77話―ライウス島を解放せよ!

 砦で一夜を明かしたリオは、アイージャたちを残し翌朝一人で展望台へと向かう。双翼の盾を背中に装着し、空論から目的地へ侵入しようと試みる。


 早朝なだけあって、見張りの数は少なくリオは楽々展望台の近くの広場まで来ることが出来た。広場の近くにある林に身を潜めながら、展望台に続く階段を見る。


「よし、あとちょっとだ。もう少しで作戦を始められるぞ」


 そう呟き、リオは残りの魔族たちが起きるまで身を潜める。一方、展望台を根城にしている魔族たちは、コーナ砦を攻撃していた部隊から連絡が途切れたことを奇妙に思っていた。


「……おかしい。とっくに砦を攻め落としているはずなのに何も連絡がこないとは。あいつら、ちゃんと水晶は持って行ったんだろう?」


「ああ。連絡用の水晶はちゃんと持たせたんだが……まさか、負けたとか?」


「ないない。あの砦に立て籠ってるのはせいぜい十人ちょっとだぜ。こっちは三十人の部隊を送ったんだ、負けるわけないさ」


 そんな会話をしながら、魔族たちは展望室でのんびりしつつガルトロスからの指令を待っていた。すでに砦の陥落に向かった部隊が全滅しているとも知らずに。


 しばらくして、それまで寝ていた者たちが起きてくる。携帯食料を食べながら雑談に耽っていたその時、窓の外に侵入者――リオの姿が映り込んだ。


「やっほー。おはよう、魔族のみんな」


「お、お前は!? 何故お前がここにいる!? お前たち、武器を持て!」


 突如として現れたリオに、魔族たちは慌ててしまう。ガルトロスからはリオがライウス島にいるとは聞かされておらず、自分たちの所に現れるとは思っていなかったのだ。


 そんな魔族兵たちを見てニヤッと笑ったあと、リオは双翼の盾をひるがえし展望台の上へと飛んでいく。魔族たちが迎撃の用意を整えている間に、リオも攻撃の準備を行う。


「さあ、反撃開始だよ! お前たちに殺された島の人たちの怒りを重思い知れ! 出でよ、界門の盾!」


 リオは全身から魔力を放出し、展望台を囲むように八つの界門の盾を作り出す。次の瞬間、界門の盾が開き、その中から飛び出してきたのは……。


「うおっ!? な、なんだ!? 展望台が揺れてるぞ!」


「た、隊長! 何かが空から展望台に降り注いできています!」


 部下の言葉に、魔族兵を束ねる男は慌てて窓に走り寄る。そして、何が降り注いできているのかを知り、唖然としてしまう。リオは巨大な槍を界門の盾から呼び出していたのだ。


「そーれそーれ! 砦の武器庫にしまってあった破城槍の雨を食らえー! 展望台ごとクリスタルを壊してやるー!」


 そう叫びながら、リオは展望台に大量の破城槍を雨あられと降り注がせる。先日、コーナ砦の武器庫で見つけたこの兵器を利用することを思い付き、実行に移したのだ。


 界門の盾の向こうでは、砦の兵士たちが発射台に破城槍をセットしていた。発射台のレバーが下げられると、槍は発射台の先端に取り付けられた界門の盾の向こう側に消えていく。


「やれやれ、リオの発想力にはいつも驚かされるものだ。こんな戦法、そうそう思い付きはしまいて」


「だね。見なよアイージャ。兵士たちも張り切ってるよ」


 破城槍をセットしながら、アイージャとダンスレイルはそんな会話をする。兵士たちはリオに恩返しが出来るとあって、これまでにないほど張り切っていた。


 数年前、試作品として作られたものの、持ち運びが困難なため武器庫に死蔵されていた兵器、破城槍。それが魔王軍に打撃を与えられるとあれば、製作者を浮かばれるだろう。


「くっ、お前たち結界を貼れ! クリスタルを守るんだ!」


「は、はい!」


 魔族兵たちは展望室を包み込むように結界を貼り巡らせ、クリスタルを守ろうとする。が、それを許すリオではない。破城槍を降り注がせつつ、自分も攻撃を行う。


「ムダだよ! 本調子になった僕の強さ、見せてあげる! ツインシールドブーメラン!」


 リオは両腕に飛刃の盾を装着した後、勢いよく結界へ投げつける。魔神の剛力が乗った盾の威力は凄まじく、たった二発で結界を半壊に追い込んでみせた。


 魔族たちは必死に魔力を注ぎ込み、結界が破壊されないよう修復する。が、破城槍とリオの連続攻撃を前に無意味な行いに過ぎず、修復が間に合わなくなる。


「いっけえぇー!」


「う……うわあああああ!!」


 そして、ついにその時が訪れた。結界が限界を迎え、粉々に砕け散ったのだ。結界による守りがなくなり、破城槍の直撃を連続で受けた展望台は、呆気なく崩壊した。


 リオは崩れていく展望台を見下ろしながら、瓦礫が巻き散らかされないよう不壊の盾を作り出し受け止める。展望台が完全に崩れた後、瓦礫の山の上に赤いクリスタルが残った。


「みんなー! 攻撃おしまい! あとは僕に任せて!」


 界門の盾の向こうにいる仲間に声をかけ、リオが降下しようとしたその時、クリスタルに異変が起こった。丸いクリスタルが形を変え、紅い翼竜へと変化したのだ。


 翼竜はリオを睨みながら、甲高い声で雄叫びをあげる。


「……なるほどね。そう簡単には結界を消させてくれないってことか。ガルトロスも性格悪いね」


「グギャアアアアア!!」


 翼竜は翼を広げ、真っ直ぐリオ目掛けて突撃する。リオはヒラリと突進を避け、相手の背中をすれ違い様に飛刃の盾で切りつけた。


「ギュアッ!」


「硬い! 全然傷がつかないな……わっ!」


 クリスタルの身体に簡単に傷をつけることが出来ず、リオが顔をしかめていると、翼竜は反撃を行う。鞭のように伸びた長い二本のしっぽを振り、叩き付けてきたのだ。


 リオはしっぽを飛刃の盾で受け止めつつ少しだけ降下し、衝撃を和らげる。身体を反転させた翼竜は、再び突進しようとするも、リオはその前に攻撃に出る。


「そうは……いかないよ!」


「ギュ……ギィッ!?」


 翼竜のしっぽを掴んだリオは、身体を回転させジャイアントスイングを敢行する。翼竜は翼を羽ばたかせて必死に逃れようとするも、次第に遠心力に勝てなくなっていく。


 リオは飛刃の盾を消し、翼竜のしっぽを巻き取りながら回転を速める。相手の硬い身体を穿ち砕くための策を考えていると、ふと地上の光景が目に映った。


(破城槍……盾……そうだ! いいこと思い付いたぞ! 確か、ジーナさんが読んでた兵器の本に……よし、やってみよう!)


 瓦礫の側に転がる破城槍を見て、リオは何かを思い付く。早速思い付いた案を実行に移し、翼竜を遥か空高く投げ飛ばした。


「せりゃああー!!」


「ギュガッ……」


 きりもみ回転しながら上空に吹き飛んでいく翼竜を追いかけながら、リオは新たな盾を作り出す。頭の中に思い描くのは、破城槍と融合した不壊の盾。


「……出来た! 出でよ、破槍の盾!」


 次の瞬間、リオは右腕を頭上に突き出しながら大声で叫ぶ。右腕が光に包まれ、新たな盾が生み出されていく。不壊の盾を縦に貫くように槍が内臓されたソレが、腕に装着される。


 リオは翼竜に追い付くと、相手の死角になっている胸元に潜り込み破槍の盾を押し当てる。そして、魔力を爆発させ、盾に装着された槍を回転させながら一気に押し出した。


「これで……終わりだあっ!」


「ギュ……ギィィィィィィ!!」


 槍によって身体を砕かれた翼竜は、断末魔の叫びをあげながら墜落していく。槍を盾に収納し、リオは地上に叩き付けられ粉々に砕け散るよを見下ろす。


 クリスタルが破壊されたことで、ライウス島を覆う結界が消え島に平穏が戻った。島を巡回していた魔族たちは、結界が消えていくのを見て顔を青くする。


「た、大変だ! 結界を作るクリスタルが壊された!」


「まずい、ガルトロス様に報告しなくては! お前たち、撤退するぞ!」


 展望台に居らず、難を逃れた魔族たちはライウス島から撤退していく。軟禁されていた島民たちは、その様子を見て歓喜の声をあげる。


「やった! 何があったか知らないけど魔族たちが逃げていくぞ!」


「ああ、よかった……。これでもう、魔族に怯えなくていいのね……」


 歓喜に沸く彼らは、やがて知ることになる。自分たちを魔族から解放してくれた者こそが、名高きアーティメルの英雄、リオであることを。

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