!」

 僕は泣きながらルアを抱きしめて言った。

「俺たちは一緒だ…。一緒に世界を救うんだ…」

「そうだな…。相棒…」

 その言葉の後に抱きしめた感触は消え、ルアは笑って消えた気がした。そして、鎖だけが手元に残り僕は鎖を強く握りしめて誓った。

「……絶対だ。…絶対に世界を救ってやる!」

 鎖は僕の言葉に連動するように右腕に巻きつけられると、ステータス画面が勝手に開き音声が流れ始めた。

「スキルポイントが全て消費されメランコリーライフが変異しました。新スキル…ディナイアルグローリー…。…詳細を確認されますか?」

「…ああ、みせてくれ」

「…了解しました」

「……これは一体?」

 そこにはなにも書いていなかった。青い画面にはすけた床が見えるだけだった。

 いや、なにかあるはずだ…。もしかしてこの鎖を取ると…。

 僕は鎖を外そうとすると、扉をノックする音が聞こえたので一旦中断した。振り返ってみると部屋に入ってきたのはエルフの王様だった。

「アル殿、色々と資料を持ってきたぞ…。…ん? …なっ、泣いておるのか?」

「いっ、いえ…。資料を拝見させて下さい…」

 僕は左腕で目をこすり涙をふき立ち上がった。

「わかった…。なにかあったらすぐにいいたまえ…。会談まであと少しだ…」

「はい…」

 時間がない…。今はこっちに集中しよう。どうせこれを使うときは…。

 僕は右腕を少し見た後、机に置かれた資料を手に取り読みこんでいった。


「入るよ…。アル殿、そろそろ時間だ。準備はいいかな?」

 ノックの音と共に扉が開き声がすると、そこにはエルフ王としょんぼりしたアリスが立っていた。

 早いな…。もうそんな時間なのか…。

「はい…。会場に行きましょう」

「アッ、アル…。その…」

 ドレスを着たアリスはおどおどしながら僕に近寄ってきた。

「アリスは悪くない…。多分、俺でも信じられないよ…」

「ちっ、ちがう。そっ、そうじゃなくて…」

「…ん? まあ、後でゆっくり話そう。時間もないみたいだしさ」

「……うん」

 僕はエルフ王とアリスと共に長い廊下を歩いていき会場に向かったが、僕はその間一言も話さず思考を張り巡らせていた。


「……」

 整理しよう。…使えるカードは五枚。


一つ目は《ブラフ》…僕は弱くなった。だが、奴らも簡単には手出しできない。なぜなら、黒い魔物を倒した実績がある。...これは議事録を読む限り、どうやらドラゴン達にバレている。それならそれで堂々と不敵に笑ってやればいい。


二つ目のカードはドラゴンの王国に恐らく存在している黒い魔物と黒騎士を倒すという《契約》…これはかなり強力なカード。しかし、それと同時にブラフがバレたとき勝負は当然負ける。だしたくはないが、ださざるを得ないカードだ。


「ねえ…アル?」

「……」


 三枚目のカードは《追求》…奴らは複数の嘘をついている。だが、それを深く追求してしまうと、こちらが追求されてしまう…。話を誤魔化したいときにでも使おう。


四枚目のカードは《嘘》…これは虚勢を張るために誇張するブラフと違って真っ赤な嘘だ。一番だすタイミングが難しい。


「ねえ?」

「……」


 そして、最後のカードが《エリック》…これは正直だしたくはない。なんたって、エリックを巻き込むことになる…。それに…。


「ねえ、アルってば!」

「……」

 まあ、これで勝てなきゃ終わりだな…。あとは…。

「…ぶつかるよ!」

「…えっ?」

 僕は思いっきり壁に頭をぶつけて階段を滑り落ちて膝をついた。

「だっ、大丈夫!?」

「うっごぉおおぉ…。いっ、痛くないけど…。気持ち的に痛い…。…なっ、なんで止めてくれなかったんだ!」

「とっ、とめたじゃない! 階段なのにアルがボッーとして歩くからでしょ!」

「そっ、そうだけどさ…」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る