第5話 訪ね来るもの
いつものように歩いていたのに
いつものように犬と散歩していた夜に
いつもは足を止めもしない場所で
足が歩みを止めて犬が不思議そうに
足のまわりをくるくると回っている
線路下の細い道が口を開けて夜を
吸い込んでいる、あの先にはカエルの
墓がある、湧き水の池のほとり
幼い頃に友たちと戯れにいたぶり
殺したカエルの墓がある
友たちのひとりが、皆が帰った後に
石の上に叩きつけられたカエルを
池にかえしていた、私に気がつくと
カエルのお墓はみずのなか、と笑い
ちゃぽん、と水が打たれて響いた
彼とはもう会う事はないだろう
風の噂に九州辺りで台風の日に
貯水槽に落ちたとか、そもそも
顔すら思い出せない色白の少年
カエルのお墓はみずのなか
半袖半ズボンからのびた白い手足
斑ら地のカエルの頭が首から上に乗っている
月の寒い夜には境を越えて彼はやってくる
ぐるぐるぐると喉を鳴らしている
そら、道の暗がりから手が出た
足が出た、白がはえる、はえる
カエルがはえる、犬が吠えた
いつものように足が歩みを止めれば
お前が吠えてくれるのだ、月の寒い冬の
道にはまた暗がりだけが横たわり
いつものように私は犬にひかれて歩き始める
顔すら思い出せない幼い日の友だちの白い
面影はあの月の横顔のように満ちては欠け
またあらわれるだろう、思い出せない
笑みをたずさえて、境い目を漂う、貌
カエルのお墓はみずのなか
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