第22話 ドラゴン人形VS討伐軍《前編》
そして壊滅した街を出て森の中を進んでいる人間達の討伐軍は街を出て1日ほどの距離にいた。
今は夜という事もあって森は暗闇に包まれて1m先も見えなず、更には姿はハッキリとは見えないが無数の獣や魔物が活発に動いていた。
普通の人間だったなら森の中で安心して野営などできないが、しかし討伐軍は連れてきた魔法兵達が結界によって獣や魔物は近寄れず、軍事品の魔道具の照明によって明かりは確保されて結界内は昼間と変わらぬ明るさを保っていた。
その中心に一際大きく豪華な天幕が設置され今後の動きに関する話し合いが行われていた。
「全体的な消耗具合はどうですか?」
近衛騎士5番隊:隊長であるルーシャス・ハンドラは天幕の中で真剣な表情で確認した。ちなみに現在は昼間に顔を隠すように付けていたヘルムを外し、その綺麗な顔を出していたが天幕の中にいるのは彼女の素顔を知る人物達だけなので誰も気にしていないだけである。
そして隊長からの質問に対して答えたのはルーシャスからみて左側の席に座っている男だった。
「全体的な消耗は軽微です。途中の魔物との戦闘もほぼ我々で対処したので問題はなく、物資も10日は戦える量が確保できています。ただ慣れない環境に加えて転移酔いで体調不良を訴える者が数名いますが、一晩休めばある程度までは回復するかと思われます」
「なるほど、で体調不良の者達は休ませて見張りは奴隷部隊にやらせなさい。他は明日からが本番だと思い十分な休息をとるように全体に伝え、酒類は出せないが食料を多少消費しても構わないから食べさせておけ」
「わかりました。すぐに準備するよう伝えます」
「では、本題に入ろう」
部隊間の話をしていた時とは一転して会議用の天幕の中は張り詰めた空気が広がった。先ほどまでは薄ら笑いを浮かべていた者も真剣な表情を浮かべていた。
一度全員の顔を見回して確認してルーシャスは口を開いた。
「付近にドラゴンのいる痕跡は発見できたか?」
「いえ、明るいうちに確認させましたが何も見つけることができませんでした」
「ならば、もう少し奥まで確認に行く必要があるな」
「それならば一応ですが少人数の部隊を探索に出しておりますので、時機に報告が来ると思われます」
「わかった。では、報告が来たら就寝中でも起こして構わないから知らせに来るようにしておけ」
「わかりました」
独自の判断で出した探索隊だったので叱責される覚悟での発言だったようで、ルーシャスが真剣に受け止めると安心したように胸を撫でおろした。
その後も続々と自分達の部隊で行っていた事を自信に満ちた様子で話していった。
最初は全員が独自に動いていただけに叱責、あるいは最悪の結果になるのでは?と不安もあったが1人が無事に乗り切ると全員が安心して報告することができるようになったという事だった。
そして本格的な話し合いが続くこと1時間ちょっと今後の作戦を含めて方針が決まった時、外が騒がしくなったことで異変に気が付いた。
「何か起こっているようですね!行きますよ‼」
「「「「「はっ!」」」」」
騒動に気が付いて動き出したルーシャスに続いて他の面々も続いて行った。
天幕を出ると外は修羅場と化して兵士たちが走り回っていた。
その中を近くを通った一人を捕まえてルーシャスは何が起こっているのか確認することにした。
「そこの者!何が起きているのか簡潔に教えなさい!」
「そんな場合じゃっ⁉隊長方!」
「今は礼儀などはどうでもいい‼状況を教えろ!」
咄嗟に敬礼しようとした兵士に対してルーシャスは緊急時ゆえに畏まった対応など求めてはおらず、威圧する如くは気を放ちながら怒鳴るように命令した。
その声によって兵士の男はおびえたように一瞬震えさせたが、これ以上答えなかった時に何が起きるのかを想像して急いで現状を説明した。
「現在このキャンプへと謎の魔力反応が北西より急速に接近中!その魔力反応の大きさから件のドラゴンである可能性があるとのことで、現在戦闘か!撤退か!と混乱状態となっております‼」
つまり大規模な調査だと聞かされて参加している兵士がほとんどの討伐隊は半ば機能していなかったのだ。
一応だが討伐隊という名称と近衛騎士達が参加しているので、本気で討伐する気なのだとは理解していても自分達が戦うとは誰も思っていなかったのだ。
更には近衛騎士達が会議していたのでどのように行動するべきか意見がまとまらなかったのだ。しかも中には逃げ出そうとする者すら現れていて混乱は収まらず激しさを増してしまった。
その現状を聞いたルーシャス含め近衛騎士達は想像以上に酷い軍の現状に苛立ちを隠せなかった。
「っそんなことで一々迷うな!我々は最初から戦いに来ているのだぞ‼」
「は、はい!申し訳ありません‼」
「謝罪はいらない!すぐに動ける隊長共を集めて軍を再編成、迎撃の準備をするように伝えろ!」
「は、はっ!了解しましたっ」
あまりの気迫に指示を出された兵士は瞬時に行動に移った。
そんな兵士を見送りながらルーシャス達は呆れたように溜息をこぼしそうになるを堪え、なによりも目前に迫っている敵へと意識を切り替えた。
「悠長に話し合っている場合ではなくなってしまったようだ。各員、部隊へ戻って他の者達の統制を取って準備を急げ!」
「「「「「「はっ!」」」」」」
近衛騎士達は綺麗に敬礼すると一斉に自分達の隊へと向かって駆け出した。
そして1人残ったルーシャスは自分のテントの中に戻ると手早く装備を整えて精神を落ち着かせた。
これは戦闘前にいつもやっているルーティンであった。
戦闘前にはどうしても緊張に恐怖様々な感情が訓練していても出てきてしまう、その感情が隙を生んで致命傷を受けないとも限らないためにルーシャスが自分なりに考えて決めて行っていた。
時間にするとほんの数分で完全に精神を研ぎ澄ませて戦闘時の精神状態なったことを確認すると外へ出たのだ。
すでに指令が伝わっているのか兵士達の混乱は収まり始めていて、ほとんどの兵士たちは目的を持って行動しているのが見て分かった。なにせ装備すらまともに付けていないようなものが多く見えた先ほどまでとは違い、今は全員がちゃんと装備を身に纏って2~3人ほどの組になって動いていたからだ。
なにより全員が命令されて目的をもって行動しているので動きに迷いがない。
その様子を見て問題がないと確信してルーシャスは満足そうに最前線となる場所へと向かった。
しばらくして全員が準備を終えて北西に近い地点に集合していた。
「現在、急速に接近してきている魔力反応の正体は不明だが、その反応の大きさから間違いなく件の襲撃のドラゴンだと思われる!つまり獲物が自らやってくるのだ‼」
「我々の目的は最初から襲撃してきたドラゴンの討伐のみ‼ならばこの後の動きは決まっている。我らへ攻撃したことを後悔させるように全力で殲滅して二度と襲撃されぬようにするのだ!」
「「「「「「おぉぉーーーーーーー!」」」」」
簡単な鼓舞ではあったが近衛騎士達はアイテムの力で集団を率いるのに最適なスキルを習得しているため十分に効果があった。
しかもスキルには集団の力を強化する物もあって討伐軍全員が普段以上に能力が上がっていた。急遽参加させられた新兵すら熟練の兵士と変わらぬ身体能力を得たのだ。
単一のスキルだけなら人数が多い分効果が落ちてしまうのだが、近衛騎士全員でスキルを使用することで効果を重複させて低下分を上回る強化としていたのだ。
こうして討伐軍はかつてないほどの充実感を手に入れて士気は最高潮となって備えた。
そして少しすると上空に夜の闇の中、巨体をもって月を隠してドラゴンは現れた。
普通なら姿を見ただけで一般兵は戦意喪失してもおかしくないほどの威容だったが、スキルの効果で強化された能力による全能感や精神的高揚によって誰一人恐怖を感じてはいなかった。
更には強化された自分たち以上に強い近衛騎士達まで味方にいるのでむしろ、すでに勝ったかのような空気すら流れていた。
しかし場数慣れしている近衛騎士達はむしろ気を引き締めてドラゴンへと鋭い目を向けていた。
「話で聞いていた通り、普通の個体よりも数段強いようだ」
「はい、ただ我らが出れば大した脅威でもないのは間違いないようです」
「確かに…では、予定通りに素早く終わらせましょう」
「「「「「「はっ!」」」」」
もはやドラゴンを敵とすら見ていないような命令に誰も疑問を持つことなく頷いて答えた。
そしてドラゴンが攻撃圏内に入ったのを確認すると、部隊事に事前に決めていた通りの行動を開始した。
第1~2部隊は結界を物理・魔法の両方に対応した物へと変え、更に範囲を正面に限定することで強度を上げて攻撃に備えた。
第3~4部隊は前衛に立って接近されたときに備えて大盾を構えていた。
そして第5~8部隊は遠距離魔術や魔道具を主体にドラゴンへと攻撃を仕掛けていた。
ただ街で一応した調査から生半可な威力は効果がないと判断して複数人で行う複合魔法に複数の属性を混ぜた合成魔法など、一般的な魔法よりも高火力なものが使用されていた。
他の残された部隊は付与魔法などを中心に全体のサポートを行う編成となっていた。
本来なら各部隊事に近衛騎士が一人ずつ隊長として着く予定だったのだが、街で話を聞いてルーシャス達は近衛騎士を単独戦力として運用することに決めたのだ。
だからと言って最初から戦闘に参加するわけではなかった。
話に聞いただけでも特別強い個体だと思われる、今回のドラゴンには下手に最高戦力を使用して想定外の反撃にあったときに採算合わないとの判断されたのだ。
ゆえに最初は他の者達で攻撃してドラゴンの手の内をできる限り暴いてからルーシャス達は戦闘に参加することになっていた。
なのでルーシャス達は戦闘がよく見えて指揮も取りやすい後方の少し高い場所へと集まっていた。
「ふむ…聞いていたほど強い攻撃をしてきませんね」
「確かに、聞いた話では隕石を降らせていたそうなのですが…」
「向こうも今は様子見と言う事ですかね?」
「おそらくはそうだろうな。しかし…攻撃が一切通っていないように見えるな」
ルーシャスがそう言って上空のへと目を向けると、怒涛の攻撃を浴びせられながらも無傷で悠々と跳び続けるドラゴンの姿があった。
地上部隊は攻撃の手を緩めてはいないし、むしろ少し意地になって使用許可の出ている儀式素材まで使って最大限攻撃を繰り出していた。
それでも上空のドラゴンに対しては掠り傷程度のダメージすら与えられていなかったのだ。
この事実を後方から冷静に観察していたルーシャス達は何かの結界を纏っているのではないかと予想を立てた。
「…このままではらちが明きませんね。私達も動きましょう」
「了解です!」
「まずは私が仕掛ける、後に続いて一斉に最大攻撃で防御を破る!行くぞっ」
短く命令を出すとルーシャスは飛行魔法を使用してドラゴンへ飛んだ。
それに続くように近衛騎士達も各々飛行魔法を使用して空へと上がった。
上空へと上がる近衛騎士達に気が付いた地上部隊は攻撃が当たらないように攻撃をドラゴンの頭部だけに集中させ、爆炎でドラゴンの視界を奪って近衛部隊への援護となるように行動を変えた。
そのことを上空から確認したルーシャスはドラゴンの胴体へとめがけて腰の件を抜いて全速力で突き進むのだった。
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