104話―神の子を討て!
「ギャガ……まだだ……。まだ俺には最後の真眼がある……! まだ終わりではないぞ!」
バギードは力を振り絞り、砕けた土壁の破片を吹き飛ばしながら立ち上がる。光によって焼き潰され、閉ざされたはずの眼は真っ直ぐにリオを見つめていた。
リオは光射の盾を消し、再び不壊の盾を作り出してバギードの動きを窺う。仮にもファルファレーの子たるバギードが、このまま終わるとは思えなかったのだ。
(あいつ、もう眼が見えないはずなのに……一体何をするつもりにんだ? とりあえず、一旦距離を取って……)
相手がどんな行動に出るか分からず、リオは後退して様子見をしようとする。その時、焼け焦げたまぶたによって閉ざされた真眼から、青色の光が漏れ始めた。
「ギャシャシャシャ! そこだ!」
「うわっ!」
バギードは眼が見えていないのにも関わらず、草によってリーチが伸びた鎚頭をリオ目掛けて的確に投げ付ける。リオは慌てて飛び退き、どうにか攻撃を避けた。
(なんで!? 眼が見えてないはずなのに……。もしかして、音を頼りに僕の居場所を?)
リオは何故バギードが的確に攻撃してこれたのかを推理し、一つの実験を行う。着地した後、猫のように音を出さずゆっくりと相手に接近していく。
が、その実験は失敗に終わった。極力音を出さずに移動していたにも関わらず、再び鎚頭がリオ目掛けて飛んできたのだ。
「ギャシャシャシャ! ムダなことを! 忘れたか、俺にはまだ第三の眼の力があることを!」
「眼……そうか、まだ何かカラクリがあるんだな!」
叫びながら突進してきたバギードをかわしつつ、リオもまた叫んだ。眼を潰されたのにも関わらず、平然とリオの居場所を察知し攻撃してくる。
どうやってそれを可能にしているのか、リオは相手の攻撃を避けながら思考する。まぶたから漏れ出る青色の光に気付き、リオはふと考えた。
(……そういえば、バギードが眼の力を使う時、必ずああやって光が出てたな。赤色の時は障害物を透視して、黄色の時は僕の動きを先読みした……なら、今は?)
これまで相手が使ってきた能力の傾向から、リオは今バギードがどんな能力を使っているのかを推察する。その結果、一つの仮説に行き着いた。
(……魔力だ! あの光が僕の魔力を捉えてバギードに
「ギャシャシャシャ、どうしたどうした!? さっきから避けてばかりで全く攻撃してこないではないかーっ!」
自分の
「なら、そろそろ反撃させてもらおうかな! そりゃっ!」
「ギャシャシャ、そこか!」
リオは自分の仮説が正しいか証明するため、とある作戦を決行する。不壊の盾に魔力を帯びさせ、自分そっくりに見えるよう形を整えた。
そうして調整を施した盾を、おもいっきりバギードに向かって投げ付ける。結果、バギードは盾をリオ本人と誤認し、戦鎚を叩き付けて吹き飛ばした。
(やっぱり! 間違いない、今のあいつは魔力を視てるんだ! なら、付け入る隙はいくらでもある!)
自分の仮説が正しかったことを確認し、リオは心の中でガッツポーズを取る。実像ではなく魔力しか見ることが出来ないのならば、勝つ方法がリオにはあった。
「……おかしい、感触が生物のそれではない。奴め、何をした?」
「残念だったね、バギード。さっきのは偽物。僕は傷一つついてないよ」
「貴様!」
一方、バギードは盾を殴った感触から本人を仕留めることが出来ていないことに気付いた。追い討ちをかけるように、リオはからかうように挑発の言葉を投げる。
一気に怒りに火がついたバギードは、閉ざされた眼から放たれる青色の光――【魔識眼】の力を使いリオの居場所を探す。全てが青に染まった視界の中、リオの魔力が浮かび上がる。
「ギャシャシャシャ、そこにいたか! さっきは妙な手を食らったようだが、今度はそうはいかん! 先に叩き潰してやる!」
「そうはいかないよ! 出でよ、破槍の盾!」
リオはバギードの振り下ろした鉄槌を避けつつ、左腕に槍が備え付けられた盾を呼び出し装着する。そして、右の拳を握り締めジャスティス・ガントレットの力を発動した。
青色の宝玉が輝き、リオの周囲に冷気が集まり勢いよく渦を巻き始める。少しして、リオそっくりな氷の彫像が三体作り出された。魔力をたっぷり含んだ、氷の像が。
「……!? バカな、何が起きた!? 何故ガキが増えている!?」
一方のバギードは困惑し、動きが止まってしまう。彼からすれば、いきなりリオが四人に増えたようなものなのだから、困惑してしまうのも無理はない。
「ふっふっふっ! さあ、どれが本物か分かるかな? みんな、かかれー!」
本物のリオはそう叫び、氷像たちを突撃させる。像の左腕には本物の同様に破槍の盾が装着されており、三方向からバギードを取り囲んで攻撃を繰り出す。
「いけー! やれー!」
「ぐっ、ごあっ……。ええい、鬱陶しい奴らめ! このっ、お前が本物か!?」
バギードは数の暴力に蹂躙され、まともに反撃することも出来ない状況に追い込まれる。三体の氷像はリオ本人と全く同じ思考能力を持つため、抜群の連携をとれるのだ。
氷像たちの波状攻撃を頑強な肉体で強引に耐えつつ、バギードは戦鎚を叩き付け攻撃する。が、高濃度の魔力を帯びた氷像を破壊するたび、眼の機能が少しずつ弱まっていく。
破壊された氷の欠片から発せられる魔力が、目に見えない刃となってバギードの眼を傷付けているのだ。
「残念、それも本物じゃないよ! さあ、まだまだ魔力はたっぷりあるんだ、どんどん分身を作っちゃうよー!」
リオは氷像が破壊され、残り一体になる度に二体を新たに追加していく。四体以上はコントロールが利かなくなる恐れがあるため、手数を確保する目的もあり三体を維持していた。
ファルファレーから与えられた頑強な肉体を持つバギードもいえども、何度も破槍の盾による攻撃を受け少しずつ疲弊し始めていた。神の子とはいえ、体力が無限にあるわけではない。
「グッ……こうなれば、まとめて叩き潰すまでだ! タイフーン・ハンマー!」
このままではまずいと判断したバギードは、一気にリオを倒すべく身体ごと戦鎚を回転させる。鎖が伸び、リーチを増やしながら戦鎚が氷像を粉砕していく。
「ギャシャシャシャ! 反応が一つだけになったぞ! さあ! 忌々しいガキめ、今度こそ……いない!? バカな、どこに……」
「僕なら上だあっ!」
無論、氷像が粉砕されていくのを黙って見ているほどリオはバカではない。すでに双翼の盾を背中に装着し、バギードの頭上へ飛んでいたのだ。
再び右手を握り締め、今度は緑色の宝玉の力を解き放つ。盾と斧が融合した、巨人すら屠る巨大な魔具が作られ、リオの両手に収まる。
「これで終わりだ、バギード! 巨壁の盾斧の力を見せてやる! タイタン・キリング・スラッシャー!」
「ぐうっ、そんなものーっ!」
バギードは戦鎚を頭上に掲げ、リオごと落ちてきた巨壁の盾斧を受け止める。が、リオはそうバギードが動くことを想定し、落ちる位置を微調整していた。
鎖が格納されているが故に、強度と耐久性が一段劣る、柄と鎚頭の繋ぎ目の部分を狙っていたのだ。予想通り、巨壁の盾斧は繋ぎ目にぶつかり、戦鎚を両断する。
そして、そのまま一気にバギードの肉体をも両断してみせた。
「うおりゃああああー!!」
「ギャ……ギャガアアアアア!!」
リオの雄叫びと、バギードの断末魔が交錯する。恐るべき単眼の巨人が、ついにリオの手によって討たれたのだった。
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