19話―リオVSボグリス

「さあ、始めようぜ! 俺とお前の戦いを!」


 ボグリスはそう叫ぶと、大剣をホールの天井へ向け黒い雷を放つ。雷は天井を破壊し、大きな穴を開けた。常闇の力を全身に纏い、黒い鎧に身を包んだボグリスは跳躍する。


「さあ、着いてこい、リオ! 俺がお前を殺すところを、帝都に住まう奴ら全てに見せ付けてやる!」


「望むところだ! 出でよ、双翼の盾!」


 リオは翼を背に纏い、ボグリスを追って飛び立つ。それを見たボグリスは、懐から小さな球体関節人形を二つ取り出しカレンたちの方へ投げ落とす。


 舞台の上に落ちた人形はカレンと同等の大きさになり、四肢を鋭い刃へと変える。カレンとアイージャに腕を向け、目も鼻もない顔で二人を見つめる。


「てめえらの相手はその人形どもだ! リオを殺した後で、お前らの相手をしてやるよ! ひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 そう言い残し、ボグリスはリオと共にホールの屋根の上へと消えた。カレンは金棒を、アイージャは拳を構え、眼前の人形を見て不敵な笑みを浮かべる。


「ふん、愚かな。あの男はこんな傀儡で妾たちに勝てるとでも思っているのか?」


「だな。さっさとブチのめしてよぉ、リオを助けに行くとしようぜ!」


「うむ。そうしようか」


 パキポキと拳を鳴らしながらアイージャは目を細める。カレンも首の骨を鳴らし気を昂らせる。そして、二人同時に人形へと襲い掛かっていった。



◇――――――――――――――――――◇



 一方、セレモニーホールの屋根の上に向かったリオは、大穴を挟んでボグリスと向かい合う。互いに武具を構え睨み合うなか、最初に動いたのはボグリスだった。


 漆黒の大剣を振りかぶり、屋根に開けられた大穴を飛び越え斬撃を放つ。リオは右腕に装着した飛刃の盾で攻撃を防ごうとするも、逆に腕ごと盾を切り落とされてしまう。


「うああっ! 防ぎきれない……なんて威力だ……!」


「チッ、今ので胴体ごとぶった斬ってやろうと思ったのによぉ! 避けてんじゃねえよクソが!」


 リオは咄嗟に半歩身体を後ろにずらしたことで辛うじて致命傷を避けることが出来た。大きく後ろへ飛び退きつつ、切り落とされた左腕を魔神の力で再生させる。


 それを見たボグリスは一瞬目を丸くした後、悔しそうに歯軋りする。今の一撃でリオの戦闘能力を大きく削れたと思っていたからだ。大剣を振り上げ、再びリオへ突撃する。


「てめえ、何腕を治してやがる! 大人しく死ね! 俺の栄光のために無抵抗でくたばりやがれ!」


「それは出来ない! ホールの中で戦ってる二人のためにも! 出でよ、不壊の盾!」


 飛刃の盾では攻撃を防ぎきれないと判断したリオは、右腕に青色のヒーターシールドを呼び出す。再び剣と盾がぶつかり合い、今度は激しい火花が散った。


 決して壊れることのない不壊の盾は見事ボグリスの攻撃を防ぎきってみせたのだ。リオはすかさず飛刃の盾によるシールドバッシュをボグリスの顔面に叩き込む。


「これでも食らえっ!」


「ぐおあっ!」


 渾身の一撃をモロに食らい、ボグリスは屋根の上を吹き飛んでいく。しばらく屋根の上を転がった後、ゆっくりと立ち上がりジロッとリオを睨む。


 顔に付けられた傷が少しずつ治っていき、少し経った後にはもう跡形もなく傷はなくなっていた。由来は不明だが、リオのように治癒能力を得ているらしい。


「よくもやりやがったな……! 俺を怒らせたことを後悔させてやる! ダークネスサンダー!」


「うわわっ! 危ない!」


 リオに向けられた大剣から黒い雷がほとばしる。リオは慌てて横へ飛び、雷を避けた。雷はリオがいた場所を通り過ぎると、霧散して消えていく。


「よく避けたな! だが偶然は何度も続かねえぞ! てめえに当たるまで何度でも雷を放ってやる!」


「なら……こっちだって! シールドブーメラン!」


 雷を放ってくるボグリスに対抗し、リオも左腕に装着した飛刃の盾を全力を込めて投げ付ける。投げられた盾は雷を切り裂き、真っ直ぐボグリスへ飛来していく。


 必殺の雷が通用しないことに焦ったボグリスは、剣を振るい飛来してきた盾を弾き落とす。リオはボグリスの意識が盾に逸れた一瞬の隙を突き、素早く距離を詰める。


「しまった……!」


「懐に飛び込めば雷も怖くないよ! シールドバッシュ!」


 懐に飛び込んでしまえば雷も大剣も使えない。リオは渾身の力を込めて盾をボグリスに叩き付けようとするが……。


「……なんてな。食らえ! サンダーネット!」


「えっ!? わぷっ!」


 ボグリスの纏う鎧の胸元から電撃の網が放たれ、リオを絡め取ってしまう。意表を突かれたリオはカウンターの蹴りをまともに食らってしまい、屋根の上を転がる。


 ネットから脱出しようにも、電流によって動きを阻害され力を出すことが出来ない。ボグリスは醜悪な笑みを浮かべ、リオに近付いていく。


「ようやく捕まえたぜ。さあ、たっぷりといたぶってやるよ。俺の受けた苦しみを、てめえにも味わわせてやる!」


 そう叫ぶと、ボグリスはリオのみぞおちに蹴りの連打を叩き込む。身動きの取れないリオは、肉体強化の魔法を己に掛け耐えることしか出来ない。


「俺はずっとこの日を待ってた! お前を俺の手でなぶり殺しに出来る日を! お前のせいで、俺は全部失った! 勇者としての誇りも、何もかも!」


 目を血走らせ、ボグリスは捲し立てる。しかし、リオからさてみれば彼の怒りはただの八つ当たりでしかない。もっと言えば、逆怨みに過ぎないのだ。


 みぞおちに蹴りを受けていたリオは腕を動かしボグリスの足を掴み蹴りを止める。目だけを動かしてボグリスを見上げ、静かに話し始めた。


「……ボグリスさん。僕が仲間になったばかりの頃のあなたは……こんなんじゃなかった。誰よりも先に危険な魔物に飛び込む、本当の勇者でした」


「だからなんだ! 今さら昔に戻って仲良しこよししようってか? ふざけるなよ。俺より力も人気も上な奴と和睦するつもりはさらさらねえんだよ!」


 苛立たしげにそう叫び、ボグリスは大剣を振り上げる。リオに向かって勢いよく振り下ろすも、ネットから飛び出したしっぽに受け止められてしまった。


 しっぽごとリオを真っ二つに両断しようと両腕に力を込めるボグリスだったが、大剣はピクリとも動かず、逆に少しずつ押し返され始める。


「……かつての勇気あるあなたを、僕は尊敬していました。でも、今は違う。魔の道に墜ちたなら……全力をもってあなたを止める! 命を奪うことになったとしても!」


「ハッ、吠えるじゃねえかよ。で? それが出来ると思ってんのかよ、クソガキが。今のてめえは哀れな虫だ。死を待つだけのゴミなんだよ!」


「違う! 僕はゴミなんかじゃない! 世界を魔王の脅威から守るために力を受け継いだ、新しい盾の魔神だ! ビーストソウル、リリース!」


 ボグリスの罵倒に反論し、リオは己の中にある魔神の力を解き放つ。青色の光が放たれ、電撃のネットを破りボグリスを吹き飛ばす。


 冷気がリオの元へ集い、周囲の気温を下げていく。足場が凍り付いていくなか、ボグリスは見た。絶対零度を支配する、真なる盾の魔神の姿を。


「チィッ……! 調子に乗るなよ、リオ! 俺にはザシュロームから与えられた力がある! 魔神だかなんだか知らねえが……俺に勝てるわけねえんだよおおおお!」


「……」


 ボグリスの叫びに、リオは無言を貫く。両腕を真横に伸ばし、冷気を纏い氷爪の盾を作り出す。ボグリスが放った雷を爪で切り裂きながら、一歩ずつ距離を詰める。


「クソッ! クソッ! クソッ! 何でだ、何で当たらねえ! 俺とお前、借り物の力なのは同じだろうが!」


「ボグリスさん、それは違うよ。僕は受け継いだんだ。アイージャさんからは魔神の力を。そして……あなたからは、世界を救う使命を。この力は……借り物なんかじゃない」


 リオの言葉に、ボグリスは言葉を詰まらせる。己に向かって発せられた言葉の意味が理解出来ず、思わず問い返してしまう。


「……なんだと? 今、誰から何を受け継いだだと?」


「ボグリスさん、もう一度言います。僕はあなたを尊敬していました。口ではどれだけ嫌がっても、横暴な振る舞いをしても……魔王討伐の旅を止めることだけはしなかったあなたを」


 だから、とリオは口にする。その瞳に、強い決意を秘めて。


「あなたが悪へ墜ちたなら、僕があなたの旅路を引き継ぐ。あなたの使命は、僕が完遂させる。それが、かつてあなたの仲間だった……僕の果たすべき責任だから!」


 そう叫ぶと、リオは目にも止まらぬ速度でボグリスへ突進する。大剣構え守りの態勢を取るボグリスに向かって両手を振りかぶり、必殺の一撃を放つ。


「これで終わりにします! アイスシールドスラッシャー……クロスエンド!」


「ぐっ……がああああああ!!」


 決別の一撃が、確実に……ボグリスを捉えた。

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