第18話 後悔先に立たず
「ふぁ~……なんか目が覚めちまったな…」
いつもなら昼頃まで起きることのない彰吾だが今日は不思議なことに自力で、しかも朝日と一緒に起きたのだ。その事に少し不満そうにしながらも起きてしまったので、まだ少し怠い体を無理やり動かして顔を洗って目を覚まそうとするのだった。
だが慣れない早朝の起床ということもあって顔を洗うのにも一苦労で、普段の倍近い時間を掛けてなんとか朝の身支度を終わらせた。
「なんか忘れてる気がするんだけど…まずは朝食だな」
漠然と何かを忘れているような気がした彰吾だったが寝起きで、しかも空腹状態ではしっかり考えることはできないと思ったようで朝食を先に済ませることにした。
無駄に広い魔王城の不便さには一週間以上も過ごせば彰吾も慣れたようで、特に迷うことなく食堂まで着いて軽くパンやフルーツで軽く済ませて部屋へと戻った。
「ふぁ~~!……眠い」
早朝という慣れない時間に起きてお腹も膨れたことで彰吾は眠気が強くなったようで盛大に欠伸していた。それでもなんとなく早起きできたのに寝てしまうのはもったいない気がして寝ることができなかった。
「あぁ~なんか忘れてる気がするんだけど…眠くて思い出せないんだよな。エルフの人達はひとまずは様子見しかすることはないし、問題が起きれば向こうから何か接触してくるだろうしなって……あ!」
起きてから思い出せないことを考えていた彰吾はエルフたちの事も考えていると、ようやく前日の寝る前に適当に命令を出していたこと思い出した。
しかも寝る前で疲れていて思考がハッキリしていない中での命令だったので、その内容を彰吾は覚えていなかった。
今更ながらに事態の深刻さに気が付いた彰吾は冷や汗を流していた。
「いや、そこまで変な命令は出していないはずだ。確かに人間たちのせいで予定以上に早く保護することになって苛ついてはいたけど、だからって無茶苦茶な命令は出していないはずだし、うん…大丈夫…のはず…だよな?」
寝不足中のお自分の事が信用できないのか彰吾は徐々に自信を無くしてより不安は強くなり、立ち上がると作戦がどうなったのか確認するために支持を出したドラゴン人形のもとへと向かった。
想像以上に複雑になっている魔王城の中を迷子にはならないが億劫そうに彰吾は早歩きで移動していた。エルフを連れて通った通路のようにトンネルや通路同士をつなげる転移、というよりはワープトンネルのようなものもあるのだが目的の場所にはそれがなかった。
だから歩いているわけなんだが城だけでも小さい町程度の広さに加え上下の移動もあり、移動するだけでも一苦労だった。
「あぁ~無駄に長かったぁ…」
ようやく目的地であるドラゴン人形の待機場の第三訓練場へと着いた彰吾は疲れたように膝に手をついた。
魔王となったことで体は強化されているので実際には疲れていないのだが、どうしても以前の感覚が残っていて疲れたような気分になってしまうのだ。
それから現実と向き合う覚悟を決めるのに少し時間を使って彰吾は、ようやく指示出したドラゴン人形のもとへと向かった。
「えっと、昨日ぶりだけど目的はちゃんと完了できたのかな?」
『…』コクッ
「そうか、なら最終確認をさせてもらうぞ」
本心では確認しなくて済むならしたくない気持ちでいっぱいだった彰吾だが、自分の出した指示の結果は正確に把握しておかないと後々困ると理解しているので頑張って確認することにしたのだ。
そしてドラゴン人形の頭に手を置いてリンクさせて昨夜の作戦の結果を確認した。
脳裏に映し出されたのは必死に攻撃をしてくる人間の兵隊達を蹴散らしていく風景、そして崩壊する防壁と街の大きな建物の数々だった。
思っていた以上の悲惨な惨状に彰吾は目の前がゆがむような感覚を覚えたが何とか踏みとどまり、最後まで確認して盛大に頭を抱えた。
「あぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~‼…………どうしよう」
当初の目的としては『エルフたちの捜索を防ぐため、全滅したと思わせる』という事で、そのためのあくまでも手段として近くの人間の街を襲撃するだけの予定だったのだ。
しかも襲撃とは言っても軍隊を出されても大変なことになるのは考えるまでもなく、だからこそ適度に目立つ建物を破壊するだけで最低限に済ませる予定…だった。
なのに実際には街はほぼ壊滅に近い被害を受けていて、映像として見ただけでも『人災』が発生しているように見えたので現在はより悲惨な状況の可能性すらあった。
こんな事態になった原因を人間達が楽観視して放置するとはとても彰吾には思えず、今後に起きるであろう面倒ごとの数々を瞬時に思いつく限りすべて思い浮かべて対策を考えていた。
「はぁ…軍隊が来るのはほぼ確実、問題は規模と質がどの程度の水準なのかという事だな。この世界の人間の強さの基準もいまいちわからないし、まずは偵察用の動物型人形を増やした方がいいか…」
ブツブツと独り言をつぶやきながら彰吾は今後どうしたらいいのかを真剣に考えていた。
そんな様子を近くで見ていたドラゴン人形は何かミスをしてしまったのか?と不安そうに頭を下げていた。横目で彰吾も気が付いていたが今は考えることが多すぎて気にする余裕はなかった。
「…少し面倒だけど本気で対処するか。まずは集中できるところに移動しよう」
いつまでも外で考えていても上手くまとまらないと考えた彰吾は自分の部屋へと戻ることにした。
この時になってドラゴン人形が反省している犬のようになっている事に改めて気が付いた。
「やっぱり人形にも感情があるのか?まぁ…いいか、とりあえずやりすぎではあったが指示は成功した。その後の対処は俺の仕事だから気にしなくていい、お前は次の指示があるまでは通常通りに竜の巣からこっちに入ってこないように巡回を頼む」
『…』コク
「よし、なら後は任せた」
効果あるのか自信はなかったが適度に励まして効果があったのを確認した彰吾は頷き、今度こそ深く考えることのできる魔王の執務室へと向かった。
その場に残ったドラゴン人形はどこか嬉しそうな雰囲気を纏いながら体をきしませ勢い良く空に飛び上がり、新たな指示に従って元・竜の巣を警戒しに飛んでいくのだった。
そして来たときと同じく移動だけで憂鬱になる通路を歩いて移動した彰吾は、魔王の執務室に着くと執務用の机ではなく脇の来客用の豪華なソファーに寝転がった。
「あぁ~~~~……さて、どうしようかなぁ…」
誰も来ることのない場所なのを知っているだけに彰吾は全力でくつろぎながら考え始めた。なにせ失敗すると余計にめんどくさいことになるのが確定している現状は、すでに保護までして今後忙しくなることが確定している彰吾にとっては許容でいないことだった。
できることなら一日寝ていたい!と思っているだけにめんどう事は素早く終わらせて、のんびりと過ごしたかったのだ。
「まずは人間達の動きを知るためにも偵察用の人形の追加は決定だな。他にもエルフ達の生活環境をもう少し様子を見ながら整えて、薬の研究の方の進行状況の確認も必要、もし人間達が攻めてきたときの備えとしての人形兵の強化はした方がいいか。あとは…何が必要だ?」
考え事をすべて口に出すことで彰吾は情報の整理をしていた。
元からの癖というのもあるが人眼を気にしなくてよくなった分より顕著となっていたのだ。
しかしこうして口に出して考えることで頭はすっきりとし難しいことでも冷静に考えることができた。
おかげで執務室に来てから30分弱の時間で大体の今後の対策は考え終わって、今度こそ完全に脱力した彰吾は大きくため息を漏らした。
「はぁ~~~……もう少し考えて指示出せばよかったかなぁ」
そしてやるべきことが終わって口から出てくるのはもっとうまくやれたのではないかという後悔の言葉だった。
なにせ今回のめんどう事の原因は突き詰めれば彰吾の雑な指示という事になるからだ。
ちゃんと理解できているだけに彰吾はどうしても憂鬱になって、もっと上手くできなかったかな?と思ってしまうのだった。
「……考えても仕方ない、とはわかってるんだけどな…」
起こったことは変えようがないとはわかっていてもどうしても考えてしまうことに彰吾は疲れた様子で顔を覆った。それほどまでに今回の事を彰吾はミスと考えているだけに後悔してしまうのだ。
だからと言って考えてもどうしようもないので、次第に疲れてソファーに寝転がったまま本当に眠ってしまうのだった。
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