第7章―千獣の覇王といにしえの仙薬
181話―新たな旅の決意
エルディモスとの戦いから、七日が過ぎた。リオたちはアーティメル帝国に帰る……ことはなく、グリアノラン帝国に留まったままであった。
宴の後、突如としてメルンの容態が急変し、倒れてしまったからだ。彼女を介抱するもなかなか目を覚まさず、七日間眠り続けようやく目覚めた。
「心配させて済まぬな。全く、わらわの身体もおんぼろになったものよ」
「お母様、無理をなさってはいけませんわ。さ、お休みになってください」
ベッドから起き上がろうとするメルンを押し留め、セレーナはそう声をかける。メルンは不服そうにしていたが、また倒れてしまっては大変なため大人しく横になった。
なんとかマギアレーナまでは帰って来られたものの、メルンもセレーナもなんとなくだが確信していた。もう、メルンの身体を動かすキカイが限界を迎えているのだ、と。
「……陛下、大丈夫かな。まさか倒れちゃうなんて……」
「……残念ですが、わたくしたちにはどうにも出来ません。根幹となる部分が朽ちている以上、打つ手は何も……」
宮殿の一室にてリオたちはどうにかしてメルンを救えないか話し合っていたが、いい案は全く出てこなかった。ファティマですら打開策を見出だせないまま、話し合いが終わろうとしていたその時、アイージャが何かを思い出す。
「ん……待てよ。兄上、確か遥か昔……東方の国にどんな傷も癒す仙薬があったが、それを使えばどうにか出来るのでは?」
「その話、詳しく聞かせてもらえますか?」
同席していた宰相オゾグが問うと、アイージャに変わりエルカリオスが話し出す。遥か昔、自らが手に入れたことのある神秘の仙薬について。
「あの薬か。一万年前……東のとある国にどんな傷もたちどころに癒し、死に瀕した者すら快癒させた薬があった。恐らく、キカイの身体にも有効だろう」
「では、それを手に入れれば!」
希望を見出だしたオゾグは勢いよく立ち上がるも、エルカリオスは手で制する。どうやら、何か訳があるようだ。
「まあ待て、それは一万年前の話だ。当時私が持っていた分はもうないし、今もまだ仙薬の製法がかの国で受け継がれているかは分からない」
「……でも、可能性はあるんだよね? なら、僕は薬を探しに行くよ。希望があるなら、掴み取りに行かなくちゃ!」
そう話すエルカリオスに、リオは声をかける。メルンを助けられる可能性があるならば、全力を尽くしたい。その思いを受け取り、エルカリオスは笑う。
「そうだな。行くがよい。遥か東……神秘の国ヤウリナへ。とはいえ、まずは準備が必要だ。一度エルトナシュアに戻らねばならぬぞ」
「うん、そうだね。オゾグさん、必ず僕たちが仙薬を持ってきます。だから、それまでメルンさんをお願いしますね」
「分かった。頼みましたよ、リオさん」
オゾグはリオの言葉に頷き、何がなんでもメルンを延命させることを誓う。リオたちは界門の盾を作り出し、聖礎エルトナシュアへと戻っていった。
遥か東、ヤウリナへ旅立つ準備をするために。
◇――――――――――――――――――◇
「カーッ、カーッ! ホウコクホウコク、マジンタチガグリアノランヲタッタ! クリカエス! マジンタチガグリアノランヲタッタ! カーッ、カーッ!」
同時刻、魔界。一羽の魔界カラスが、リオたちの動向を己の主に告げる。報告を聞いたのは、筋骨隆々の肉体を持つ虎の獣人――魔王軍幹部『千獣戦鬼』ダーネシアだ。
ダーネシアは自身の城にある玉座に座り、目を閉じたままカラスの言葉に耳を傾ける。すでにリオとグランザームが交わした休戦期間は終わっており、いつでも戦いを再開出来る状態だ。
「……グリアノランを出たか。我々も侵攻を再開するとしよう。手始めに……途中まで攻略していたヤウリナの侵攻の続きを行うとしようか」
「カーッ! リョウカイ! ゴギョウキニモシラセル?」
「頼んだ。奴らも十分に骨休め出来ただろうからな。そろそろ、また大暴れしてもらう」
ダーネシアの言葉に頷き、カラスは飛び立っていった。窓の外へ飛んでいくのを見送り、姿が見えなくなった後ゆっくりと立ち上がる。
右手を横に伸ばし、ジッと静止しているとどこからともなく巨大な鉄槌が飛来しダーネシアの手に収まる。ぐるんと一回転させて背中のホルダーに納めた後、部屋を去っていく。
「……盾の魔神リオ、か。その強さ……是非とも、
そう呟いた後、大股で歩いていく。が、この時ダーネシアは知らなかった。リオたちがヤウリナを目指して旅立とうとしているということに。
◇――――――――――――――――――◇
一方、聖礎エルトナシュアにある大聖堂へ戻ったリオたちは、旅の準備を進めていた。今回、アイージャとファティマ、エリザベートは骨休めのため残ることに決まる。
ただ休むだけでなく、エルカリオス直々に地獄の特訓が行われることも同時に決まったが。
「うう……兄上の特訓か。またあの地獄を味わわねばならぬというのか……」
「そういうことだね。ま、私たちも乗り越えたんだ、何とかなるさ。……それにしても、カレンがまだ来ないね。何をしているんだか」
憂鬱な気分でため息をつくアイージャに、ダンスレイルがそう声をかけた。すでに旅の支度を整えており、いつでも出発出来る状態になっているのは流石と言えるだろう。
今回、ヤウリナへの旅にはリオとダンスレイル、クイナとカレンの四人で向かうことになったが、それにはとある理由があったのだ。
「それにしても、驚いたものだ。まさかカレンとクイナがヤウリナ出身だったとは」
「だねぇ。私としても、そこが驚きだよ」
大聖堂に戻ったリオたちが一部始終とヤウリナへ旅立つことを告げた時、カレンとクイナがカミングアウトしたのだ。自分たちの生まれ育った国こそ、そのヤウリナなのだと。
残念ながら二人とも仙薬については知っていなかったが、クイナの故郷である忍の里で手掛かりを掴めるかもしれないということで、今回の旅に同行してもらうことになったのだ。
「よし、これで荷物は全部、と。っかし、オヤジの奴め。いきなりこンな手紙寄越してきやがって」
その頃、大聖堂の一室で荷物を纏めていたカレンは、懐から一通の手紙を取り出しぼやいていた。エルカリオスの地獄の特訓のさなかにバードメールで送られてきた、故郷からの手紙。
リオたちには隠していたが、カレンにとってとんでもなく恥ずかしい内容が手紙に記されていた。カレンはため息をつきながら手紙をカバンの中にしまう。
「あのクソオヤジめ、婿の顔が見たいだなんて言い出しやがってよ……チッ、調子に乗っていろいろ書くんじゃなかったぜ」
実は、カレンはこれまで何回かバードメールを通して故郷であるオーガの里にいる家族と手紙のやり取りをしていた。リオのことを手紙で伝えた途端、父親が食い付いてきたのだ。
自慢の娘がベタ惚れする男がどんな人物なのか気になって仕方ないらしく、早く里に連れてこいと催促されていたのである。カレンは仕方なく、今回の旅のついでにリオを里へ連れて行くことにしたのだ。
「はぁー、気が進まねえ。あのオヤジ、すーぐ調子に乗るからなぁ。変な恥かくと後が大変なんだよな、ったく。なにせ……」
カバンを背負い、リオたちの元へ向かいながらカレンはブツブツ呟く。ポリポリと頭をかきながら、面倒臭そうに小さな声を出した。
「……アタイの実家はヤウリナの貴族だからなぁ」
遥か東、神秘の国ヤウリナを舞台に、リオと魔王軍の新たなる戦いが始まろうとしていた。
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