生き止まりの向こう側
菅井カワツゲ
第1話 プロローグ~返信1ページ目~
「お元気……です……か?っと」
手紙というものを書くのは、いつ以来だろう。
確か小学生の頃、友達にバースデーカードを書いたっきりだ。
拝啓、みたいにかしこまった方が良いのかな。
書き出し以降の文章が思い浮かばず、手持ち無沙汰になった私は、
シャーペンをカチカチとノックしながら窓の外を見た。
数人の子供達がわいわいと遊んでいる。
最近は気温も随分と上がり、制服の上から羽織るカーディガンも要らないくらいだ。
私には不釣り合いな真っ白のカーディガン。
中々落ちないシミに、とても愛着を感じていた。
机に向かってから大して時間が経っていないが、疲れた気がしてグッと伸びをする。
「今日は何してんのかなー?」
「えっ、なんでも無いよ」
「あっ!なんか隠した!また勉強でもしてんのかと思ったのに……見せろー!」
「ちょっ、くすぐらないで!本当に笑い止まらなくなるから!」
急に声を掛けられ、驚いて反射的に便箋を隠してしまった。
同級生のユリちゃんは、とても人懐っこくて、いつも私に話しかけてくれる。
そんな屈託の無いユリちゃんとの当たり前の、でも私にとっては特別なやりとりが嬉しかった。
「今日の所はこれで許してあげよう」
そう言ってユリちゃんは、私が机の上に常備していたチョコ菓子を一つ摘まんだ。
息を切らしながら私も一つ食べる。
「ありがと。それにしても庭の桜、今年も凄いよね」
「でしょ!あのでっかい桜の木がここの唯一の自慢だよね」
数えきれない程の枝から、雨の様に花びらを降らし続けている。
確かに、ここら辺では一番迫力がある桜で、その美しさに私は一目で惚れてしまった。
ユリちゃんが目を細めて窓の外を眺めている。
「あの桜を見てるだけで、春の匂いがする気がしない?」
「ユリちゃんの口から、そんな文学的な台詞が出てくるとは思わなかったよ」
またくすぐられながら、私は泣きそうになっていた。
友達がいる事に、普通の日常に、生きている事に。
楽しい事を楽しいと思える事がこれほど素晴らしいなんて。
早くこの気持ちを伝えなきゃ。
でも桜の話はちょっと嫌味かな。
まぁそれでもいいか。
今は素直な気持ちを伝えたい。
「ほら!松岡先生、呼んでるよ!散らない内にお花見しとこうよ!」
「後で行くから、先に行ってて」
お菓子とジュースを持ってくる、という条件で交渉は成立した。
これで手紙の続きが書ける。
見られたくない訳では無いが、見せるようなものでもない。
誰にでも秘密はあるのだ。
「えーと、では……思い出……話でも……」
さっきまで手持ち無沙汰だった私の手は、嘘の様にすらすらと思い出を便箋に綴っていった。
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