【180000PV突破感謝】盾使いの英雄譚～勇者パーティーから追放されたので、魔神の力で勝手に世界を救います～

118話―三位一体の魔神たち

「さあ、来るがいい。纏めて相手をしてやろう……！」

「なら、遠慮なく行かせてもらうよ！」

　槍を構えるバウロスに、いの一番にリオが突撃していく。右腕には不壊の盾、左腕には飛刃の盾を装着し、全身に力を込め素早く走り出す。

　バウロスが突き出した槍による刺突を不壊の盾で受け流し、無防備になった相手に向かって飛刃の盾を投げつける。槍から片手を離し、バウロスは盾を拳で弾く。

「なかなかいい動きだ。流石魔神と言ったところか。それに……」

　ムダのない動きを誉めつつ、バウロスは蹴りを放ってリオを吹き飛ばす。即座に槍を引き戻し、うなじを隠すように構える。直後、槍の柄に円形の水の刃が突き刺さった。

　リオが交戦している間に、密かにクイナが水で作った暗器を放っていたのだ。

「連携も完璧……。なるほど、今までお前たちと戦った者が苦戦するわけだ」

「あらら、防がれちゃった。ま、これくらいじゃ終わらないけどね！」

　暗器を防がれたクイナは軽口を叩きつつ、リオに加勢する。一方、まだ魔神の力を完全に使いこなせていないカレンは、全身に雷の力をチャージしていた。

　一刻も速くチャージを終わらせ、リオたちに加勢するべくカレンは目を閉じて集中する。が、バウロスが黙って見逃すわけはなく、カレンへの攻撃を行う。

「チャージなどさせん。貴様の力はよく見せてもらっているからな。先に潰させてもらう！」

「そうはさせないよ！　こっちを見ろ！」

「来たか……その力！　だが、これなら無意味だ！」

　リオは【引き寄せ】を発動し、バウロスの意識を自分へと向けさせカレンを守ろうとする。が、今回ばかりはバウロスの方が一枚上手であった。

　バウロスは槍を水平に構え、身体を回転させて全方位へ向かって衝撃波を放ったのだ。全員を一度に負傷させられる範囲攻撃には、流石にどうにもならない。

　飛刃の盾をカレンの方へ投げて攻撃を防ぐことには辛うじて成功するも、リオ自身の防御が希薄になってしまった。その隙に、バウロスは神速の突きの連打を見舞う。

「受けてみるがいい！　エイトスピア・ストライク！」

「くっ、ぐうっ！」

　リオは全ての攻撃を防ぐのは無理だと直感で判断し、急所を狙った攻撃のみを不壊の盾で防ぎ、残りの刺突は甘んじて受ける。最後の一撃を受け、床を転がっていく。

「うう……」

「最も魔神の力を使いこなしている貴様から始末させてもらう。覚悟せよ！」

「残念だけど、そうはいかないんだなぁ！　ゴブリン忍法『幻惑羽毛舞いの術』！」

　バウロスが追撃を放とうとすると、すかさずクイナが妨害を行う。幻影の羽毛が宙を舞い、バウロスの視界を覆い隠す。放たれた突きはリオを捉えることなく、虚空を突いた。

　クイナはバウロスが幻影に囚われている間にリオとカレンを回収し、離れた場所に連れていく。

「リオくん、大丈夫？」

「ありがとう、クイナさん。あいつ、まさかあんな攻撃してくるなんて……。これじゃ、迂闊に引き寄せを使えないな……」

　傷を癒しつつ、リオはそう呟く。必殺の【引き寄せ】を潰されてしまい、バウロスにたいしてはもう、敵意を自分に向けさせて仲間を守る戦法は使えない。

　咄嗟の機転で先天性技能（コンジェニタルスキル）を破ってみせたバウロスの実力に、リオは内心舌を巻く。今回ばかりは、とんでもなく苦戦するかもしれない。

　そんな予感を覚えていた。

「フン、幻影か。くだらぬ、目に頼らねばいいだけのこと。この程度の幻で我が肌を欺くことは出来ぬ！」

「おい、あいつ……真っ直ぐこっちに走ってくるぞ！」

　バウロスは幻影を突破し、リオたちの元へ到達しようとしていた。それを見たクイナは焦りつつも、新たな忍法を使って足止めしようと試みる。

「うっそ！？　ならこれでどう！？　ゴブリン忍法『アヤカシクモ糸の術』！」

「むっ、この感触は……」

　クイナは指先からクモ糸を発射し、バウロスの身体に巻き付ける。これで一時的ながらも、バウロスの動きを封じ込めることに成功した。

　その間に、リオは傷を再生させ、カレンはチャージを行う。少しして、ついにカレンのチャージが完了し、彼女の身体から電気が弾ける。

「済まねえ、待たせたな二人とも！　ここからはアタイも一緒に戦うぜ！」

「うん！　行こう、お姉ちゃん！」

　リオも傷の治癒を完了させ、バウロスへ向かって飛刃の盾を投げつける。直後、バウロスは糸を引きちぎり槍で盾を叩き落として攻撃を防ぐ。

「ようやく三人揃ったか。では、私も少し本気を出させてもらうとしよう。簡単に……壊れてくれるなよ？」

「！　消え……くっ！」

　直後、バウロスの姿がかき消える。リオは辛うじてバウロスの気配を捉え、突きを防いだ。目にも止まらない速度で部屋の中を動き回り、バウロスは三人を攻め立てる。

　リオたちは死角からの攻撃を防ぐため、背中合わせになりバウロスの攻撃を捌く。が、それだけでは勝つことは出来ない。バウロスの隙を突き、反撃に転じなければならないのだ。

「チッ、はええ野郎だ。めんどくせえ……クイナ、なんとか出来ねえか？」

「よし、ちょっと試してみる。魔神忍法……『虚水天幕の術』！」

　クイナは魔神の力を使い、部屋の中に大量の水のカーテンを作り出す。バウロスの身体がカーテンに触れる度、水の抵抗によって速度が落ちていく。

　それに気付いたバウロスは距離を取って体勢を立て直そうとするも、それより先にカレンが攻撃を放った。

「くっ、一旦後ろに……」

「させるか！　食らいやがれ！　サンダーアーチ！」

「ぐおああっ！」

　カレンが呼び出した金棒から雷の矢が放たれ、バウロスの身体を貫いた。水で濡れていたこともあり、甚大なダメージを受けたようだ。

　動きの止まったバウロスを一気に仕留めるべく、リオは二人に合図し連携攻撃を仕掛ける。まずはクイナが先行し、忍法を使ってバウロスの動きを封じにかかる。

「いくよ！　ゴブリン忍法『地這い蛇帯の術』！」

「ぐっ……そんなもの！」

　クイナの忍装束から七つの帯が伸び、バウロスを絡め取ろうと襲いかかる。槍を振るい、七つの帯のうち四つが両断されてしまうも、残る三つがバウロスの両足と右腕を封じた。

　バウロスは舌打ちをしつつ、自由になっている左手に槍を持ち替え再び衝撃波を放とうとする。が、それよりも速くカレンが突撃し、バウロスの左腕を金棒で殴り付け槍を弾き落とす。

「させるかよ！　この野郎！」

「くっ、舐めるなよ、槍がなくとも戦えるわ！」

「うぐっ！」

　槍を失ってもなおバウロスは反撃に転じ、カレンのみぞおちに拳をめり込ませる。カレンは呻き声を漏らすも、リオの攻撃の動線を確保するべく後ろへ下がる。

「この程度の帯、貴様らの攻撃が届く前に引きちぎってくれるわ！」

「させないよ！　ブリザードストーム！」

　リオは不壊の盾を消し、右の拳を握り締めた。ジャスティス・ガントレットに嵌め込まれた青色の宝玉が輝き、吹雪がバウロスに襲いかかる。

　吹雪は帯ごとバウロスの右腕と両足を凍結させ、完全に動きを封じ込めた。リオはダメ押しとばかりに飛刃の盾を投げ、バウロスの左腕を切断する。

「ぐうあっ！　まだ……」

「これで終わりだ！　出でよ、破槍の盾！　食らえ！　バンカーナックル！」

　なおも足掻こうとするバウロスのみぞおちに短槍が突き刺さり貫いた。最後の神の子が崩れ落ち息絶えたのを見届けた後、クイナは帯を消す。

「はあ……勝てたね、リオくん。いやあ、なかなか強かったね、こいつ」

「そうだね。さ、また広場に戻って今度こそフォルネシア機構に行こ……！？」

　戦いが終わり、一息ついていた次の瞬間。リオの胸を、黄金の槍が貫いた。槍を振るったのは、三人の連携により倒されたはずのバウロスだった。

「リオ！」

「リオくん！」

　カレンとクイナの叫びが響くなか、バウロスは素早く結界を貼り二人を隔離する。リオの身体から槍が引き抜かれ、壁の方へ蹴り飛ばされる。

「ど、どうして……。お前は、殺したはずなのに……」

「殺した？　残念だったな、盾の魔神よ。そうではないのだ。……ああ、まだ教えてなかったな。何故私が神の子どもたち（カル・チルドレン）中最強と呼ばれているのかを」

　瀕死の重傷を負ったリオに向かって、バウロスは静かに言い放った。

「私は死ぬ度によみがえる。不死鳥のように何度でも、な」