誘拐

「あ、また私のニュースやってる」


 煙草と酒と、そして色々な食料の臭いが混ざる、薄暗い部屋の中。お世辞にも綺麗とは言えない、ゴミにまみれた部屋で、ぼうと光るテレビを見る男女がふたり。

 男性は四十代くらいで、目つきは悪く、口には煙草をくわえていて。女性は、いや、少女と言うべきだろう、その少女は制服を着ていた。


 明らかに、とは言いがたい、ふたりの組み合わせ。

 親子には見えなかった。全く似ていないし、親子という雰囲気でもなかった。


「……帰んなくていいのか」


 男は口から煙を出す。


「いいの。私はここがいいの」


 何度も聞かないで、と少女は笑う。



 ――――彼と彼女の関係は、誘拐犯と誘拐さえた少女だ。端から見れば。



「そんなに嫌いなのか」


 主語が抜けていたが、ちゃんと相手には伝わる。


 家が、家族が、友達が、学校が、環境が、彼女を取り巻く何もかもが。

 嫌なのか、と。


「嫌いなら、こんなとこにいない」

「おいおい、それは酷い言いようだな」

「だって、ここは汚い」

「そりゃそうだな」

「でも、生きてきた中で、一番居心地がいい。安心する、息ができる、生きてるって感じがする」


 そして少女は、息を吐いた。そして、息を吸った。呼吸を、した。

 そんな少女を見て、そうかい、と適当に相槌を打って、男は灰皿に煙草をぐりぐりと押しつける。


「……チャンネル、変えるか」

「だね」


 男は新しい煙草に火をつける。

 少女は、リモコンの『5』というボタンを押した。



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