第31話 魔物牧場計画《捕獲:後編》


 そして彰吾が森林へと戻るのと入れ違いで、別れて行動していた猟師型2体がウサギのような魔物を連れてきた。後にも20分ほどの感覚で別行動中の猟師型達が小型の魔物を捕まえてコンテナに用意されていた籠に入れていった。


 自分がいないところでそれだけの数が捕まっているとは思っていない彰吾は、先ほどよりも森林の奥へと入っていた。


「こういうところなら奥に強い奴がいると思ったんだけど…そうでもないか?」


 奥に入って20分以上も探索しているがビックボアよりは強い魔物も数体は見かけたが、どれも巨体すぎて試験的にやる魔物牧場には合わないので適当に威圧して追い払った。

 もっとも希少種や変異種のようなレアと言えるような魔物が出れば大きさなど関係なく捕獲するつもりだったが、そんな簡単に見つかるわけもなかった。


 だからと言ってビックボアしか捕まえていないのも問題だと思っている彰吾は、手ごろな大きさで数が増えそうな魔物を探していた。


「う~ん…狼も悪くはないけど弱いんだよなぁ」


 別に強い魔物を求めてきたわけではないが、それでも今後もし魔王城に人間が攻め込んできた時に自分の身くらい守れる強さは欲しい。もちろん鍛えるつもりでいるが、どこまで強く成るのか予測することはできないので最初から一定の強さが欲しかったのだ。

 そんなことを考えながら更に森林の奥へと進んでいった。


「うん?」


 しばらくすると何かが戦っている音が聞こえてきて、その方向へと向かった。


『グルァァァッ‼』


『キュィィィィィッ‼』


 そこでは二階建ての家くらいの大きさの凶悪さを倍増させたようなゴリラのような魔物と、一回りは小さいがそれでも巨大な三尾の狐の魔物が戦っていた。

 ゴリラのような魔物は腕の筋肉を隆起させ地面にクレーターを生み出すようなパンチを放ち、それを素早い動きと柔らか体を器用に使って避けた狐は三本ある尾の真ん中の一本で鋭い突きを放った。


 もっとも巨体には不釣り合いな動きでゴリラの魔物も攻撃を躱していた。


 ドゴン‼


「うおっ!凄いな~岩に穴開いたぞ」


 躱された尾は轟音と共にゴリラの魔物の背後にあった巨大な岩に綺麗な穴をあけていた。まだ魔物同士の戦いは続いていたが彰悟は静かに穴の開いた岩に近づいていた。


「すごく綺麗に穴が開いてるな。断面も滑らか…」


 触って確かめるとツルツルと凹凸が一つもない綺麗な風穴で、その穴を確認すると彰吾は狐の魔物へ目を向けた。


 基本的な攻撃手段は三本の尾を使った多方向からの突き・薙ぎ払い・締め付けの三種類で、他にも噛み付きや爪もたまに使っていたが魔法などは使用していなかった。

 それでも余裕で対処するのは難しいと思わせるほどの速度で緩急をつけて動くため、残像が生まれゴリラの魔物は攻撃を躱すことはできても当てる事はできずにいた。

 しかし躱しているとは言っても本当にギリギリで少しずつ削られていた。


 そうして観察し始めてしばらくすると彰吾はあることに気が付いた。


「狐の方、息が上がってきてるな。ゴリラもだけど、消耗は狐の方が激しそうだな…」


 圧倒的に優勢だったはずの狐の魔物の動きが急激に鈍くなり始めたのだ。

 直前までのダメージもあってゴリラの魔物も攻撃が致命傷は受けていないが、今まで一撃も当たる気配のなかった攻撃が掠っていた。

 そのことにゴリラの魔物も気が付いたようで体中から血を流しながら戦意の滾った目を浮かべる。


『グルゥゥゥァァァァッ!!!!!』


 空気その物を振動させているかのような雄叫びを上げたゴリラの魔物は、もはやなりふり構わずというように暴れまわる。


「うわぁ…面倒になってきたな」


 飛んでくるゴリラの魔物が砕いた地面や木の破片を適当に叩き落としながら彰吾はげんなり…としていた。

 あわよくば両方を捕まえようとタイミングを見計らっていたんだが、どう見ても暴走に近い状態のゴリラの魔物を捕まえるのは無理。と言うよりも、この暴れようではダメージは無くても近づくだけでも大変で面倒だった。


 そんな中で狐の魔物は自分を認識すらできていない敵を前にして、疲弊した体で何故か逃げるでもなく立ち向かっていた。


「なんで逃げないんだ?」


 不思議に思った彰悟は一つの可能性に気が付いて周囲の気配を全力で探る。


「……見つけた」


 そして予想していた通りに狐が絶対ゴリラの魔物を進ませない方向に、小さな気配を感じ取ると真っすぐに向かう。

 向かった先は二体が戦っている場所から30mほど離れている所で、周囲の樹と比べると一回り程大きな木に空いた穴の中に在った。


「これは…石か?」


 確かに生き物のような気配を感じて見に来たわけだが、しかし彰吾の目の前にあるのはどう見ても石だった。灰色でゴツゴツしている、どこにでもあるような石ころだ。

 念のために気配をもう一度探ると間違いなく目の前の石から感じる事が出来た。


「…?とりあえず、割ってみるか」


『⁉』


 そして見ているだけでは結論などでないので彰吾が割ってみようと言うと、ただの石のはずがわずかに動いて見えた。


「……やっぱり火で炙るか」


『⁉』ビクッ


 確かめるために物騒な事を試すと言えば石はやはり動いた。

 それでも一瞬の事で何事もなかったかのように擬態を続ける一見は石に見える、もっとも一度動いた後では上手く擬態しようが意味はない。


「氷漬け」


『⁉』ビクビクッ


「『………』」


「5…4…3…2…1…ぜ『キュゥ~!』っ逃がすか‼」


 最終的にカウントダウンを始めると恐怖に勝てなかったようで、幼くか細い鳴き声を上げて逃げ出した。だが彰悟には余裕で捕まえられる速度でしかなく、反射で手を伸ばし鷲摑みにして捕まえる。

 その手に握られていたのはゴリラの魔物と戦っていた狐によく似た1尾の手のひら大の子狐が居た。


「さて、あの反応から見て言葉を理解できているな?」


『キュ』


「なら先に言っておくが俺に害するつもりはない。元々の俺の目的は手ごろな魔物を集めて、別の場所で生活してもらう事だからな。殺したりしたら意味がないんだよ」


 意思の疎通が可能だと確信を持つと彰吾は自分の目的と害する意思がない事を伝えた。すると完全には警戒を解くことのなかった子狐は疑うようにじー…っと見つめる。

 しばらく無言で見つめ合うと子狐が先に景気を解き、放してほしそうに手を軽く舐めた。


「っ…少しくすぐったい。放すからやめてくれ」


 小さな舌で舐められるのは思った以上にくすぐったかったようで、すぐに彰吾は捕まえていた手を放した。

 地面に落ちそうになった子狐は小さな体を器用に使い見事に着地して、小回りの利いた動きで彰悟の肩へと登って何かを伝えるようにぺしぺしと叩く。


「おまえ、親を助けてほしいのか?」


『キュッ!』


「馴れたら極端に図々しくなりやがったな…」


 ようやく意志疎通ができたばかりで遠慮なく頼みごとをしてくる子狐に若干呆れながら、別に断る理由もないので溜息を洩らしながらも了承した。


「はぁ…いいけど、なら落ちないようにポケットに入ってろ」


『キュゥ⁉』


 無造作に掴まれて子狐は上着の胸ポケットに押し込められる

 無事に入ったのを確認して彰悟はまだ破壊音の聞こえる方へと急いで向かう。


 そこではいまだに暴走状態で大暴れするゴリラの魔物を子狐のいた方向へと進ませないよう、必死に自身へ意識を向けさせようとしている三尾の狐が動き回っていた。

 だが、すでに三尾の狐は動きが鈍くなってきていた。


「少し傷も増えてるな…」


『キュ!キュッ‼』


「あぁ~!もうっ‼わかったから、髪を引っ張るな⁉」


 現状の確認をしている彰吾を急かすように子狐は全力で引っ張るので、考察をすることが出来なくて慌てて引きはがす。


「まったく、もう少し見ていたかったけど…やるか」


 そう言うと彰吾は普段は人形兵に任せるところだが、今回は戦闘力が高い人形兵を連れてきておらず。更に新たに戦闘用の人形兵を創り出しても能力は初期値、目の前で現在進行形で暴れているゴリラの魔物相手には不安が残る。

 以前、人間の討伐軍を追い払ったようなドラゴン型なんかの人形は強すぎて、三尾の狐を巻き込みかねないので逆に出すことができない。


 なので取れる手段は1つ、この世界に来てから初めて彰吾が単独で対処に動いた。


「このくらいならスキルは『手加減』以外は必要ないな」


『⁉』


 地形を変える勢いで戦い続けるゴリラの魔物を前にして力を制限するスキルを使うという彰悟に、子狐が驚きの反応をした瞬間に彰吾はすでにゴリラの魔物と三尾の狐の間に立っていた。


『『ッ⁉』』


 文字通り急に目の前に現れた彰吾にゴリラと狐の2体は動きを止める。

 暴走していても普段以上の能力を発揮していたゴリラは、強化された自分でも視認のできない速度に暴走状態すら解除されていた。

 そして三尾の狐も自身の力を正確に把握しているからこそ、目の前の人間のような姿をしたに対して恐怖から動くことすらできなくなっていた。


「さて、おそらくお前ら2体は言葉が理解できるな?」


『『……』』コク


「なら簡単に話をしようか。俺の元にこい、より強く・賢くしてやる。なによりも強い敵と、安息の地を用意してやろう」


 なにかのスイッチが切り替わったかのように普段の気だるげな様子とは反対に、圧倒的な強者の魔王としての雰囲気を纏いながら2体へ向けて宣言した。

 そこには不思議な魅力と拒否を許さないような重圧が含まれていた。


 そんな圧を正面から受け止めた2体は気が付けば自然な動作で頭を垂れる。


『シ、シタガウ!ダカラ、ツヨクシテクレ‼』


 ゴリラの魔物は少し聞き取りにくいが理解できる程度の言葉が話せるようで、彰吾へと必死にそう言った。

 最初は言葉を話したことに少し驚いていた彰吾だが纏う雰囲気を崩すことなく、しかし楽しそうに笑みを浮かべる。


「先ほども言ったが、その願いは叶えてやろう。今のお前とは比べ物にならないほど強く、賢くしてやる。そうすればいずれドラゴンすらお前は単体で倒せるようになれる」


『ナラバ、チュウセイヲ…チカウ』


 暴走していたのが嘘のように理性的になったゴリラの魔物は、こうして改めて首を垂れ彰吾に従う事を決意した。そうして大人しく従属を誓ったゴリラの魔物に満足げにうなずくと、彰吾はもう一体の三尾の狐へと向いた。


『我が子を保護してもらいたい。それが受け入れられるのなら、私も従おう』


「構わない。と言うか、お前の言う子供って…こいつだろ?」


『キュ~~~‼』


『ッ⁉なぜ、ここに!?』


 三尾の狐からの提案を聞いた彰吾は懐に仕舞っていた子狐を取り出すと、小狐は飛び降りて三尾の狐へと飛びついた。

 この場に居るとは思っていなかった三尾の狐は驚きながらも受け止めて、彰吾へときつい視線を向ける。 


「おっと、勘違いはするのよ。俺はお前が何かをかばっているような動きが気になって見に行っただけだ。そこで、そいつを拾って親を助けてほしいと言われたか来たんだよ。つまりこの状況を作ったのは子狐だな」


『坊…そんなことを…』


『キュゥ……』


 自分の子供の予想外の行動を聞いて三尾の狐は驚いていたが、自分へ体をこすりつけて寂しそうな声で鳴く子狐に攻めることなどできず…困ったようにしながら自身もかをこすりつけた。

 そんな親子の美しい光景を前にして彰吾は少しの間待つことにした。


『時間を取らせて、すまない』


 しばらくすると落ち着きを取り戻した三尾の狐は彰吾へと謝罪した。


「気にしなくていい。それよりも…答えを聞いてもいいか?」


『…今更聞くとはお主も人が悪い。もちろん受けさせてもらう…いや、配下に加えていただきたい』


「もちろん喜んで受け入れよう」


『キュッキュ――――――‼』


 こうして強い力を持つゴリラと三尾の狐と言う2体の魔物と子狐1体が仲間へと加わった。

 ただ2体が想定よりも巨体を持っていたので追加で大型のドラゴン型人形を輸送用に創りだすことになったり、元の位置に戻ると予想以上に捕獲された小型の魔物で輸送用のコンテナは埋まっていたり、予定よりもいい結果によって困ってしまう事になるのだった。


「この数…管理できるかな?……もっと人形増やそう」


 さすがに不安になった彰吾は人手確保のために必要な人形兵を追加することにした。なので移動中はどんな形が一番最適なのかを考えるため、ゆっくり飛んでもらうのだった。

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