02.紬くんの魔力は

「ってことは、おまえのあの強さを見る限り、もしかして俺も最強テイマー!?」


 声を弾ませて尋ねる俺に、しかし、リリスが難しい顔で首を捻る。


「う~ん……」

「どうした? 珍しく難しい顔して」


 珍しくって、何よ!と、頬を膨らませつつも、すぐに続けるリリス。


「えっとね、私が大きくなってる間、魔力の減り方が尋常じゃなかったんだよ」

「ん? メーターみたいなもんでも見えるの?」

「なんとなく分かるのよ、悪魔には」


 今、さらっと言ったけど、おまえ悪魔なの?


「ちょっとざっくりな数値になっちゃうけど……」

「うん」

「一度に使える紬くんの魔力は約十万……」


 高っ!!

 打ち切り直前のバトル漫画みたいなインフレ感だな。

 と言っても、平均値を知ってるわけじゃないからインフレしているかどうかは分からないが。


「ちなみに例えば……そうだな、立夏あたりだと魔力ってどんなもんなの?」

「立夏ちゃんは、私が見た感じ七百くらいだと思う」


 魔法使いソーサレスの立夏でも七百!? 俺はその百四十倍以上もあるってことか!

 測定値はかなり高かったと聞いていたけど、まさかそれほどとは……。

 こいつがそんな魔力スカウターを持っているなら、さっさと訊いておけばよかった。


「で、私を元のサイズに戻すと、一分間に一万くらい魔力を消費する感じ」

「燃費わるっ!!」

「仕方ないじゃん! 私が考えた設定じゃないんだし!」

「じゃあ、おまえをまともに使役できる時間は、せいぜい十分くらいってこと?」


 またしてもリリスが顔をしかめて首を捻る。


「う~ん、私がいろいろ技を使うと、さらに消費は激しくなるっぽい」

「ど、どのくらい?」

「例えばキューティーリリスアタック……ぐるぐる周りから突き刺したやつね」


 あれ、そんな技名だったのか。


「まあ、技名は私がつけたんだけど」

「だっさ! すぐに変えたほうがいいぞ」

「うるさいなぁ! あの技を使ってる時は、一分間に三万くらい減ってた」


 うへぇ……。

 リリスの維持コストだけで一分あたりの消費魔力一万。

 C・L・A(キューティーリリスアタック)とやらを使いながらだと三万。


 そう考えると――


「おまえをまともに使役できるのは、せいぜい二~三分ってこと?」

「ただ、魔力が空になっちゃうと、応急的に体力を消耗するみたいなんだよね」

「ん? リリスおまえの消費魔力からみたら、俺の体力なんてカスみたいなものじゃ?」

「そうなのよ。だから、下手をすると即死ね」


 即死っておい!

 例えるなら、リッター三百メートルの戦車の予備タンクが、一ミリリットルしかないようなものだ。

 メインタンクが空になった時点で予備タンクも一瞬で底を突く。


「今回は……大丈夫だったの?」

「大丈夫じゃなかったから、三日も気を失うことになったんじゃないかな」

「…………」

「紬くんが気を失って杖を落とした瞬間、私も今のサイズに戻ったからギリギリ命は助かったんだと思うよ」

「もうちょっとしっかり握ってたら、もしかして……」

「多分アウト」


 なんという諸刃の剣――。

 いや、もしかすると逆刃刀レベルだぞ、それ。


「一応、私の意思で魔力流入を止めることはできるけどね」

「え、そうなの? あの杖を出してる間、ずっとデカくなってるわけじゃないのか」


 リリスが頷く。


「それを早く言ってくれよ。それなら、ぶっ倒れる直前に小さくなればいいじゃん」

「理論的にはそれでも大丈夫けど、数万レベルで減っていく魔力を残り数百レベルで止めるなんて微調整、できる自信ないよ?」


 それもそうか。

 ぶっ倒れる直前までリリスを使うのは、超危険行為ってことだ。


「紬くんが死んじゃったら私だって消えちゃう可能性があるし、私も気を付けたいとは思っているけど……」


 だいたい理屈は分かった。


 二分だ。


 安全マージンを取って、メイド騎士モードを使うのは二分を目安にしよう。

 ただし、スキルなしの通常使用に限れば八分くらいは引っ張れるか?


「とりあえずこうしよう。魔力が開放解放状態になった時でも、俺がOKするまで巨大化はするな。いいな?」

「うん……」

「で、俺が下がれと言ったら、ちゃんと元に戻れ。いいな?」

「分かったってば」

「………」

「どうしたの? 両手なんか見つめて?」

「……あの杖は、どうやって出すんだ?」

「多分だけど、今までの状況を振り返ると、杖の名前を呼べば出てくるんじゃないかな?」

「名前? って、おれつえーのこと?」


 そう口にした途端、両手に青い光が集まったかと思うと、例の二本の杖が現れる。


「そう言えば確かに、どちらもおれつえーの話をしてた時だったな……」

「うんうん」

「簡単なのはいいんだけど……もうちょっとこう、カッコイイ掛け声にならないの? 何だよ、おれつえーって……」

「紬くんが考えたんじゃない」

「そもそも武器の名前じゃねぇよ!」


 まあいい。こんな単語、日常会話ではうっかり使うこともないだろうし、そういう意味では安全性は高いかもしれない。


 試しに二本を繋げてみる。

 あの時と同じように、接合部分が光り、一本の棒になる。

 幅四十センチほどに渡って、接合部を包むように白いテープが巻かれる。一本にした時にのみ現れるグリップ部分らしい。


 どうせノートの精のご都合設定だし、仕組みなんてどうでもいいが……うん、これはなかなか格好イイな!

 リリカたんのアニメ通り、これは六尺棍ろくしゃくこんと名付けよう。


 ふと、すぐ横で何かの気配を感じて顔を向けると――。

 大きくなったリリスが正座していた。


「おまえ! 俺がOKするまででっかくなるな、ってさっき言っただろ!」

「ああ、そっかそっか。魔力が流れ込んできたもんだからついつい……」

「さっさと縮め! この鶏頭とりあたま!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る