第99話
「…そうだ」
「そっ、それって犯罪じゃ…」
「…そうだな……。立派な犯罪者だ…。…やめて帰るかい?」
僕がビビりながらシオンさんの顔をみると、冗談を言っているような雰囲気ではなかった。
やめて帰るか…。それもいいか……なんていう選択肢はないんだけどな…。
「やろう…。やらなきゃだめだ…」
僕が決意してそう言うと、シオンさんはニコッと笑って僕の方を見た。
「ふっ…。そういうと思ったよ。ただ…わかってるとは思うが、捕まった時に一番リスクが高いのは君なんだ。もう一度、自分の為に考えてほしい…。本当にやるんだね?」
考えるまでもない…。
「はい…。いきましょう…」
「わかったよ…。ただ…問題は三つある」
シオンさんは三本指を立てて、立ち上がった。
「…三つ?」
「まず一つ目にこの国に入る事だ。さっきの正確な攻撃…。なんらかの方法で私達の動きが探知されているとしか思えない」
「なるほど…。…あとの二つは?」
「仮に入れても自由に活動できないってことだ。ドワーフの国で私達の姿は目立つ。そして、捕まれば…。…君だけ助からない」
シオンさんは僕の肩をポンっと叩き、更に真剣な目で僕をじっと見つめ、少し間を開けて答えた。
「おっ、俺だけ!?」
「…君だけはエルフの王国やコビットの国や猫の国と関わりがある事をいえない。…意味はわかるだろ?」
「…確かにそうですね」
…四天王を倒したからか……。
「だから仮に行動するにしてもネズミの王を倒すとき以外は別行動だ。捕まったときも私達は助けられない。どんな拷問を受けていようと…。…いいね?」
シオンさんがそういうとアリスとシャルは怒った様子でシオンさんを責めた。
「シッ、シオンさん! なにいってるの!? アルは私の国を救ってくれた! そして今度はこの国や猫の国を救おうとしてるんだよ! 私は絶対に助けるからね! ねっ!? シャル!」
「そうだよ! アルがいなかったら私の国なんかもうなくなってたかもしれないんだよ! 私も助けるよ!」
シオンさんは頭を触理ながら、複雑そうな顔をして答えた。
「…なんだか私だけ悪者みたいだな。でも勘違いしないでほしい…。アルが捕まれば本当は助けたい…。アルには希望をもらったんだ…。それでも…それでもだ…」
このままじゃシオンさんが可哀想だ。ここは僕がいっておこう。
僕はシオンさんとアリス達の間に立った。
「アリス、シャル…。…シオンさんのいう通りだ。もし捕まっても助けなくていい」
「そんな事できない!」
「そうだよ!」
仕方ない…。ここまで巻き込んでるんだし…正直にいうか…。
「…実は隠してたんだけど、魔族の国の四天王を二人倒したんだ。幸いまだバレてないけど、俺と接点があれば最悪戦争になる。シオンさんはそれを気にしてるんだ…」
「そんな嘘いっても…。…え? …ほっ、ほんとなの?」
「…えっ? …嘘だよね?」
シャルとアリスをみると目をパチくりさせていた。
「…俺が嘘いってる顔に見えるか?」
「ええーー!!!」
「ええーー!!!」
「まあ、そういう事だから俺のことは助けなくていい」
アリスは思いっきり声をあげたあと、今度は急に黙り込んだ。アリスはなにかを考え込んでいるようだった。
「ちょっ、ちょっと待って…。もしかして…私が襲われた事と関係あるんじゃ?」
こいつ…感がいいな…。まあそこは黙っておこう…。
「いや…ないよ…」
「嘘ついてる…。そっか…私のせいで…」
「いや、だから関係ないって…」
「アルって嘘つくと顔にでるのよね…」
アリスは落ち込んだ様子で僕の顔をまじまじと見つめた。僕は両手を広げて慌てて否定した。
「なっ!? そっ、そんなことはないって…。 …なっ? シャル?」
「わっ、わたし!? …うっ、うん! そうだよ! ででな…。ごめん…。わかりやすいくらいでてる…」
「うっ、うそだろ?」
「正直に答えて!」
大きな声をだして、アリスは僕に詰め寄ってきた。
…バレてるならしょうがない。
僕はため息をつきながら言い訳を考えたが、このどうしようもない状況に諦めて答えることにした。
「はぁ………。いや…まあ…そうだよ…」
「やっぱり!」
「やっぱり!」
「やっ、やっぱりって…。…カマかけてたのか!? 二人して!?」
僕が驚いていると、シャルは苦笑いして答えた。
「ごっ、ごめんね。でも、話し方でなにか隠してるなとは思ったんだよ」
アリスはもよ凄い剣幕でさらに僕に近寄ってきた。
「なんでそんな事になったの! あのゴブリン達のせい!? まさか、あのゴブリン四天王の手先だったの!?」
ほんと鋭いな…。というか…。
僕は逃げ場所がなくなり倒れそうになったので、アリスの肩を押して離した。
「ちっ、近いって…! はぁー…。そうだよ…。アリスを誘拐しようとしてたゴブリンを倒したせいで四天王の一人がきたんだ。そして、そいつを倒したせいで二人目も倒すことになった。三人目はこなかったけど…」
「なっ、なんで四天王なんかと戦ったの! もしかして、ゴブリンを貴方が倒したことがバレたの?」
「いや、バレてないけど…」
「じゃあ、なんで!?」
僕はうまい言い訳を考える為にアリスから目をそらした。そんな言い訳がすぐに思いつくほど器用ではなかったが…。
「…なんで? なんていうか…。むしろ、バレてないのが問題というか…」
「どういう事なのよ! 正直に答えてよ!」
ふと、アリスの方を見ると、いつの間にか泣きそうになっていた。
「…わっ、わかったよ! 信じてもらえるかわからないけど…俺は未来を予知できるんだ…。あのとき、四天王を倒してなければ俺たちが泊まった村が滅ぼされていた。仕方なかったんだ…」
「よっ、予知って…。…どういう意味? ほんとに未来をみれるの?」
「そうだよ…。まあ…未来を変えちゃったから、今は見れないんだけど…」
僕がそう答えると、しばらく沈黙が流れた。流石にこんなふざけた話は嘘だと思われたのかもしれない。
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