24話―冒険者ギルドへ

 翌朝。朝ご飯を食べ終えたリオは早速地下トンネルの在りかを調べに行こうとするも、そう簡単にはいかなかった。屋敷の郵便受けに、大量の手紙が届いていたのだ。


 届いた手紙のほぼ全てがアーティメル帝国に住む貴族からのもので、内容はリオを晩餐会に招きたい、自分の娘と見合いをしないか……といったものばかりであった。


「わあ、手紙がいっぱい……。これ、全部お返事書かなきゃダメかな?」


「流石に書いたほうがいいと思うよー? 大丈夫、私たちも手伝うからー」


 セバスチャンが運んできた手紙の山を見て、リオはげんなりしてしまう。サリアが慰めるように頭を撫でた後、全員で手紙の返事を書き始める。


「うー、全然山が減らない……このままじゃトンネル探しに行け……あれ? この手紙……」


「ん? どうしたリオ。って、それ冒険者ギルドからの手紙じゃねえか」


 手紙の山の中から一通の封筒を取り出し、リオは不思議そうに呟く。カレンの言う通り、リオが見つけたのは冒険者ギルドから送られた手紙だった。


 封を切ったリオは中に納められている便箋を取り出し、何が書かれているのか読み始める。手紙には、タンザでの功績を認めリオを冒険者ギルド本部へ招待したいと書かれていた。


「へえ、本部に招待か……。Bランク以上で実績のある者しか招待されないんだぜ、あそこ。やったなリオ。多分ランクアップしてもらえるぞ」


「わあ、嬉しいな。でもいいのかな……僕、あんまり冒険者らしいことしてないのに」


 カレンの言葉に大喜びするリオだったが、すぐに首を捻る。これまでザシュローム一味との戦いに注力しており、冒険者らしい活動はほとんどしていないのだ。


「よいではないか。向こうがそう言っているのだから。ふむ、いい機会だ。妾もその冒険者とやらになるとしよう。一人だけ除け者なのは癪に障るからな」


「うーん……そうだね、まずは本部に行かなくちゃ。トンネル探しはまた今度かな……」


 そう呟き、リオは残りの手紙の処理をジーナたちに任せ出かける支度をする。帝都ガランザの中央部に鎮座する冒険者ギルド本部へ向け、屋敷を出発した。


 手紙に記されていた地図を頼りに、リオとカレン、アイージャの三人はギルド本部へ向かう。人々が行き交う大通りを進んで行くと、リオたちの目の前にソレは現れた。


「おお……でっかいねえ、お城みたい」


「ふむ。これほどまでに見事な建築物……妾が現役だった一万年前にはそうそう見なかったな。世界の進歩はめざましいものだ」


 皇帝の住まう宮殿のような偉容を誇る冒険者ギルド本部を見たリオとアイージャは感想を口にする。カレンを先頭に、三人は入り口へと近付く。


「失礼、そこのお三方。ここは冒険者ギルド本部。安全のため、ギルドカードを確認させてもらっています。よろしいですか?」


「うん。はい、どーぞ」


 入り口の側にいた二人の門番がリオたちに近付き声をかけてきた。リオとカレンはギルドカードを取り出し門番に見せ、通行許可を求める。


「……確認しました。あなたがタンザを救ったあの英雄でしたか。ささ、どうぞお通りください」


「ありがと、おじさん。あ、アイージャねえ様はまだ冒険者じゃないんだけど一緒に行っていい?」


「構わんよ。英雄の仲間なら問題はないだろうしな。仮に問題を起こしたとしても、中にいる冒険者が対処するだろうし」


 無事三人はギルドの中に入り、ホールを進む。すると、懐かしい声がリオたちにかけられた。


「リオくーん! カレーン! こっちよー!」


「あ! ベティさん!」


 三人の前に現れたのは、かつてタンザのギルドで受付嬢をしていたベティだった。嬉しそうに笑いながら、ベティはリオに向かって飛び込む。


「リオくん、元気してた? 見てたわよ、表彰式。かっこよこったわー、あんな宣言までしちゃって」


「いやいや、お前なんでここにいるんだよ? 後、リオに頬擦りするな」


 リオに頬擦りするベティを引き剥がし、面白くなさそうな顔をしつつカレンが問う。


「本部に転勤したのよ。タンザのギルドは魔族のせいで壊滅しちゃったから。……受付嬢はみんな助かったけど、冒険者たちは……」


 ベティの言葉に、リオは悔しそうに唇を噛み締める。タンザを守るべく真っ先に飛び出していった冒険者たちは、皆ザシュロームに殺されたのだ。


 もっと早く自分が到着していれば、冒険者たちも救えたかもしれない。そう考えていると、リオの考えを察したベティが声をかける。


「そんな顔しないで、リオくん。あなたは悪くない。むしろ、私たちを助けてくれた恩人よ。タンザの受付嬢は皆、あなたに感謝してるわ」


「ベティさん……」


 ベティに頭を撫でられ、リオは少しだけ元気を取り戻す。そんなリオの背後から、いい加減本題に入れとアイージャがベティに話しかけた。


「で? お主は何のために妾たちの前に来たのだ? 世間話をするためだけではあるまい」


「あ、そうだった。本部を統括するグランドマスターがリオくんと会いたいんだって。案内するね」


 そう言うと、ベティはリオたちを連れホールを歩いていこうとするが……。


「あっ! 見て見て、あの男の子がそうじゃない? ほら、この前の表彰式の……」


「ホントだ! やーん、噂通りちっちゃくて可愛いー!」


 リオを見つけた受付嬢や女性冒険者たちに囲まれ、一行は身動きが取れなくなってしまった。タンザのギルドでの出来事を思い出し、リオは苦笑いを浮かべる。


「あ、またあの時と同じ……」


「うふふ、苦笑いしてる顔も可愛いねー。どう? お姉さんたちと遊ばない?」


「そーそー。ね、一緒に……」


 その時だった。リオをナンパしていた女性たちは凄まじい殺気を感じ固まってしまう。殺気が放たれている方へ恐る恐る振り向くと、修羅の表情を浮かべるアイージャとカレンがいた。


「ほう……妾たちの前でリオを誘惑するとは、お前たち度胸があるな。気に入った。一瞬で死なせてやろう」


「……殺すぞ? リオはなぁ、アタイたちのモンなんだよ。後からしゃしゃり出てくるんじゃねえ」


 二人は殺気を剥き出しにし、短く呟く。今にも受付嬢や冒険者たちに襲いかかりそうな二人だったが、リオが抱き着き怒りを沈めようと試みる。


「待って待って! 落ち着いて、ね? 怒っちゃやだよ? ほら、いいこいいこ」


 背が低いリオでは二人の頭に手が届かないため、腰の辺りを優しく撫でる。アイージャとカレンは一瞬で骨抜きにされ、それまでの怒りがコロッと静まる。


 リオは目で受付嬢や女性冒険者たちに合図し、退散するよう伝える。流石に同じ過ちをするつもりはなく、彼女たちはすごすごと退散していった。


「あー、怖かった……。ちょっと二人とも、流石にアレは怖い……って、聞いてないか」


「ふふ、リオに撫でられた……リオに……。ふふ、ふふふふ」


「へへっ、へへへへ……」


 少しして、復活したアイージャたちを連れ、リオとベティはグランドマスターが待つ執務室へと向かう。何度も階段を登り、一行はギルドの最上階にある執務室へ到着した。


 執務室の中に入ると、肘掛け椅子に腰かけた老人と、彼を守るように側に立つ男がいた。漆黒のコートを身に付けた男は、品定めするかのようにリオを見つめる。


「へえ、お前が……そうか、なるほど」


「えっと、あなたは……?」


 リオが戸惑いがちに尋ねると、男はニヤリと口角を上げ名を名乗る。


「オレはダンテ。Aランクの冒険者だ。よろしくな、坊主とそのお仲間さん。くれぐれもグランドマスターに無礼な真似はするなよ?」


 そう言うと、ダンテは部屋の奥にあるソファーに座り、パイプをふかし始めた。そんなダンテにチラリと目を向けた後、グランドマスターはリオに話しかける。


「ようこそ、新たなる魔神よ。わしはベリオラス。冒険者ギルドを統べる者だ。よろしく頼むよ」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 ベリオラスの言葉に、リオは答える。ギルドの長は椅子から立ち上がり、リオへと近付く。顔を覗き込みながら、澄んだ声で声をかけた。


「単刀直入に言おう。リオよ、君を冒険者の最高峰……Sランクに認定したい。いや、認定しよう」


「僕を、Sランクに……?」


 リオは突然のことに呆然としてしまう。カレンやアイージャ、ベティもベリオラスの言葉に衝撃を受け固まってしまう。そんなリオたちを他所に、ギルドの長は笑う。


「詳しく説明しよう。何故君を、冒険者の最高峰に認めるに至ったのかをね」

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