プレッパーズが異世界転生に巻き込まれてみた

物欲鎌足

第1話

この世には世界滅亡に備える人々がいる。


ある者は、巨大地震の発生による世界滅亡に備え、10年分以上の食料を溜め込み、電気、水道が途絶える時のことを想定し、井戸をつくり、大量のガソリンと一緒に発電機を用意している。

ある者は、X級の太陽フレアによる電子機器の壊滅を発端とした世界滅亡に備え、自家菜園と気候が変化しても対応できるよう百種類以上の作物の種を用意している。

ある者は、核の炎による世界滅亡に備え、棍棒、防弾チョッキ、十数丁の銃、一万発以上の銃弾、数十本のナイフを用意している。

またある者は、ゾンビ誕生による世界滅亡に備え、金属バット、チェーンソーを用意し、お約束を守るためにショッピングセンターを経営している。


彼らのような、世界滅亡に備えあらゆる準備を行っている者を、プレッパーと呼ぶ。

彼らは、他人からどんなに馬鹿にされようが、理解を得られなかろうが、自分の信念に従い世界滅亡に備え、あらゆる用意を欠かさない。世界滅亡した時の行動をプランニングし、予行演習を入念に行う。

最低10年は生きていける食料を用意するのは当たり前。

上下水道が崩壊した時のために、井戸水を汲む施設が家にあるのも当たり前。


そして俺、後藤護もそんなプレッパーの一人である。


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20XX年、世界は核の炎に包まれた!わけではないが、世界は突然崩壊した。

ある日、地球を貫く地軸が反転することで、地殻活動が活発化し、世界最大の火山であるイエローストーン火山が活動を再開、富士山の2500倍と言われていた噴火が実際に起こり、あっけなくそれまでの日常は失われた。


日々何気なく日常を送る普通の人々にとってはそれは突然のことだっただろう。

だが、プレッパーにとって火山活動と大地震による日常の崩壊など、数ある世界滅亡のシナリオのうちのひとつにすぎない。

当然、俺が生まれ育ったプレッパー家族である後藤家にとっては、これまで備えてきた準備で十分に対応できる類いの、なんの脅威にもならないものだった。


今では、空を見上げてもそこに青色を見つけることはできない。

分厚い火山灰混じりの雲で空一面は覆われ、当然、農業による食料確保も難しくなった。

そして、かつて当たり前に手に入った食料は、いまや持たざる者は命がけで手に入れるものとなってしまった。


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とはいえ、それはあくまで普通の人々の話。


「母さん、今日の分のご飯、倉庫からきたよー」

「うん、ありがとー。今日は何にしたの?」

「乾燥コーン。そろそろ保存期限が終わりそうなものを持ってきたよ。」

「そうね、そろそろ食べなきゃなーって思ってたし。」

「あと薫製肉。コーンばっかりだと飽きるからね」

「ん、上出来。お父さんと唯ちゃん呼んできて」

「はいはい、了解」


プレッパーである我が家の食料事情は普通の人とは全く違う。

地球がこんなことになる前に、一日8食分の食事をつくり、あまった5食を瓶詰にし続けてきたのだ。

特に、今日倉庫から持ってきた乾燥コーンは甘みも強、栄養価も高い、プレッパーにとって人気の食べ物である。

ただ、手作りの保存食は、安価に作成できる点では優れているが、やはり市販の保存食と違って保存期間はそう長くない。

プレッパーとしての最低限の嗜みとして、食料関係はたっぷりと備蓄しているが消費していく優先順位としてはやはり手作り>市販の保存食である。

というわけで、今日のごはんは朝は手作り乾燥コーン、夜もまた手作り薫製肉となるわけだ。


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「いや~、ほんと、いつか何か起こると思ってたけど、意外に早かったな。地球崩壊」


といって父親のヒロシが乾燥コーンを食べながらほうばる。

父親が10代前半の頃、とある事件をきっかけにプレッパーとしての使命に目覚めた父親は、サバイバルのために様々な格闘術を学び修練を続けてきたらしい。格闘術を学び続けてきた成果は、分厚い筋肉に覆われた肉体という形で成果にあらわれている。

食卓の向かい側にいるといやでも目につくので非常に鬱陶しい。


「お父さんが言ってた通りだったわね。他人にはたまーに馬鹿にされたこともあったけど、ちゃーんと準備しておいてよかったわー」


そういって、母親のミサエがで父に笑いかける。

今年で35歳になったとは思えないくらい若々しい笑顔だ。

俺の母親は高校卒業と同時に父親と結婚し、俺を生んだ。元々、父親とは家が隣通しで、父よりも五歳下だった母は何故か父親にベタ惚れだったらしく、父親の後ろをいつもついて歩く様子はご近所でも有名だったらしい。ホントか知らないけどね。


「いや、ていうかこんな事になる前は、頭がおかしいと思われても仕方なかったと思うけど・・・。

 世界が滅亡するって思いこんで、そのための準備をし続けてた家族って絶対おかしいよ・・・」


といって、俺の妹である唯が冷めた表情で父と母にツッコミを入れる。

今年小学四年生を迎えた妹は兄である俺が言うのも何だが、容姿だけでいうなら非常にかわいらしい。

勝ち気な印象を伝える大きな瞳、端正に整った顔立ち。クラスメイトの男の何人かに告白された事もあるらしい。

うん、容姿だけでいうなら非常にかわいらしいんだけど、、、性格がね。

俺を含めて、プレッパーである家族の中の例外として、唯はプレッパーではない。

世界滅亡にむけて、あらゆる準備を行い、予行演習を行うというプレッパーの義務を「頭おかしいなじゃないの」の一言で放棄してきたのだ。

うん、まったく愚かな妹である。

今の現状をみると、正しかったのは世間かプレッパーか、火をみるより明らかだと言うのに。


(小さい頃は、俺のやることを真似てみたり、可愛かったんだけどなあ...)

「なに、おにぃ。こっち見て変な顔しないでよ、キモい」


といって、ジト目でこっちをにらむ唯。

うん、やっぱり可愛いのは容姿だけだな。お兄ちゃん悲しいよ・・・。


そんなこんなで、世界が滅亡している中、後藤家の日常は淡々と、ごくごく平和に流れているのであった。

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