102話―神の子、襲来

「そーれ! 結界なんて全部切り刻んでやる!」


 リオは聖断ハサミを使って結界を切り取り、しっぽを使って背後へ放り投げていく。切り取られたことで強度が劣化した結界の欠片を、カレンとクイナが砕き処理する。


 ドーム状の結界に沿って移動しながら切り取っていると、半分ほど切り刻まれたところで変化が起きた。己の存在を維持することが出来なくなり、結界が消滅したのだ。


「やった! 結界が消えたよ! これでガランザも……」


「リオ殿ォォォォォ!! お久しぶりでありますううううぅぅぅぅ!!!」


 結界を破壊し終え、一息ついていたリオたちの元にどこから嗅ぎ付けてきたのか、アーリーが突撃してきた。予想だにしていなかった再会に、カレンはぎょっと驚いてしまう。


「うおっ!? アーリー、てめえどっから沸いて出てきやがったんだ!? つーかリオから離れろ!」


「ふごっ! こ、これは失礼。再会の喜びが大きすぎて我を忘れてしまったであります」


 脳天にカレンの鉄拳を落とされ、アーリーはようやく落ち着きを取り戻した。彼女に案内され、リオたちは宮殿へ向かう。その途中、民衆が集まりリオに感謝の言葉を述べる。


「見てたぞ、坊主! 結界を消してくれてありがとう!」


「もしあの結界が残ってたらどうしようって不安だったんだ。ありがとうよ、アーティメルの英雄さん!」


 突如現れた結界によって外界と断絶され、不安に苛まれていた民衆はリオに感謝していた。軍が不可能だった結界の破壊を成せたのは、彼以外にいない。


 そんな共通認識が出来るほど、リオの活躍は民衆の間に知れ渡り、帝国が誇る英雄として認知されていたのだ。リオは彼らに手を振って応えつつ、大通りを進む。


「我が友よ、久しぶりであるな! 元気にしていたか?」


「お久しぶりです、ギオネイ将軍。そちらもお元気そうでよかったです」


 宮殿の中に入ったリオは、ギオネイとの再会を喜び固い握手を交わす。会議室に案内されたリオは、ギオネイをはじめとした帝国軍と互いの持つ情報を交換する。


 ファルファレーと彼の配下、神の子どもたちカル・チルドレンが動き出しケリオン王国を滅ぼしたことを知り、ギオネイたちは驚く。が、リオもまたギオネイからの知らせを受け驚いてしまう。


 アイージャとダンスレイルが突如昏睡状態に陥り、宮殿に併設された医療棟で治療を受けているのだという。さらには、結界が発生してからもう七日経っているらしい。


「ギオネイ将軍、ねえ様たちに何があったんですか!?」


「うむ……五日ほど前のことだ。突然、君の屋敷の使用人が数人宮殿に来てな。二人が倒れたから、何とかしてほしいと言ってきたのだよ。相当焦っていたのだろうな」


 リオたちはギオネイに案内され、アイージャとダンスレイルの様子を見に医療棟へ向かう。専用の部屋でベッドに寝かされた二人は、苦しそうに顔を歪めながら眠っていた。


 快く二人を受け入れてくれた皇帝に感謝しつつ、リオは悲しそうに顔を歪めながら二人の頬をそっと撫でる。その時、リオの耳

がピコンと立ち、窓の外へ視線が向く。


「リオくん、どうしたの?」


「この殺気……あいつらだ! また……神の子どもたちカル・チルドレンが来る!」


 クイナが問いかけると、リオは一言そう口にする。窓に駆け寄って開き、外へ向かって飛び降り走り去ってしまった。


「リオの奴、どこに行く気だ? しゃあねえ、追うぞクイナ!」


「りょーかい!」


「我輩も部隊を編成してから後を追う! 先鋒は任せるぞ!」


 カレンとクイナはリオを追いかけるために走り出す。ギオネイも帝都に現れようとしている神の子どもたちカル・チルドレンを迎え撃つべく、部隊を招集しに行った。



◇――――――――――――――――――◇



 帝都ガランザには、大きな噴水が特徴な公園がある。その公園では、親子連れやカップルが楽しそうにそれぞれの時間を過ごしていた。――天空から白い光の柱が降り注ぐまでは。


「ギャシャシャシャ! さあローレイよ、今度こそ大地の民どもを根絶やしにしようではないか!」


「うむ。では、早速始めるとしよう」


 光の柱が消えると、そこには神の子たるバギードとローレイが立っていた。ローレイはゆっくりと首を回し、周囲の景色を眼に焼き付ける。


 一方、公園で安らぎの一時を楽しんでいた人々は、突然の出来事に頭が追い付かずフリーズしてしまっていた。そんな彼らに向かって、ローレイは演説を行う。


「聞け、大地の民よ。我らは偉大なる神の御遣い。この穢れに満ちた地に、救いを与えるために来た。……お前たちの根絶やしという救いをな」


 そこまで話したところで、公園にいた人々はようやく我に返り気が付いた。目の前にいる二人は、自分たちにとって災いをもたらす存在だと。


 公園から逃げようとするも、ローレイの先天性技能コンジェニタルスキル、【魔念キネシス】によって作られた土の壁に逃げ道を遮られ、退路を絶たれてしまう。


「どこへ行こうというのだ? お前たちが行く場所はただ一つ、冥府だ。屈服せよ。甘美なる死を受け入れ根絶やしにされるがいい」


 ローレイの放つ強者のオーラに当てられ、人々は無意識にひざまずき命乞いをしようとする。が、ただ一人――ローレイの言葉に屈することなく、立ち続ける老人がいた。


「この国から去るがいい、悪しき者たちよ。我々アーティメルの民は何者にも屈することはないぞ!」


「そうか。なら……見せしめに貴様を殺し、残る者たちを屈服させてやろう!」


 残酷な笑みを浮かべ、ローレイは土を変化させ鋭いトゲを作り出す。老人に向かってトゲが放たれ、神の子に歯向かった老人は串刺しにされる……。


「させないぞ、ローレイ! てやっ!」


「なっ……!? バカな、何故貴様がここに!?」


 ことはなかった。土の壁を飛び越えて現れたリオが老人を守るように立ちはだかり、土のトゲを不壊の盾で砕いたのだ。それん見た市民たちは、拍手をリオに送る。


「いいぞー! 流石英雄だ!」


「そうだ、俺たちには無敵の英雄がついてるんだ! こんな訳の分からない奴らに屈服する必要なんてないぞ、みんな!」


「もう大丈夫だよ。僕が来たからには、みんな無事に逃がしてあげるから! それっ、シールドブーメラン!」


 リオは市民たちを逃がすため素早く飛刃の盾を作り出し、土の壁に向かって投げつける。崩れた壁の隙間から脱出する市民を見て、ようやくバギードは我に返った。


 直接光の柱で乗り込んだため、結界が破壊され、リオたちが帝都に帰還していることを知らなかったものの、逆に好都合だとバギードは思い直す。


「ギャシャッ! よくも余計な真似をしてくれたな! ローレイ、俺がこのガキを押さえる! その間にお前は下等生物どもを皆殺しにしろ!」


「うむ、わか……」


「させないよ! ローレイ、こっちを見ろ!」


 逃げる市民たちを攻撃しようとするローレイに向かって、リオは【引き寄せ】を発動し強制的に自分をターゲットにさせる。その結果、突撃してきたバギードに土のトゲがヒットした。


「ギャガッ! チィッ、調子に乗るな! 今度こそ叩き潰してやる!」


「やれるものならやってみなよ! 僕は負けないからね!」


 バギードの振るう戦鎚を避けながら、リオは反撃を繰り出す。激闘を繰り広げる二人の元に、ローレイが操る土の鞭がこっそりと忍び寄る。


「フン、言っておくが……我らは二人、貴様は一人! 数の差を覆すことなど出来ぬ!」


「出来るんだなあ、それが。だって、お前の相手は拙者だからね! リオくん、こいつは任せて! そのデカブツの相手、頼んだよ!」


 その時、土の壁を突き破りクイナが乱入してきた。ローレイをガッチリと拘束し、一対一の状況に持ち込むため、そのまま公園から離れていく。


「ありがとう、クイナさん! さあ、一対一になったよ。これなら……絶対に負けないね!」


「ギャシャシャ、果たして本当にそうなのか……試してやる! この俺の先天性技能コンジェニタルスキル……【真眼】でなぁ!」


 バギードの単眼が怪しく輝き、瞳の中にリオの姿を映し出す。魔神と神の子の再戦が、幕を開けようとしていた。

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