第82話 勇者誕生
リディアとトリニティ。規格外である二人の戦いはついに終焉を迎えた。リディアはトリニティの魔剣による攻撃を受けて血塗れで大地に横たわる。一方のトリニティは両の足で大地に立ってはいるが……。
二人の姿を見れば誰が見ても勝者は明らかだ。
この戦いの勝者はリディアだ。
「くっ……!」
傷ついた身体に鞭を打ちながらリディアは身体を起こし始める。左脇腹の傷に関しては回復魔法も
『きゅ……
左肩と左足を完全ではないにしろ治療すると。リディアは、自分の剣を大地に刺して土台にしながら立ち上がる。もはや満身創痍の身体だがリディアは立ち上がるとトリニティを見降ろしながら勝利宣言をする。
「……私の勝ちだな……」
勝者の言葉としては弱々しく様にはなっていないが、リディアはトリニティを見降ろしながら自分の勝利を告げる。リディアはトリニティを見降ろしている。二メートルあるトリニティを見降ろしているのだ。それはなぜか。リディアが見ているのは、両足で立っている下半身ではなく。大地に倒れている上半身だからだ。
「馬鹿な……、馬鹿な……、馬鹿な……、我が負けただと……?」
切断された自らの下半身をトリニティは信じられない様子で眺める。その後に勝者であるリディアへと視線を移す。
(……わからん、わからん、わからん。なぜ、我は敗北した……)
トリニティは半ば呆然自失といった様子でリディアを眺めながら、敗北の理由を考える。だが、いくら考えても敗北した理由がわからなかった。最後の勝負でリディアの『
(なぜ、なぜ、なぜ、斬られた? 今までの斬り合いの中で、あの者の太刀筋は見えていた。それなのに……、あの瞬間だけは見えなかった……。なぜなのだ……。どういうことなのだ……?)
いくらトリニティが考えても答えが出ずにいると来るべき時が来た。突如としてトリニティの下半身が崩壊を始める。
「――ッ!」
時間切れだった。トリニティに滅びの時が来たのだ。下半身が音を立てながら砂のように崩れる様を見たトリニティは恐怖する。自身が滅ぶことに……ではなく。自分の敗北した理由を知らずに滅びてしまうことに恐怖していた。トリニティにとって勝利も敗北も表裏一体だ。真剣勝負の結果であれば、勝利も敗北も受け入れる準備は常にできている。だが、敗北した理由がわからずに滅ぶことには我慢ができなかった。それは騎士にとって最大の恥だと恐怖している。そのため、トリニティはリディアへと懇願する。
「頼む! 頼む! 頼む! 教えてくれ! なぜ! 我は敗北したのだ! 貴公は何をしたのだ!」
「お前が敗北した理由か……。それは――」
トリニティはリディアが発する言葉を聞き逃さないように全神経を集中する。
「――お前が強かったからだ……」
リディアの言葉を聞いたトリニティは滅びる寸前だというのにコミカルに何度も首を傾げる。そんなトリニティを見ていたリディアは理解していないと判断して詳しく説明する。
「……すまん。言葉が足りなかった。……お前は私が新しくとった剣の構えを知っているはずなのに、わからなかっただろう?」
「――ッ!」
リディアからの指摘にトリニティは声にならない声を上げて驚愕する。
「な、なぜ、なぜ、なぜ、それを……?」
「そのはずだ……。お前があの構えの意味に気がついていれば私に勝ち目はなかった……」
「何? 何? 何? どういうことだ?」
「わからないだろうな……。あの構えはな……。お前の構えなんだよ……」
「……我の、我の、我の……。――ッ!」
トリニティの中で全てが繋がる。そう、知っているのに知らない構え。それは、トリニティの構えを一つ一つリディアが再現していたのだ。トリニティにとっては常に自分が行っている構えだが、自分の構えを対面して見たことは今まで一度としてなかった。だが、構え自体は知っている。そのため、リディアがトリニティの構えをしても構えの正体に気づくことができず違和感のみが残ったのだ。
「そうだ! そうだ! そうだ! あれは、我の構えだ! ……だが、待て……。なぜ、我の構えをわざわざ?」
「……お前と剣を交えていて、私はあることに気がついていた。お前の構えには隙があると……」
リディアからの説明をトリニティは黙って聞き入る。
「……だが、それまでだ。隙があることはわかっても……、六本の腕から繰り出される剣技を前にしては、どの剣の型に隙があるかなど短時間では見極められなかった……。だから、考え方を変えた。六本の剣をかいくぐり隙を見つけるのが困難なのだから、一本の剣にしてお前自身に見つけてもらおうとな……」
「そ、そうか! そうか! そうか! 我の敗北理由! 我が強かったからというのは――」
「そうだ。お前の剣の隙を見つけたのはお前自身だ」
そう、リディアが剣を左手に持ち替えたのも、剣の構えを何度も変えたのも全てはトリニティの構えにある隙を見つけることが目的だ。そのために、一つ一つ剣の構えを変えてトリニティへとぶつけていった。その過程でリディアはトリニティに左脇腹を斬られたのだ。だが、斬られたことでリディアは確信する。トリニティの構えにある決定的な隙を……。そして、その隙めがけて『
「わかった。わかった。わかった。……しかし、疑問がある。我が自分の構えに気がつくとは思わなかったのか?」
確かに、この作戦はトリニティが自分の構えに気がつかないという前提で動いていた。もし、トリニティがリディアの構えを見て自分の構えと気がついていれば、作戦は失敗に終わっていた。そんなトリニティの疑問にリディアは自信を持って答える。
「あぁ、確信があった。お前は自分の構えに気がつかないと」
「それは、それは、それは、なぜだ?」
「お前には弟子がいないだろう?」
「弟子? 弟子? 弟子?」
「そうだ。己の剣というのは、なかなか気づきやすいようで気がつきにくいものだ。私も弟子ができて毎日のように私自身の構えを……カイを通して見ているから、いろいろなことに気がつけた。……カイのために、より自分の剣を高めようと構えを見直したりもした――」
自分の構えを語っている……いや、カイのことを語っているリディアは満面の笑顔だ。トリニティはそんなリディアの表情を見て何かを悟る。
(そうか……、そうか……、そうか……、我が負けた理由は……、我が勝負にばかりかまけていたからか……。だが、あの者は違う。弟子……。恐らくその者のために……)
リディアは話を続けていると、トリニティの身体が小刻みに震え出す。その姿を見たリディアはトリニティの気持ちを察する。
(憤慨したか……? 当然かもな……。実力では私の負けだ。この方法はある意味で詐欺のようなもの……。私を卑怯者となじるか?)
トリニティの震えは怒りによるものと、リディアは考えていたがそうではなかった。トリニティは、リディアの想像を遥かに超える者なのだ。
「み、見事! 見事! 見事! 貴公はまさに勇者だ! 我に勝つためにそのような方法をとるとは! 我の完全なる敗北だ!」
清々しい程の敗北宣言にリディアは驚きを隠さずに聞き返す。
「……お、お前は……悔しくないのか? 怒りはないのか?」
「なぜ? なぜ? なぜ? 我は満足しているぞ? 実力差を覆して貴公は我を倒したのだ! 誇ってよいぞ! ……まぁ、悔しくないといえば、嘘になるが……。だが、それ以上に我は嬉しいのだよ! 貴公と……勇者と戦えたのだからな……」
「お前……」
「そうだ! そうだ! そうだ! 最後に口上を述べさせてもらおう。魔王様! お許し下さい! あなたに仕える騎士であり! 剣である我は敗れました……。しかし! お喜び下さい! この者こそが! あなたが探していた勇者です! 我は滅びますが! 魔王様の勝利を信じています!」
トリニティは倒れながら上半身にある六本の腕を高く上げながら高らかに叫んだ。その姿を見ていたリディアはなぜか目が離せないでいた。そして、ついにトリニティの上半身も崩れ始める。しかし、トリニティは困ったように頭を掻いている。
「ふむ。ふむ。ふむ。困った……。予定では魔王様への別れを告げながら身体が崩壊すると思っていたのだが……。うーむ。物語のようにはいかんものだな……」
身体の崩壊が始まっているのにも関わらずトリニティは相変わらずだ。そんなトリニティにリディアが話しかける。
「おい……」
「なんだ? なんだ? なんだ?」
「お前の名前を教えてくれないか……?」
「何? 何? 何? 我は貴公に名乗っていなかったのか?」
「いいや……。何度もうるさく名乗ってはいたが……。覚えるつもりがなかったので聞き流していた」
「そうか。そうか。そうか。だが、名を聞くということは覚えてくれるということか?」
トリニティの問いにリディアは無言だが力強く頷く。そんなリディアを見据えながらトリニティは眼窩に浮かぶ紅い球体を
「では、では、では、聞けーい! 我こそは偉大なる魔王様にお仕えし! 魔王様に剣を捧げし最強の騎士! 魔王様より五大将軍の地位を頂いた我は『
高らかに名乗りを上げながらトリニティの身体は崩れ去る。その姿はまるで物語のラストシーンのようだった。最後にトリニティの名を聞いたリディアは一人呟く。
「……そうか、お前の名はトリニティか……。忘れないよ。『
トリニティが滅んだ後には、漆黒の兜、
(……魔剣が……。そうか……、奴が言っていたな……。五本の魔剣とは繋がっていると……。奴が滅べば崩れ落ちる運命だったのだな……)
リディアは傷ついた身体だが、無言で名もなき聖剣を持つと大地へと突き刺す。そして、柄に漆黒の兜を乗せ、
リディア対トリニティ
勝者リディア
◇◇◇◇◇◇
荒れ地となった大地を踏みしめながらサイラスへとリディアは歩みを進める。しかし、思っていた以上に
(……カイ……。勝ったぞ……。君との……約束を……守った……。早く……伝えなければ……カイの……元に……行かなければ……)
おぼつかない足取りでサイラスを目指していたが、ついに意識が途切れてリディアは倒れる――そのとき、倒れるリディアを支える人物がいた。その人物をリディアはしっかりと見てはいない。だが、リディアにはすぐにわかった。自分を支えてくれた人物が誰なのかを。
「……カイ……。勝ったぞ……」
「……はい……。師匠……。お疲れさまでした……」
リディアを支えた人物。それはカイだ。カイは高速移動でリディアの元へと急いだが、カイが到着した時には全てが終わっていた。傷ついたリディアを見たカイの目からは涙が零れそうになる。それは、リディアが傷ついていることへの悲しみ。勝利したことへの喜び。約束を守ってくれたことへの感謝。それらの感情が複雑に絡み合った涙だが、カイは泣き出しそうになる気持ちを堪えてリディアを背に担ぐと一路サイラスを目指す。
カイの背に負ぶさりながら、リディアはカイへの感謝を改めて感じていた。
(……カイ。……ありがとう。……君と出会っていなければ……、私は奴に勝てなかった……。君の元へ帰りたいと……思えなければ……私は生きて勝利することを諦めていた……。私は……、君と出会えて……人になったんだ……)
一方のカイもリディアを背負いながらリディアへ感謝していた。
(……師匠。ありがとうございます。師匠に出会っていなければ……、俺は死んでいました。師匠がいなければ今も一人ぼっちでした。……俺は、師匠に出会えたおかげで強くなったんです!)
そんな想いを二人は胸に秘めてサイラスへと帰還する。
サイラスへ帰還した二人を待っていたのは、英雄を……勇者を称える大歓声だった。
◇◇◇◇◇◇
魔王城、レイブンの自室。リディアとトリニティによる勝負の結果が出るとユダが机を殴りつけて粉々に破壊する。その行動にレイブン、リコルは何も言わない。ユダの気持ちが理解できるからだ。
「馬鹿な! お前が……負けただと……。トリニティ……」
「えぇ……、残念ね……」
レイブンの言葉に反応したユダが睨みつけるが、すぐに冷静になるように宙を見上げる。
「あぁ、全くだ……。まさか、あいつが負けるとは……」
「リコル。私は研究室へ行くから後始末はお願いね……」
「えっ? あ、は、はい……」
レイブンはリコルへ短く告げると『
「……ふふ。あいつも変わらんな……」
「えっ? どういうことですか?」
「レイブンの奴は……、悲しんでいる姿を人に見られたくないのさ……」
「あっ……。レイブン様……」
「憎まれ口ばかりだったが……、あいつもトリニティをなんだかんだで気に入っていたのさ。……リコル」
「あ、はい。ユダ様」
「レイブンのことは任せる。少し時間はかかるだろうが……、あいつの側にいてやってくれ」
「は、はい! もちろんです!」
元気よく返事をするリコルに寂しげな笑顔をユダが見せるとユダも部屋を後にする。五大将軍『
◇◇◇◇◇◇
戦争終了から一夜明けて、戦いの傷跡がまだ残っているサイラス。だが、今日は悲しみを忘れて戦争の勝利をサイラスにいる全員がお祝いをしていた。その最たる祝いがサイラスの街中を馬車に乗りながらお披露目されている新しい勇者リディアだ。魔王復活が事実なのかはわかっていないが、それでも規格外の化け物である『
沿道を闊歩する馬車の上にいるリディアをサイラスの住民は憧れや尊敬の眼差しで見つめる。そんな視線を一身に浴びているリディアはというと仏頂面だ。あちこちに包帯が巻かれている姿は痛々しいものがあり、そのために表情もすぐれないと多くの人々は思っている。しかし、実際はそんな理由でリディアは仏頂面をしているわけではない。リディアが仏頂面でいるのは、単純に勇者としてパレードに参加することが嫌なだけだ。怪我自体も大体は完治している。唯一、魔剣『カースオブスカー』でつけられた左脇腹が痛むぐらいだ。そんな仏頂面でいるリディアに同じ馬車に乗っているカイ達が声をかける。
「師匠……。少しは笑って下さいよ……」
「そ、そうですよ! リディアさん! リディアさんが主役なんですから!」
「そうだぞ! テメーは勇者様なんだからよ!」
ルーアの軽口に反応してリディアはルーアを睨みつける。リディアからの視線を感じたルーアはカイの後ろへとすぐに避難する。
「ま、まぁ、し、師匠。落ち着いて下さい……。今日はめでたい日なんですから……」
「ふん! めでたいのはいいが。なぜ、私がこんな見世物のように扱われる……」
「そ、それは……、師匠は勇者だから……」
「私は勇者ではない! リディアだ!」
「わ、わかってますよ。師匠……」
「ふん! 君のお願いだから付き合うが、私はこういったことに慣れていない!」
「は、はははははは……」
そう、今回の一番問題だったのはリディアをパレードへと参加させることだった。
◇
サイラストップの貴族アルベルト、ギルド代表のスレイ、商会代表のパッセとケイミー、はては神殿代表のホロなどという大物達がリディアへと直接頼みこんだが、リディアは頑として首を縦に振らなかった。ほとほと困り果てた全員へルーアが提案する。
「おい! オメーら困ってんな! 明日の祝いでメシをたらふく御馳走するんなら俺様がリディアを説得してやるぜ!」
ルーアの提案に全員が首を縦に振り承諾する。するとルーアはいつもの口八丁でリディアへ告げる。
「あー、あー、いいのかねー。せっかくみんなが盛り上がってんのに断って……」
「構わん。私は勇者ではない。それに、目立つことは好きではない」
「ふーん。でもなぁ……。カイも悲しむぜぇー」
「……何? カイが悲しむ……? なぜだ?」
リディアの疑問を聞いたルーアは待ってましたとばかりに話をする。
「考えてもみろよ? カイにとってオメーは大事な師匠だぜ? その師匠が称えられて一番嬉しいのはカイなんだぜ? オメーはそんなカイの気持ちをないがしろにしようとしてるんだぞ?」
「……私はカイのことをないがしろにしてなどいない!」
「だったらパレードに出るのか?」
「……カイに直接聞いてみる……」
そこからは簡単だった。事前にカイへも話は通っていたので、リディアからの質問を受けたカイはリディアへ「パレードに出てくれたらすごく嬉しいです」と伝えさせる。そのため、リディアは渋々ながらもパレード参加を決意する。しかし、条件もつけた。それは――
◇
沿道から馬車に乗るリディア、カイ、ルーア、パフをアルベイン、アリア、スー、ムーといったお馴染みの面々が声援を送る。
「きゃーーーーー! カイ君! 凛々しいわよーーーー!」
「お姉ちゃん! 今回の主役はカイさんではなく。リディアさんですよ!」
「そ、そうだよ。アリアお姉ちゃん……。あっ! ルーア君だ! や、やっぱり可愛い!」
「ムー! 言っているそばから!」
「ご、ごめんなさーい!」
「わかってるわよー。でも、なんでカイ君達も馬車に乗ってるの? こういうのって普通はリディアさん一人が馬車でカイ君達は沿道を歩くとか、リディアさんだけ目立つようにしない?」
そんなアリアの疑問にアルベインが苦笑する。
「あぁ……。それは仕方がないんだ……」
「うん? どういうこと?」
「リディアさんからの要望なんだよ」
アルベインはリディアから出された交換条件を思い出す。
『いいだろう。パレードとやらに出てやる。……だが! 一緒にカイ達も乗ってもらう! そうでなければ私は絶対に参加しない!』
『えっ? えぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!』
リディアからの提案にカイ、ルーア、パフが驚愕するが、アルベルトを始めとした大物達はそれでリディアが参加するのならと二つ返事で了承する。そんな経緯もあり、パレードの馬車にはリディア、カイ、ルーア、パフの四人が乗っている。アルベインの話を聞いたアリアは理解したように何度も頷く。
「なるほどねぇー。まぁ、いいんじゃない? リディアさんらしいからね!」
「お前は簡単に言うなぁー……。こういった段取りは意外と面倒なんだぞ?」
「おっ! 流石は元貴族様ねー。なーに? もう、戻りたくなったの?」
アリアの意地が悪い笑顔からの質問にアルベインは憮然とした表情で答える。
「ふん! 馬鹿を言うな! 私は貴族を辞めた事に後悔はない!」
「あっ、そう。……まぁ、それはいいけど、たまにはアルベルトおじさんのところに元気な姿を見せに行ってあげなさいよ?」
「……私は息子としてヴェルト家の敷居を跨ぐことを禁止された……。もう二度と、ヴェルト家には入れない……」
少し寂しげなアルベインの表情と言葉。しかし、アリアはいつも通りの口調で言い返す。
「何言ってんの? 別に息子としてじゃなくても、ただのアルベインとして会いに行けばいいじゃない?」
「なっ!? そ、そんなこと――」
「できないの? なんでよ? それも禁止にされたの?」
「も、もちろん……。い、いや、……それは、禁止されてはいないが……」
「じゃあ、いいじゃないのよ。ねぇ? スー。ムー」
「えぇ、いいと思いますよ。アルベインさん。私、アルベルトおじさまにお会いする用事がありますから、今度付き合ってもらえませんか?」
「あっ! ぼ、ぼくもあります。お、お願いします。アルベインさん!」
「スーちゃん……。ムー……」
アリアはいつも通りの意地の悪い笑みで、スーとムーは素直な笑顔でアルベインへとお願いをする。そんな笑顔に囲まれてアルベインも笑顔になる。
(そうだな……。たまには、父上に会いに行くか……。ただのアルベインとしてな……)
≪う、うん! それがいいと思う。ぼ、僕も一緒に行くよ!≫
(……あぁ、よろしくな。モルザ)
アルベインの思考にモルザが割って入る。魔槍の正式な持ち主となったアルベインとモルザは精神を同調させることが可能となった。そのため、アルベインの考えはモルザには理解できる。逆にモルザの思考もアルベインは理解できるのだ。
「あーーーーーーーー!」
突如としてアリアが大声を上げる。その声にアルベイン、スー、ムーは驚く。
「もう! アルベインと話してたら、カイ君達の馬車が行っちゃったじゃないのよー!」
「うん? あぁ、そのようだな」
「仕方ないですよ。これからサイラス中を周るんですから」
「そ、そうだよね……」
「もーう! もっと、カイ君を見たかったのにー!」
「やれやれ……」
(こいつは、変わらないな……。だけど……、それがこいつのいいところなんだろうな……)
そうして、パレードも順調に進んでいく。
「やりやがったな! カイ!」
「あの……。フィッツさん? これはリディアさんを称えているんですけど?」
ルーの的確なツッコミを受けたフィッツは豪快に笑う。
「へん! わかってますよ! ルーさん! でも、あいつは本当に凄いんですよ! 友として誇らしい程に……」
「フィッツさん……。えぇ……。私もカイ君が凄いことはわかります……」
「ちょっと、二人とも!」
「うん? ハルルさん?」
「何ですか? ハルルさん?」
ハルルから声をかけられたフィッツとルーは不思議そうな顔をする。しかし、ハルルはジト目で二人を睨む。
「何をまったりしているのよ! リディアさんを! サイラスの英雄をちゃんと称えてあげましょうよ! ほら! 声を出して!」
ハルルから発破をかけられたフィッツとルーは顔を見合わせると笑顔でリディアへと声援を送る。そのとき、ドラン、テツ、レツも横でリディアを称える。
「全く! 大した姉ちゃんだぜ!」
「そうですね! 親方! リディアさんが勇者様なんて……。鍛冶屋としては、燃えてきます!」
「そうかー? 俺っちは、マイペースだぜ?」
「レツ! もっと気合いを入れろよ!」
「えー……。怠い……」
「全く。そんなんだから――」
テツとレツの話が脱線しているとドランが喝を入れる。
「じゃかあしい! テメーら! ごちゃごちゃ言ってねぇーで! ちゃんと声を出しやがれ!」
『は、はいーーーーーーー!!!!』
相変わらずのドラン、テツ、レツの三人だった。
そして、次は
「リディアさーん! カイくーん! 昨日はお疲れ様ー! 今日も忙しそうだけどほどほどにねー!」
「せ、先生……。それは、パレードの声援ではないのでは……?」
「うん? いいのよ。私はリディアさんとカイ君とは友達だから!」
「そ、そういうものですか?」
「そういうもんよ。それよりも、昨日の戦いで面白いことが判明したわよね! モルザ君が魔槍の中に魂だけで生きてたって!」
「先生……。面白いって……。モルザさんにしたら、面白くないと思いますよ?」
「そう? 彼と少し話したけど、そこまで気にしてなかったわよ?」
「いや……、それは無理をしているのでは……?」
「そうかなー? ……まぁ、いいわ。そのうち私がモルザ君に新しい身体を――」
「先生! それは禁止されている――」
クリエとナーブの二人はいつも通りの日々を過ごしている。
そんなこんなで、パレードも佳境へと入る。あと少しでパレードも終了する。その後は、ルーアお待ちかねの食事会になる。パレードの終了が近づいてきてはいるが、リディアは相変わらずに仏頂面でいる。そんなリディアだが、カイの呟きに気がつく。
「……師匠」
「うん? なんだ? カイ」
「……ありがとうございます」
「カイ……?」
突然の感謝にリディアが不思議そうな表情をする。しかし、カイはリディアへ満面の笑みで伝える。
「師匠が守ってくれたんです。俺の……いや、俺達の故郷を師匠が守ってくれたんです」
「私達の故郷……」
「はい!」
カイからの言葉にルーア、パフも笑顔で大きく頷く。そんな家族の笑顔を見たリディアも自然と笑顔になる。その笑顔を見たサイラスの住民からは、今日一番の大声援が飛んだ。
サイラスを守った英雄リディアへ。
新しい勇者であるリディアへ。
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