286話―黒大陽の三銃士・ゾーム襲来!
「さぁて、まずはギア・ド・ラーヴァを復活させるとするか。いくぜ……
「なんだ? あの野郎、大鉈をぶん投げやがったぞ」
ゾームは左手に持っている大鉈を、ギア・ド・ラーヴァに向かって投げつける。鉈の刀身が鮮やかな緑色に染まり、ぐるぐる回転しながら飛んでいく。
半ば機能停止しかかっているギア・ド・ラーヴァに突き刺さると、刀身に宿る緑色の魔力が注ぎ込まれる。すると、冷え固まりかけていたマグマが、熱を取り戻す。
「あいつ、でけえ奴のマグマを!」
「どうだ、驚いたか? オレはこの大鉈に、魔法効果をエンチャントすることが出来るのさ! ギア・ド・ラーヴァ、あのガキんちょ以外を相手しろ! いいな?」
『命令受信。ターゲットを確認、ロックオン。生命反応が途絶えるまで攻撃を行います』
ゾームはリオとそれ以外を分断し、
「ちょっ、はや……わっ!」
『ターゲット、排除、排除、排除……』
目にも止まらぬ速度でクイナに接近し、ゾームは腕を掴んでアイージャたちの方へとぶん投げる。ギア・ド・ラーヴァは完全復活を遂げ、八人に襲いかかっていく。
「チッ、面倒な……。リオよ、こやつは妾たちがなんとかする! そなたはその山羊仮面を!」
「うん、分かった!」
完璧に分断されてしまい、リオの救援に向かえないことを歯噛みしつつアイージャはそう叫ぶ。マグマを纏う巨人の相手を仲間に任せ、リオはゾームも向かい合う。
もう一本大鉈を作り出し、再度二刀流の構えを取りながらゾームはニヤリと笑った。頭を覆う山羊の頭蓋骨の向こうから、爛々と光る目がリオを覗いている。
「さぁて、これで邪魔者はいなくなったな。存分に
「ガキんちょじゃない! 僕にはちゃんとリオって名前があるんだぞ! 出でよ、飛刃の盾!」
ガキんちょ呼ばわりしてくるゾームに腹を立てつつ、リオは飛刃の盾を呼び出しシールドブーメランをお見舞いする。それを見たゾームは丸太のように太い腕を振るい、盾を真っ二つにした。
「へっ、こんなのがガキんちょの攻撃なのか? 手ぬるいな。攻撃ってのはな、こういうもんだぜ!」
「なんの、てやっ!」
そう叫ぶと、ゾームは猛スピードでリオに突進し、身体ごと大鉈を振り回し回転斬りを叩き込む。リオは紙一重で避け、ゾームの身に付けている胸当てに拳を打ち込んだ。
が、ゾームは大木のごとくビクともしない。素肌の上に直接胸当てを着けている都合上、ダイレクトに衝撃が伝わっているはずなのに平然と笑っている。
「き、効いてない!?」
「なんだぁ、今のは? なってねえな、パンチっつーのはよ……こういうもんだぜ!」
「うわあっ!」
大鉈を頭上に放り投げ、右手を握りゾームは勢いよくパンチを放つ。至近距離にいたリオは攻撃を避けきれず、パンチをモロに食らってしまう。
あばら骨が砕ける感触と、激痛がリオに襲いかかる。このまま追撃を受けるとマズいと直感で悟り、ゾームの顔面を蹴りつけて無理矢理離脱した。
「うっ、げほっ……。凄く痛い……でも、もう治ってきてるね。このピアスの力、凄いなぁ」
魔神の再生能力で負傷を治し始めたリオの右の耳につけられたイヤリングが輝き、治癒の力が発動する。元の再生能力と合わさり、あっという間にあばら骨は元に戻った。
心の中でエルシャとミリアに礼を言っていると、落ちてきた大鉈をキャッチしたゾームが再び攻撃を仕掛けてくる。両手に持つ大鉈に炎を宿し、斬撃を繰り出す。
「
「そうはいかない! コールド・ストーム!」
リオはジャスティス・ガントレットの力を発動し、冷たく湿った嵐を呼び起こし炎を消そうとする。凍えそうなほど冷たい突風にあおられ、ゾームの突進速度が少し落ちた。
それでも、大鉈に宿る炎は勢いがほぼ変わらず、轟々と燃え続けている。この攻撃で炎を消すのは無理だと判断し、リオは回避に専念し相手の出方を窺う。
「くっ、このっ……」
「ほらほら、どうしたどうした! 避けてるだけじゃ、オレには勝てねえぜ!」
ゾームは己の身の丈ほどもある大鉈を軽々と振り回し、リオを追い詰めていく。逃げ道を塞ぎ、退路を限定することで狙い通りの場所へリオを誘導する。
その熟練の業に、リオは翻弄されながらも活路を見出だそうとする。そんな彼を仕留めんと、ゾームはさらに大鉈に属性を付与し、左右から挟み込むように得物を振るう。
「そろそろトドメを刺してやろう!
リオに接近しながら、ゾームは大鉈を振り下ろす。リーチは恐ろしいほどに長く、後ろに下がっても逃げ切れないだろう。かと言って、上下に逃げても即座に追撃される。
逃げ道がないならば、リオの取るべき手段はただ一つ。破槍の盾を呼び出し、ゾーム目掛けて真っ直ぐ突進していく。イチかバチか、正面突破を狙い腕を突き出した。
「食らえ! バンカー・ナックル!」
「ぬっ……ぐおっ!」
すでに攻撃動作に入っていたゾームはリオの反撃を防げず、直撃を受ける。まさか逃げずに突撃してくるとは思っていなかったらしく、渾身の一撃を受け胸当てが砕けた。
「ぐうっ……やるじゃねえか。まさか逃げずにたちむかってくるたぁな。……なるほど、ただのガキんちょじゃあねえなぁ」
「どのみち逃げ切れなさそうだったからね。だから、望みを賭けて攻撃したのさ」
打ち出された短槍はゾームの胸部を傷付け、血を流させることに成功していた。流れ出る紫色の血を見下ろしながら、ゾームは感心したようにそう言う。
不利な状況でも逃げることなく、あまつさえ反撃し自分を返り討ちにしてみせたのだ。何故主君であるグランザームがリオを高く評価しているのか……彼も理解した。
「なるほどな。グランザーム様がお前を気に入ったワケ、理解出来たぜ。これじゃあもう、お前をガキんちょだなんて呼べねえなぁ……リオ」
「やっと名前で呼んだね。ここからは僕が反撃する番だよ、ゾーム!」
「やってみな!
ゾームは大鉈に宿らせていた炎と雷を消し、今度は大鉈全体を分厚い樹皮で覆う。ささくれだったギザギザの刃へと変わり、斬られれば酷い傷がつくだろうことを予想させる。
樹皮を纏ったことでリーチも格段に伸び、五メートル近い長さに変貌していた。ここまで来れば重量も相当なものだろうが、ゾームは全く苦にしていないようだ。
「さあ、選ばせてやるよ。力任せに叩き潰されるか、尖った刃でバラバラにされるかをな!」
「僕としては……どっちもごめんだね!」
リオはもう一つ破槍の盾を呼び出し、両手に持って構え突撃する。遠距離から攻撃しても、リーチに勝る大鉈でいいようにめった斬りにされてしまうだけ。
ならば、あえて相手の懐に飛び込み、攻撃する間もなく仕留めるのみ。リーチが伸びるということは、それだけ懐に潜り込んだ相手へ対処する能力が落ちるということでもあるのだ。
「食らえっ!」
「フン、魂胆は見えてるぜ。どうせ、リーチの長さを逆に利用してやろうってんだろ? 甘いな、その程度じゃオレは倒せねえぜっ!」
「あぐっ!」
ゾームは飛び込んできたリオに膝蹴りを叩き込み、吹き飛ばした後大鉈を振るう。リオは咄嗟に盾で防ぐも、衝撃を殺しきれずさらに吹き飛ばされてしまった。
「やったな……もう許さないぞ! こっちも本気を見せてやる! ビーストソウル……リリース!」
リオは獣の力を解き放ち、本気を見せる。戦いは、まだ終わらない。
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