勇者暗殺を命じられたので勇者のパーティに潜入します

多岐川ノリ

第1話 接触

私は私の体が気に入らなかった。


私は魔物側の存在なのに、よく人間と間違われてきた。

赤い髪に細い身体、少し膨らんだ胸。この体つきが魔物達には「ごちそう」に見えるそうだ。こんな身体、可食部なんてほとんど無いと思うが。

始めて会う魔物からは十中八九人間と思われる。そして、それは間違いだと言うことを示すために、私は先端が銛の様な形をした細くて黒い尻尾を見せなければならない。

この尻尾は私が魔物であることの証明なのだ。だから、普段はこの尻尾を見えるように服の外に出している。


そんな私だからか、魔王様直々に私に命令が下された。


『人間の社会に溶け込み、勇者アディを殺せ。」と。


私は尻尾を服の中に隠し、愛用している剣を携え、遠く離れた地、勇者アディが滞在しているという人間の都市ルオークにたどり着いた。




都市の門を抜けると、門番らしき立派な鎧を着た人間の雄が話しかけてきた。

「お嬢ちゃん、旅の剣士かい?ルオークには何しに来たんだい?」

「え?・・・え、んーと、・・・観光?ってとこかしら?」

「ふーん・・・。」

人間の雄は私の身体を見回した。頭のてっぺんから足のつま先まで。・・・もしかして怪しまれてる?魔物と見破られた?そんなことを考えたら体のいろんなところから変な汗が出てきた・・・。

「・・・ふむ、まぁ、このルオークは旅人が集まる街だ。ゆっくり休んでいくと良い。面倒毎は起こすんじゃ無いぞ。」

「は、はぁ・・・。」

よ、よかった・・・。とりあえずは潜入成功ね。ついでだから勇者のことを聞いてみようかしら。

「ねぇ、アディっていう人間がこの街にいると聞いたんだけど、知っているかしら?」

「え?あ、ああ・・・確かまだこの街にいるはずだが・・・ん?お嬢さん、運が良いな。ほら、あいつがアディだよ。」

と、雄が指さした方を見ると、こちらに向かって歩いている一人の人間の雄が見えた。

見る限り背は小さい、というか、まだ子供じゃ無いの?身につけている鎧も革でできた軽装の鎧だ。だが、その子が手にしている剣だけは立派な物だ。

「アディ!もうこの街を出発するのか?」

「ううん、ちょっと近くの森へ狩に行くだけ。」

「そうか、気をつけろよ!」

「うん、ありがとー!」

ちょっと待って、あれって本当に子供じゃないの?こんな子供が魔王を倒そうとしている勇者?ちょっと力を入れたらポキッて簡単に死んじゃいそう!

・・・そうだ、このまま後を付けて、人が少なくなったら殺しましょう。なんだ、あっさり任務完了じゃない。

ニヤリと心の笑った私はアディに気づかれないよう、遠いところから彼の姿を追った。




ルオークの街から目で見えるところに大きな森が存在していた。アディはこの森へ向かうようだ。

この森に入ってしまえば人目につかなくなる。そこでこの私が手にしている剣で心臓を突き刺せばいい。


・・・と、考えていたのだが。

「お姉さん、大丈夫?」

「え?あ?あ・・・。」

ガサガサって音がして、それが何かを確認する間もなく何かが私に後ろからぶつかり倒れてしまった。気がつくとアディが心配そうに私の側にいた。

アディの後ろを見ると、そこには2匹の狼の姿をした魔物が血を流して倒れていた。

「あいつらがお姉さんにぶつかったときはヒヤッとしたけど、あいつらはみんな僕がやっつけたよ。立てる?」

「う、うん、ありがと・・・。」

・・・ということは、私はアディに助けられたって事?

「とにかく、ここにいたら危ないよ。一緒に街に帰ろう?」

状況がまだ整理できないまま、私はアディにルオークの街に連れて行かれたのだった・・・。


「ところで、お姉さん名前はなんていうの?」

「私の名前は・・・リア・・・。」

「僕はアディ!よろしくね!」

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