大賢者への進化条件:それは、どん底を経験すること』〜奴隷の君と共に、レベルアップの先を目指そう!〜
グルグル魔など
プロローグ レベル0.味方だと思っていた、奴隷のあの子も敵でした!
第1話 大賢者が目覚めた日
その日、俺の人生は変わる。
予感があった。嘘じゃない。早起き出来たし、誰よりも先に教室に着いた。
誰にも邪魔されない優雅な朝を過ごせたし、妙に頭がすっきりとしていた。
「あ! 初っ端から落とし穴に落ちやがって! おい! スケルトン! 早く上がって来いよ!」
そして、放課後。
校舎の外に出たら、俺はいきなり落とし穴に落ちて、頭に衝撃を受けた。
閃光のように、痺れるような痛み。
「見ろよ、あの情けない顔! 何が起きたか分かっていないって顔してるぜ!」
すると、これまで頭に掛かっていたもやもやが晴れた。
そして、思い出したんだ。
俺が転生者であり――俺の大切な奴隷が、世界の敵とされる大魔王の娘であることを。
当然。暫くはリアルに自分の身に何が起きたか、分からなかったぞ。
●
この学園で一番のいじめられっ子は誰ですか。
百人に聞けば百人と同じ答えが返ってくるだろう。
それは、聞いたこともない小国からの留学生、スケルトンだと。
伸びきった黒い髪の毛、ガリガリの長身、姿はまるで骸骨みたい、だから俺はスケルトン。
誰が言い出したのかは知らない。でも、いつの間にが学園に広まっていた。
世界各国のエリートが集うこのホーエルン魔法学園。
完全、実力至上主義で運営される魔法学園は向上心の塊みたいな奴らで溢れ、俺みたいな日陰者は底辺を這いつくばるしかない。
「スケルトン! 笑ってるんじゃねーよこの! 何が可笑しいんだよ! エロい夢でも見たのかよ!」
俺は嫌われ者だ。
転生者でありながら、何をやっても上手くいかない不遇な子供時代を過ごしていた。どうして自分が何もしていないのに、嫌われるのか分からなかった。
子供時代、道で小銭を稼ぐ不思議な占い師に言われるまでは。
――俺は職業『
あの占い師から色々なことを知った。
世界の情勢や歴史、生まれ故郷の小国には入ってこない情報の数々を。
そして俺は、理解したんだ。
「……」
あああああああああああ!
この世界、あの『聖マリ』じゃねーかって!
前世で爆売れしていた女性向け恋愛ゲーム『聖女様って、呼ばないで!』。
略して、聖マリの世界に、俺は転生していた。
聖マリは人類を魅了する隠れ職業『
このホーエルン魔法学園には世界から才能の原石が集まる。
聖女マリアは自由に最強のパーティを選抜・育成し、人間と対立している大魔王を倒す物語だ。自由度の高い世界で、聖女マリアが傍若無人っぷりに暴れまわるこのゲームは、男性ゲーマも喝采を挙げている。聖女マリアが作り出すパーティの尋常じゃない爽快感、何を隠そう俺も大好きだった。
「スケルトン! いいこと教えてやるよ! 聖女マリア様が、お前を退学させろって学長に直訴しているらしいぜ! 今度は本気だ!」
何の因果か、俺はそんな世界で小国の王子として生まれ、この学園にやってくることになった。
最悪なことに、あのゲームの主人公、聖女マリアと同学年。
しかも俺の隠れ職業は『
聖女マリアと同学年であることを風の噂で聞いた瞬間、悟ったね。
だって俺の名前は、ウィンフィールド・ピクミン。
あああああああああああああ!
俺って、聖女マリアに罵倒されまくるあのザコキャラじゃん、って!
そういえばあいつ、裏設定で小国の王子って設定あったよな!
だめだ、闇落ちするザコだからかな、すっかり忘れてたわ!
『
聖マリの中じゃ、脇役の脇役の、哀れな子悪党。
世界三大職業の一つ。
大賢者の素質があることから敵のスパイに気に入られたが、結局才能は開花せず、唯一の味方だと思っていたスパイの少女に捨てられ、哀れな最後を迎える。
才能がありながら、ゲームの中で情けない最後を送ったのが俺だ。
俺は――敵側の大幹部をホーエルン魔法学園に引き入れたって理由で、人間世界を追放されたんだ。
「マリア様はお前と授業中ペアを嫌々組まされて怪我をしたんだ! 今じゃお前に興味が無かった生徒も全部お前の敵だぜ!」
ホーエルン魔法学園に入学して、今日で一年。
既に学園の生徒、大半は聖女マリアの言いなりで、傍若無人なその性格に振り回されている。
俺は聖女マリアと出来るだけ関わらないですむようひっそりしたかったけど、『
ゲームの中で出てくる名前持ちの学園生徒で唯一、聖女マリアのパーティへ編入出来ない男、それが俺なんだ。
顔を卑屈にして、歩く。
表情を消して、にへらって。
だって俺はスケルトン。何も言い返さない、無口の男。
ストレス解散のサンドバックにするにはちょうどいい孤高の脇役。
それが、『
「――聖女マリアが、何だよ!」
だけど、今は違う。
俺は、在るべき姿を、思い出したのだから。
「いいか、お前らが敬うあの馬鹿マリアに伝えておけ! お前がやっているそれ! ただのつげ口だから! 何にもかっこよくないから!」
その日、俺の人生は変わる。
予感があった。嘘じゃない。早起き出来たし、誰よりも先に教室に着いた。
誰にも邪魔されない優雅な朝を過ごせたし、妙に頭がすっきりとしていた。
「文句があったら、直接俺に言ってこいッ!」
落とし穴に落ちて、制服を泥だらけにした男――だけど、それも今日までだ。
「――俺は、スケルトンじゃない! 俺の名前は、ウィンフィールドだッ!」
胸を張って、大声で、学園中に響き渡る声量で叫んでやった。
校舎の中からも大勢が、目を丸くして俺を見ていた。
心の底から、すっきりとした最高の気分だった。
粗末なボロ家が見えてくる。
この学園で唯一、隠れ職業『
俺の力は無条件に発動する、だから皆と一緒の寮には住めない。
けれど、今の生活も悪くはない。
このホーエルン魔法学園での学園生活は最悪だが、俺はこのボロ屋での生活を気に入っていた。
扉を開け、ボロ屋に入ると、ずさぁぁぁと、俺にぐりぐりと頭をなすり笑つけてくる誰かがいた。
「——神託が下ったよ、ウィン! 大賢者になるための通過条件、『底辺生活』を達成したって声がさっき聞こえたんだ!」
灰色フード付きの服を着て、俺を見上げる少女。
オレンジ色の髪をおさげにして、まだ幼さがはっきりと残る大きな瞳、小さく筋の通った鼻と口元。
中世的な見た目をしている彼女の名前は、ミサキという。
ミサキは俺がこの学園に来る途中に購入した奴隷であり、聖マリの超有名キャラクターだ。
——つまり、彼女が俺を操っていた大魔王の娘であり、人類の敵なのである。
ホーエルン魔法学園にやってきて、俺は自分が転生者であることも忘れていた。
今なら、ミサキが俺を洗脳していたってことがよく分かる。
さて、俺はこれからどうしようか。
ミサキの洗脳に掛かった振りをするか、この家からミサキを追い出すか。
「ウィン! ねえ! 嬉しくないの! 大賢者だよ、大賢者っ! やっぱり、ウィンは凄い人だって、神様も言っているんだよ!」
「……はあ」
俺の隠れ職業、
聖女マリアの百倍愛しくて、この世界で、なによりも大切に感じてしまう。
くそ。これが、惚れた弱みってやつか。
「――ミサキ。話が、あるんだ」
きょとんとするミサキの顔を見て、俺は言う。
「――とっても、大切な話だ」
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