第34話 「天ヶ瀬の暴走。」

彼女ならば、そばにいて寄り添っていてあげたい。

彼女ならば、苦しみを貰えるならば全て貰いたい。

彼女ならば、痛みを貰えるならば全て貰いたい。

彼女ならば………あんな奴ら、絶対に許さない!!


「恐らく一人は見張りとして、近くで爆破した所を見送り、仲間に報告しているはず。」

私は辺りを見回す。

走りながら、私はひたすらに取り巻きを探す。まだそう遠くには行っていないはず。

ーーーーーー。

ーーー。

ー。


ーーーいた!!


「あんた達のせいでぇー!!」

「やべ、見つかった!」

走り出す取り巻き。だがもう遅い!

私の飛び膝蹴りが取り巻きの頭に炸裂する! 

堪らず倒れ込む取り巻き。

「痛ってぇーー!!」

倒れ込んでジタバタする取り巻きにまたがり、マウントを取る。

「何が!?何が痛いですってぇ!!?何が!何が!何がぁ!!」

私は無我夢中で取り巻きを殴っていた。

この後、私の意識は飛んでいた。



気が付くと、私はパトカーの中に乗っていた。

「天ヶ瀬さん、気が付かれましたか!」

声を掛けて来たのは湯川巡査だった。

「私は…………何故、ここにいるんですか?」

私には何でパトカーに乗せられているのか、全く理解できなかった。


「憶えて……おられないのですか……?」

湯川巡査は怪訝けげんそうな顔を浮かべながら私の手を見てきた。

「その手を見ても、思い出せないかしら……。」

「……………手?」

見ると私の手は、皮膚がめくり上がり血だらけになっていた。


「な、何これ………………。」

私は、一体何を…………。

「貴女は、あの不良グループの内、一人を見つけて、相手が意識を失うまで殴っていたわ。私が見つけなければ、殺していたかも知れないわ。流石にやり過ぎよ……。」

湯川巡査はあくまでも冷静に事の経緯いきさつを話した。


「思い出しました…………。」

「何があったか、話して。」

私は、湯川巡査になぜこうなったのか、詳しく話した。

「なるほど。確かに石原の指示なら、あの現場に爆発したかどうかを確認する見張り役がいてもおかしくないわね。ただし、貴女はいかんせん、やり過ぎた。そういう時は私達に連絡をすべきだったわ。」

湯川巡査の言う通りだった。だけど……。


「とにかく、貴女には署に来てもらいます。ただ、安心して。奴等は絶対に全員捕まえるわ。」

湯川巡査は私にそう語りかけると、パトカーを発車させる。


その時だったーーー。

キキーーーーーーーーー!!

パトカーが急停止する。

「首、いったー!」

「天ヶ瀬さん、すみません!…………東栄坊ちゃん!何をなさるんですか!」

パトカーのすぐ前方には両手を拡げて立ち塞がる東栄君がいた。


東栄君は運転席側の窓を叩き、湯川巡査に窓を開けさせる。


ーーー刹那。


「ふざけるなよ、湯川!天ヶ瀬捕まえてる暇があるなら、爆破テロと強姦魔を捕まえろ! こうしてる間にも、報告係だった奴が捕まったという情報が石原達に流れ、証拠品となるDVDが処分される恐れがある! そうなったら、今までの被害者の無念を晴らせるのか! だから、いつまでも警察は無能だとののしられるんだ!!」

湯川巡査の襟首を掴み上げて、今まで聞いた事の無い怒号を浴びせた。


「このまま放っておいて、証拠隠滅をされたら、俺は貴様達を心底恨むぞ。」

そう言うと、湯川巡査を突き放す。


「おい、湯川!これはれっきとした公務執行妨害、暴行罪だ。僕も捕まえろよ。」

「い、いえ……坊ちゃんは……。」

「なら、僕が良くて天ヶ瀬が駄目な理由は何だ。」

「……………。」

湯川巡査は完全に押し黙ってしまった。

東栄君はチラッと私を見てくる。

ーーーーーー?


「天ヶ瀬を降ろせ、今すぐ。」

湯川巡査は困惑しながらも、東栄君の言われた通り、天ヶ瀬を降ろす。


「だから僕は警察官になりたくないんだ!!」

東栄君の言葉に湯川巡査は何も言う事ができなくなっていた。

「天ヶ瀬さんはとにかく傷の手当てを。連絡係の男は失神しましたが、その後意識を取り戻したそうです。」

東栄は救急車の中に天ヶ瀬を連れて行く。


「坊ちゃん、私は……。」

「湯川、お前は被害者に寄り添えたのかよ。確かに重傷度から言えば、取り巻きの方が上だ。直ぐに救急車で搬送で間違いはない。だが、天ヶ瀬は流血し、まだ血の流れは止まっていない。お前はそれに気付けたか。」

東栄君はチラッと私を見たあの一瞬で、私の手の傷の深さまで見ていたのだ。


「ーーーーーー!!」

改めて私の手の傷の深さを見て驚愕する湯川巡査。

「まさか、先程の一瞬で……………。」


「被害者に寄り添えない奴が警察官を名乗るとは……。まぁ、自由だがな。」

湯川に嫌味たらたらにそう言い放つと、東栄君はきびすを返し、私に声を掛けてくる。


「天ヶ瀬さん、警察署で事情を話してきて下さい。僕と刈谷さんはここで待ってます。」

「……分かりました。ありがとうございます、東栄君。」

「いえ、僕は何も。」


傷の手当ても済み、私は改めて湯川巡査の運転するパトカーに乗り込む。

「派手にやりましたね、天ヶ瀬さん。」

隣には古橋警部が座っていた。

「湯川も派手にやられたね、坊ちゃんに。怖いだろー?俺も前にやられたよ。」

古橋警部はハハハと笑っていたが、とてもそんな心境ではなかった。


この後、私は警察署でコッテリ絞られ、厳重注意として、解放された。

フラフラしながら、警察署を出る。

……………疲れた。

ふと、入り口の広場に目をやる。


「送って行きます。」

入り口のパトカーには、先程の湯川巡査と古橋警部の二人が立っていた。


「連絡係のあの男は、やはり石原の指示で動いていたと吐きましたね。」

「あぁ、後は大田達が別宅を探し当てるのを待つだけか。」 

「彊兵君の容態も安定しているそうです。」


ーーー良かった。


私は窓から空を見上げた。先程まで明るかった空はすっかり暗くなっていた。 


「嫌な予感がする……。」

私には、悪寒しか走っていなかった。

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