第29話 魔物牧場計画《始動》


 久しぶりにまともに体を動かして、すぐ後に頭も働かせてよほど疲れていたのか、次の日の昼過ぎまで彰吾は一度も起きることなく寝続けて…執事型人形によってたたき起こされた。


「うぅぅ……痛くないし、自分で命令したことだけど…別の方法にしようかな?」


 ダメージ自体はないけど毎回起こされる時に腹を強い力と勢いで押しつぶされるのは想像していたよりも辛かったのだ。なにより他の方法だと自分が確実に起きれるとは思えないという、なんとも情けない理由で変えることもできずにいた。


「とりあえず、なんか食ってから考えるか…」


 そして少し考えるとこうして面倒になってしまって後回しにするので今後も変わることはないだろう。

 しばらくして顔も洗い、手早く朝食?を済ませた彰吾は座り心地最高の玉座に意味もなく座って…暇になっていた。


「あぁ~……やる事真面目になくなってきたな。本はだいたい読み切ったし、料理は俺がやるより人形の方が美味い、工作やらも他の奴の方が基本的に上手いから任せた方がいいし…何やろうかな~」


 すでに人形兵達は不眠不休で動けることもあって彰吾よりも戦闘以外の技術ではわずかに上回り始めていた。四六時中、なにもしないで寝ている事の多い彰吾とでは差が広がるのは当たり前だったが、それ以上に彰吾が確認できていないことに理由はあった。

 それはユニークスキルの一つ【怠惰】の鑑定しきれていない能力だった。


 そのことに彰吾が気が付くのはかなり先の事ではあったが、なによりも現状で一番大事なことは今回多く消費した残存魔力の定期的な補給方法の確立だ。

 基本構想はなんとなく一応はできていたが具体的にどうするか?と言うところが一番の問題だった。


「配下でも回収できるみたいだからいいんだけど、やっぱり全体数がどうしても少ないんだよな。効率っていうところだけ考えると敷地内で死んだ方が効率は良いけど、まさかエルフとか人類種を効率のために殺すわけにも行かないしな…」


 無駄に座り心地の良い玉座で数日前に見つけたリクライニング機能を使い、寝転がるようにして天井を見上げる。

 見上げたからと言って簡単に答えが出るわけではないけど、スキルの影響なのか横になるなどの楽な体勢の方が思考がはかどるようになっていた。こちらの世界に来て過ごすうちに彰吾も思考の効率の変化に気が付き、元から横になっているのは好きだったので考え事をするときは楽な体勢をするようにしていたのだ。


「……人数増えたし、やっぱり牧場でもやるか…」


 そして考えた結果彰吾は効率的なMP確保の方法を考えだした。

 方法とは言ってもMP回収法則は一定範囲内の生物から漏れ出る魔力、または死亡した時に回収されるようになっている。ただ人形兵のような魔王である彰吾のスキルなどで生み出した存在は回収対象外なので、現在とれる方法で簡単なのは以前にも考えた『牧場』と言う選択肢だ。


 ただ牧場をやるのに必要な広大な土地は無駄に広範囲を囲んだ、魔王城敷地内ならどこでも改造可能なので問題はない。人手に関しても草木に詳しいエルフに牧草なんかの柄さの管理を手伝ってもらい、手伝いとして新しい専用人形兵を用意すればいいので同じく問題はない。

 では、何が一番難しいのかと言うと『』それを確保することだった。


「この辺の生き物、安全確保で殲滅しちゃったんだよな…」


 そして今言ったように彰吾は魔王城を創り出した時に周辺の危険性の高そうな生き物を、魔王城の敷地から追い出し、周辺1㎞の範囲で人形兵を大量投入して殲滅してしまっていた。

 自身の強さの分からなかった当初は身の安全を第一に考えての行為だったが、現在となっては完全に裏目に出ていた。


「さすがに街まで行って買い入れるわけにも行かないしな」


 普通なら街などで承認や業者を投資て最初は手に入れるのが普通かもしれないが、すでに人間と戦闘状態に入っている魔王が人間の街に買い物に行くのは問題が多すぎた。


 一応見た目こそ人間だけど彰吾は魔王であるため人間は本能的に拒否感を示すし、最近手に入れた称号【人類の脅威】の効果で悪感情がより持たれやすくなっている。

 もっと根本的な問題を言えばお金もない。


 という事で、結局のところ残された手段は1つしかない。


「遠くまで行って捕まえてくるしかないか」


 最後の手段とは遠征しての確保という力業に頼るしかなかった。

 ただ力業でやるにしても今の魔王城にいる戦力は殲滅なんかを目的に作り出した人形兵が中心で、なので用意している武器も無力化に向いた物も用意できていなかった。

 そのため生け捕りにするならそこからなのだが、この世界の生き物は基本的に魔物だ。地球出身の彰吾には魔物を捕獲する方法の知識などあるはずもない。


「普通の動物用の罠を強度と威力強化すれば行けるかな。いや、念のためにエルフ達にも聞いた方がいいか」


 少し考えてから彰吾は不安なことについては現地のエルフ達に聞くのが一番だと判断して、話を聞く事にした。やる事が決まれば後回しにする方が後々大変だと思った彰吾は、すぐに聞きに行く事にした。

 向かうのは一応、城内と言う事もあって近い調薬室にいるルーグ老達だ。


 そして彰吾が調薬室に入ると作業していたエルフ達は手を止めて挨拶しにやってくる。


「魔王様!ようこそおいでくださいました」


「あぁ…本当に畏まったりしなくていいから。楽にして、正直に言うと苦手なんだよ堅苦しいの」


「は、はぁ…できる限りは気を付けまする」


 代表して話していたルーグ老は上位者であるはずなのに畏まる必要のない、むしろ畏まるなと言われて混乱していたが恩人の言葉なので頷いて答えた。

 他の話を聞いていたエルフ達も混乱しているようで、それを見た彰吾も望み薄だな…と少し残念に思いながら本題を進める事にした。


「今日は変更した調薬室の様子も見たかったんだけれど、それよりもルーグ老達に聞きたいことがあったんだ」


「聞きたい事ですか?なんなりとお聞きくだされ。儂等の知っている事でしたら幾らでも…」


「なら、魔物の捕獲方法とか知らない?」


 問題なく受け入れてもらえたので彰吾はさっそく質問した。

 その質問を受けてルーグ老達は何故そんなことを聞くのか?と不思議そうに首をかしげていたが、小声で話し合うとやはり代表してルーグ老が答える。


「魔物の捕獲方法なら存じております。ただ、特別なにかやっているわけではないのですが…それでもいいですかのう?」


 本当に特殊なことは何もないようで後ろのエルフ達も不安そうに彰吾の様子をうかがっていた。

 当の彰吾はむしろ嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「あぁ問題ない。むしろ、そういう一般常識には俺は疎いからな。これからも聞くことが確実にあるから知っておいてくれ」


「わかりました」


「それじゃ、さっそくで申し訳ないけど詳しく教えてくれ」


 それから彰吾は1時間ほど魔物の捕獲に使える方法などを詳しく聞いた。

 結果としてわかったのは『魔物の捕獲において重要なのは奇襲・毒・拘束具の3つ』だという事だった。

 話した内容自体はもう少し細かく、魔物の種類などによっても効果の高い、または効果のない薬品もあるなどの話も聞いた。


 しかし根本的に重要なことは『気が付かれることなく、動けなくする毒を投与し、最後に壊れることのく拘束する』これで初めて魔物を捕まえる事ができる。

 ただ他にも大きな問題があった。


 拘束して捕まえる算段は付いたが、捕まえた後に暴れさせることなく管理することだ。これについても彰吾はルーグ老に聞いていみると、あまり期待していなかったのだがしっかりとした答えが返ってきた。


「魔物は基本的に実力社会とでも言いましょうか、群れのボスを従える事が出来れば群れその物が従ったという例もありまする。他にも正面から叩き伏せる、食料や安全を保障することで取引することのできる魔物もおります」


「そうだったのか。つまりは相手よりも強いと証明すれば従える事ができるってことか?」


「はい、その認識で間違っておりません。ただ問題は圧倒的実力差がないと、従う事がないために一定以上の実力が求められるのですが……魔王様には関係ございませんか」


「はははっ!まぁ…否定はしないよ」


「っ」


 笑っていた彰吾の表情を見たルーグ老達は一瞬漏れ出た魔王としての魔力を、エルフとしての鋭敏な感覚で感じ取れてしまい全員が冷や汗を浮かべて青褪める。

 その変化に気が付いた彰吾は慌てて魔力を少しも漏れないようにコントロールする。


「すまん。テンションが上がって緩んだ」


「い、いえ、お気遣い痛み入ります…」


「説明ありがとう。今日はもう無理せず休んでくれ」


 罪悪感から少し申し訳なさそうにしながら彰吾は逃げるように調薬室を後にした。


 そして出ていった彰吾を見送って少しするとルーグ老達は小さく息を吐きだした。


「ふぅ……なんと強大な魔力じゃろうな」


「ほ、本当ですね…」


「はい、魔王様が敵じゃなくて本当によかったです」


「そうじゃな。とにかく、まず儂等は受けた恩を返し、そしてあの魔力を耐えられるようになる事が目標かのう」


「「「っ⁉」」」


 なんてことはないルーグ老の発言に他のエルフ達は驚愕の表情で振り返る。

 そこにいたルーグ老の顔はどこまでも本気だった。なにがルーグ老を本気にさせたのかはわからなかったが、昔からの付き合いに調薬室での実験の日々から彼等も何か理由があるだろうことを察した。

 どう頑張っても魔王の魔力に耐えられることができるとは思えなかったが、それでも応援し目指すことは悪い事じゃないだろう。


 そうして気持ちを切り替えてルーグ老を筆頭に調薬室は今まで以上にやる気に満ちて研究に没頭するのだった。



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