198話―咲き誇れ、逆転の花
(この窮地を脱するには……まずは、呼吸を確保する!)
勝利への希望を見出だしたダンスレイルは、水と泥の牢獄から脱出するため行動を開始した。全ての力を右腕に集中させ、泥から引き抜く。
そして、勢いをつけて己の喉に指を突き刺したのだ。ダンスレイルの行動を見て、ノウケンとダイマンは目を丸くして驚く。
「お~? あいつ何をしてんだぁ~?」
「あらあら。可哀想に、息が苦しくてとうとうおかしくなっちゃったのねぇ……!?」
ダンスレイルが自決を選んだのかと思っていた二人だったが、直後に起きた異変を見て固まってしまう。指が引き抜かれるのと同時に、ダンスレイルの喉からつるが生えたのだ。
つるは水分を吸収して勢いよくにょきにょきと伸びていき、牢獄の外に先端が飛び出た。つるはストローのように中が空洞になっており、ダンスレイルに新鮮な酸素を供給する。
(これで呼吸は確保した。息さえ出来れば……この程度の傷、すぐに再生出来る!)
逆転の奇策によって呼吸が出来るようになったダンスレイルは、全ての魔力を肉体の再生に集中させる。失われた片翼が復活し、活力が戻っていく。
それを見たノウケンはようやく我に返り、慌ててダンスレイルに斬りかかる。大鎌をひるがえし、ダンスレイルが牢獄から脱出する前に仕留めんとするが……。
「外には出させないわよぉぉぉ!!」
『残念……もう、
ノウケンの大鎌が届くよりも早く、ダンスレイルは翼を広げ、水の抵抗に逆らい力強く羽ばたき牢獄から脱出する。ダイマンは腕に土の大砲を装着し、ダンスレイルに向ける。
「逃~がさんぞぉ~。撃ち落としてやる~!
「ふっ、遅いね。そんなものはこうするとしよう。出でよ、花刃の斧!」
ダンスレイルは右手を突き出し、一振りの斧を作り出す。柄から斧刃まで全てが樹木と大輪のヒマワリの花で作られた、ノウケンたちに対抗する切り札だ。
花刃の斧を振り、ダンスレイルは自分に向かって飛来してくる岩石の砲弾を真っ二つに切り裂いた。それを見たノウケンは舌打ちをしつつ、再び水の縄を伸ばす。
「キィ~! また捕まえてあげるわ! 大縛水縄!」
「おっと、今度はそうはいかないよ。フラワーシェルター!」
自身に迫ってくる水の縄を見ながら、ダンスレイルは花刃の斧を分解し花びらで身体を覆う。縄が花びらにぶつかると、水分が吸収されていく。
「ふふっ、クイナから聞いた通りだ。水生木……水は木の成長を助け生かす。私の方が有利というわけだ」
「くうぅ~、ムカつくわねぇ! こうなる前に仕留めておきたかったのにぃ~!」
相性の悪さ故に、逆転される前に
「さあ、今度は私の番だ。今まで好き勝手やってくれた分、お返しをしてあげよう! ビーストソウル……リリース!」
花刃の斧を消失させ、ダンスレイルは魔力を集め緑色のオーブを作り出す。フクロウの化身となった彼女は、両腕をクロスさせ二振りの片刃の斧を作り出した。
「さあ、反撃開始だ!」
「あぐっ……」
「よくもノウケンを~! 許さないぞ~!」
急降下したダンスレイルは勢いよく斧を振るい、ノウケンを吹き飛ばす。相棒を攻撃されたダイマンは怒りをあらわにし、腕に土をまとわせ突進する。
ダンスレイルはひらりと宙返りしてダイマンの鉄拳を避け、後頭部に蹴りを叩き込む。体勢を崩したダイマンに斧を叩き込もうとするも、復帰したノウケンに阻止される。
「これ以上はやらせないわよぉ! 相性は悪くても、二対一な分アタシたちが有利よ!」
「それはどうかな? 教えてあげよう。魔神を相手に、単なる数の差では有利を取れないということを! シードマシンガン!」
ノウケンの言葉にそう返し、ダンスレイルはふわりと空中に浮き上がる。翼を広げ、魔力で作った無数の種子をノウケンとダイマン目掛けて発射した。
全身に種子を浴びた二人は身構えるも、特に何も起こらなかったためすぐ警戒を解いた。ただのこけおどしだと判断し、ダンスレイルへの攻撃を続行する。
「おほほほ! 驚かしてくれちゃって、ただのこけおどしじゃない。こんなもの、アタシたちにはどうってことないわ! 鋭刃水禍円月斬り!」
「このまま仕留めるんだなぁ~!
二人はそれぞれの必殺技を放ち、ダンスレイルを仕留めようとする。が、その直後――二人の身体を異変が襲った。植物のつるが皮膚を突き破って全身に伸び、絡み始めたのである。
「ちょっと、何よこれ! 気持ち悪いったらありゃしないわ!」
「うおお、動きにくい~」
つるはノウケンたちの身体に絡み付き、動きを制限する。ダンスレイルはニヤリと笑いながら地に降り立ち、二人をからかうように声をかけた。
「どうだい、動きにくくて仕方ないだろう? さっきの種子は、君たちが攻撃するとつるが伸びるようにしてあってね。こんな風に……絡み付くのさ」
「あらあら、この程度で勝ったつもりかしら? 動きを制限したところで、有利になるわけじゃ……!? な、なによこれ!?」
「おや、気付いたかい? ま、今さら遅いけどね」
ノウケンはふと大鎌が軽くなっていることに気付き、手元を見て驚愕の表情を浮かべる。刃を形成している水が半分ほど減っており、刃がボロボロになっていたのだ。
ダイマンもダイマンで、腕に纏っていた土が乾燥して、ヒビ割れ、ポロポロと剥がれ落ち初めていた。驚いている二人に、ダンスレイルは愉快そうに種明かしをする。
「おやおや、何を驚いているんだい? 木克土……木は土から養分を奪い痩せさせる。水生木と合わせれば、君たちをまとめて無力化するのはわけないのさ」
「くうぅ……!」
ノウケンはダンスレイルにまんまとしてやられ、悔しそうに歯軋りをする。ダイマンはつるをひきちぎって拘束から逃れようと足掻いくも、次々と生え変わるため無意味に終わる。
「さて。そろそろリオくんに追い付かなきゃいけないし、二人纏めて仕留めさせてもらうとしよう。……覚悟はいいかな?」
「黙りなさぁぁい! こんなところでぇ、やられるわけにはいかないのよぉぉぉぉぉ!!」
もはや高い声を出す余裕もないらしく、ノウケンは野太い声で叫びながらダンスレイルに斬りかかる。が、動きを制限されているせいで思うように動けず、あっさりかわされてしまう。
それどころか、斧によるカウンターを食らい、右肩を切り裂かれてしまった。苦痛の呻き声を漏らすノウケンをダイマンの方へ蹴り飛ばし、ダンスレイルは上空へ飛翔する。
「さあ、これで終わりだ! 二人一緒に真っ二つにしてあげようじゃないか! ……ユグドラル・スラッシャー!」
「このおおおおおおお!! ……あっ」
つる同士が絡み合い、身動きが取れないノウケンたちに、ダンスレイルは必殺の一撃を叩き込んだ。二つの斧を合体させた、巨大な両刃の斧で真っ二つに切り裂く。
ノウケンたちは間の抜けた声を残し、斜めに両断され……息絶えた。ダンスレイルは斧を消し、着地した後ふうと息を吐き体力を回復させる。
「……やれやれ。一時はどうなるかと思ったけど……なんとか勝てたね。後でクイナにお礼を言わないといけないね、これは」
そう呟いた後、ダンスレイルは里に向かおうとするも、ふと思い直し足を止める。ノウケンたちの死体に近付き、手のひらからつるを伸ばす。
「……何かしらの罠を張ってないとも限らないからね。まだ死にたてだし、情報を抜き取っておいて損はない、か。……一万年ぶりにやるから、上手く出来るかは分からないけど」
そう呟き、ダンスレイルはリオと合流する前の最後の準備を始めたのだった。
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