第45話 雑な青春

 「私」は高校生で、考え事をしながら駅へ向かって歩いていた。


 このごろ近所の喫茶店メーテルリンク(仮)が駅前通りに2号店を出店した。2階の壁に大きな看板が見えてきた。しかもデジタルサイネージだ。


 表示されているのは、新商品でカップに入ったデザート。色違いで3種類ある。

 カップに蓋をするみたいに丸く盛り上げられたクリームが可愛らしくて美味しそう。

 画面の中で、クリームのかたまりはまるで小動物のように、もっちもっちと動きはじめた。かわいいけれどやりすぎだと思った。


 駅前に着いた。まるでファッション雑誌に出てきそうな、ちょっとおしゃれなカフェがある。


 通りに面したクリーム色の壁に、チョコレートソースを思わせる褐色の線で、筆記体のアルファベットで何か書いてある。たぶんそれが店の名前だ。


 私は駅まで来た用事を思い出せなくて、そのまま引き返した。


 考えごとをしている間に、メーテルリンク2号店(仮)までも通り過ぎてしまった。せっかくだから、二つの店のどちらかでコーヒーでも飲んでいけばよかったかな。



 考え事は何かと言うと、クラスの男子のことだ。

 私の前の席にちょっと器量よしの女子がいて、彼女の隣の席の男子に告られていた。

 彼の後ろの席の男子……つまり私の隣の男子はそれを知ると、対抗意識なのか何なのか、

「じゃぁ俺は君と付き合おうかな」

 と言ってきたのだ。


 「じゃぁ」ってなんだ。


 この男子はなんだか私を好きと言うよりとにかく「女子と付き合う」と言う経験をしてみたいようだった。

 誰でもいいなら何で私なのか。

 もっといわゆる量産型みたいな子のほうへ行くものではないのか。


 しかし私も私で、この男子を好きだとか、一緒に何かしたいというのは特にないけれど、「男子と付き合う」と言う経験をしてみたいような気もする。

 イエスと答えて良いものやら。


 こんな経緯だけれど、一応「交際を申し込まれたこと」自体が面白いのだった。


 歩いているうちに目が覚めた。




(了)

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