【180000PV突破感謝】盾使いの英雄譚～勇者パーティーから追放されたので、魔神の力で勝手に世界を救います～

29話―宿敵との決戦

　ホールを飛び出したリオたちは、猛スピードで西の広場へと向かう。地下トンネルから現れた魔族の軍勢は、帝都を破壊するべく攻撃を仕掛けようとしていた。

「まずい！　このままじゃ街の人たちが……よし！　みんなー！　こっちを見ろー！」

　街の住民を救うべく、リオは己の先天性技能（コンジェニタルスキル）『引き寄せ』を発動する。市民たちに襲いかかろうとしていた魔族たちは、リオへ標的を切り替えさせられる。

「なんだあのガキ～！」

「ムカつく野郎だ……あいつから殺しちまえ！」

　魔族たちはリオへの殺意をたぎらせ、一斉に弓を構える。それを見たカレンは、自分たちを降ろすようにリオへ伝えた。

「リオ、アタイたちをここで降ろせ！　先にあの弓兵どもをぶっ潰すからよ！」

「分かった、お願い！」

　　リオは手を離し、カレンたちを地に降ろす。着地するのと同時にカレンとアイージャは勢いよく走り出し、魔族の兵士たちへ強襲を仕掛ける。

　金棒を呼び出したカレンは腕に力を込め、完全にリオへ意識が向いている魔族たちに向かって渾身の一撃を叩き込む。そこへアイージャが追撃の飛び蹴りを放ち、兵士たちを一掃した。

「おらっ！　とっととくたばりな！　雑魚兵士ども！」

「ふん、この程度……リオからもらった杖を使うまでもないな！」

　大暴れする二人に気付いた他の兵士たちが集まり、剣や槍で襲いかかろうとする。そこにリオが飛び込み、両腕に装着した飛刃の盾で魔族たちを蹴散らしていく。

「お姉ちゃんたちに傷一つつけさせないよ！　さあ、出てこいザシュローム！　僕たちは逃げも隠れもしないぞ！」

　カレンたちと共に魔族の軍勢を蹴散らしていたリオの元に、不穏な気配が近付く。地面から僅かに浮き上がり、滑るように移動しながらザシュロームが姿を現したのだ。

「……来たか。盾の魔神とその仲間たちよ。我が配下をあっという間に片付けるとはな。流石だ」

「もう傷は癒えてるみたいだね。なら、もう一回スパーッて切り裂いてあげるよ」

「やれるものならやってみろ。あの時とは違う。もう慢心はないぞ」

　タンザの戦いで負った傷は完全に癒えており、ザシュロームに隙はなかった。ザシュロームは懐から三つ首のドラゴンの人形を取り出し、魔力を送り込んで巨大化させる。

　二十メートルに迫る大きさへと変化した人形に糸が接続され、ザシュロームと繋がる。仮初めの命が宿ったドラゴン・ドールは頭を上げ大音量の雄叫びをとどろかせた。

「さあ、来るがいい！　我が最強の傀儡……トライヘッドドラゴンの力で消し炭にしてくれるわ！」

「僕たちは負けない！　二人とも、僕に力を貸して！」

「任せな！　首がいくつあろうが全部アタイがへし折ってやるよ！」

「安心するがいい、リオ。妾たちが力を合わせれば、勝てぬ敵はいない！」

　リオたちが闘志をみなぎらせるなか、ザシュロームは遥か上空へと浮かび上がっていく。糸を通してドラゴン・ドールを操り、先制攻撃を仕掛けた。

「ならば、この攻撃は避けられるかな！？　インフェルノ・フレア！」

　ドラゴン・ドールの三つの口から灼熱の炎がリオたち目掛けて噴射される。リオは不壊の盾を呼び出して炎を防ごうとするが、カレンがそれを止めた。

「待ちなリオ。このくらいの炎、アタイだけで跳ね返せる。お前はザシュロームをぶっ飛ばすために魔力を温存しとけ！　戦技、タイフーンスイング！」

　そう叫ぶと、カレンは凄まじい勢いで金棒を回転させ始めた。少しずつ風が渦巻きはじめ、あっという間に突風の壁がリオたちの前に出現する。

　炎のブレスは突風の壁によって遮られ、それ以上リオたちに近付くことはなかった。カレンは金棒を回転させる勢いを強め、炎を少しずつ押し返していく。

「オラオラオラァッ！　リオ、今のうちだ！　あのドラゴンの足をブチ砕いてきな！」

「ありがとう、お姉ちゃん！」

　リオは右腕を頭上にかざし、飛刃の盾で熱気を遮りながらドラゴン・ドールの元へ突撃する。傀儡の右足に狙いを定め、盾を叩きつけようと腕を振りかぶる。

　それを見たザシュロームは糸を操り、ドラゴン・ドールの翼を展開させる。空に巨体を浮かばせることでリオの攻撃を避け、逆にボディプレスで押し潰そうとした。

「このまま潰してくれるわ！」

「おっと、妾を忘れるでないぞ。リオに手出しはさせぬわ！　アムドラムの杖よ、妾に力を貸せ！」

　その時、アイージャがカレンの脇をすり抜けリオの元へと走っていった。アムドラムの杖をかかげ、その力を解放する。アイージャの身体を、銀色の光が包み込んでいく。

　光が消えると、アイージャの身体は銀色の重厚な全身鎧に包まれていた。振り下ろされたドラゴン・ドールの足の下に潜り込み、そのまま受け止めてしまう。

「わあ、凄いよねえ様！」

「ふふふ、そうであろうリオ。さあ、ゆけ！　ザシュロームにドデカい一発をかましてやるのだ！」

　リオは頷き、素早くバックステップした後双翼の盾を広げ飛び立つ。それを見たザシュロームは舌打ちしながら、炎の放射を止めドラゴン・ドールの首を稼働させる。

「フン、ムダなことだ！　三つ首を前に貴様一人で勝ち目があると思うか！」

「ザシュローム、それは間違いだよ。僕は一人じゃない！　カレンお姉ちゃんにアイージャねえ様がいる！　本当に一人なのはお前のほうだ！」

　大口を開けて噛みつき攻撃を放ってくるドラゴン・ドールの頭部を避けつつ、リオはザシュロームの元へ向かう。ブレスが止み、フリーになったカレンはニヤリと笑みを浮かべる。

　金棒を肩に担ぎ、お留守になっているドラゴン・ドールの足元へ飛び込み、脛目掛けておもいっきり金棒を叩き込む。バランスを崩し、三つ首の竜は倒れそうになる。

「アタイらのことも忘れんな！　このまま自慢の人形の足を砕いてやるよ！」

「チッ！　雑魚が調子に乗るな！　ドラゴンテールを食らえ！」

　攻撃を続行しようとしたカレンに、太く長い竜の尾が襲いかかる。反応が遅れたカレンは直撃を受けそうになるも、アイージャが間に割って入り攻撃を受け止めた。

「気を抜くな、カレン！　油断は死を招くぞ！」

「わりい、アイージャ。助かったぜ！」

　攻撃を切り抜けた二人は、ドラゴン・ドールへの攻撃を再開する。リオも二人の頑張りに答えようと、竜の頭へ猛攻を加え始めた。

「僕もやるぞ！　シールドブーメラン・ダブルスマッシュ！」

「くっ、ちょこざい……な！」

　リオは両腕に装着した飛刃の盾を同時に放ち、ドラゴン・ドールを攻撃する。素早く空中を飛び回り、蹴りで盾を反射させ予測不可能な軌道でザシュロームを撹乱する。

　なかなかリオたちにダメージを与えられないことに業を煮やしたザシュロームは、糸を切り離してドラゴン・ドールを自立モードに切り替え、自らリオに襲いかかった。

「やはり貴様は！　私自身の手で打ち倒してくれるわ！」

「来い！　今度こそ息の根を止めてやる！　ビーストソウル、リリース！」

　リオは魔神の力を解放し、冷気の鎧を身体に纏う。両腕に氷爪の盾を装着し、ザシュロームを迎え撃つ。

「ここで貴様を倒し！　その力を我が物にしてくれる！　ドラゴン・ドールよ！　その牙で脆弱な氷を噛み砕け！」

「グガオオオオオ！」

　足元にいるカレンたちを踏み潰そうとしていたドラゴン・ドールは、二つの首を伸ばしリオへ襲いかかる。何かを狙っていることに感づいたリオは、警戒しつつ迎え撃つ。

「何をするつもりかはしらないけど……纏めてやっつける！　アイスシールドスラッシャー！」

「バカめ！　隙を見せたな！　死ねい！　盾の魔神よ！」

　ドラゴン・ドールの二つの首が両断された瞬間、ザシュロームは目にも止まらぬスピードでリオの背後を取った。残った最後の竜の頭から炎が放たれ、リオは挟み撃ちにされる。

　しかし、それはリオにとって想定内の動きの一つに過ぎなかった。むしろ、狙いを自分に絞ってくれた分、『引き寄せ』を使わずに済んだと思っていたくらいであった。

「残念だけど……全部！　分かってるんだよ！　出でよ、凍鏡（いてがみ）の盾！」

「なん……だと！？」

　リオは凍鏡の盾で炎を反射し、残った最後の頭を消し炭へと変えた。振り向くことなくザシュロームの攻撃を避けた後、素早く反転し必殺の一撃を放った。

「これ終わりだ、ザシュローム！　アイスシールドスラッシャー……クロスエンド！」

「グオアアアアアア！！」

　斜め十字の斬撃が、ザシュロームの身体を切り裂く。傀儡道化は地に落ち、全身から血を流しながら横たわる。

「よっしゃあ！　やったなリオ！」

「うむ。見事な一撃であったぞ！」

「えへへ、二人が僕を助けてくれたからだよ。ありがとう、お姉ちゃんたち」

　地上に降りたリオは、ドラゴン・ドールが消滅していくのを見ながらカレンたちに笑いかける。帝都を舞台にした決戦は、リオたちの勝利で幕を降ろしたのだった。