第35話
「こんだけ主魔石持ちがいるってことは、近くに迷宮でもあるのか?」
「迷宮……ですか?」
ヒュアが首を傾げるようにしていった。
……何かおかしなことを言っただろうか。
「どうしたんだ?」
「ロワールさんの時代では主魔石を持つ魔物がたくさんいたら、迷宮の存在を疑うんですか?」
「まあ、ね。ってその反応ってことはこの時代は違うのか?」
「はい」
迷宮を生み出す魔物?
それって遥か昔にいた魔物、じゃなかったか?
町一つを、下手すれば国を、大陸一つを飲み込むような強い力を持った魔物。
俺が知る時代から遥か昔では、そんな魔物がいたそうだ。
と、主魔石の魔物がこちらのほうへと駆けてくるのがわかった。
「ヒュア、さっき話していた魔物だけど、どうにも逃走しているみたいだ。最悪なことに、こっちに来る」
「ええ!? 私たちだけで勝てますかね?」
「相手もかなり弱っているみたいだし、交戦していた人たちの魔力もこっちに向かってきてるからね。足止めだけすればよさそうだ」
「わかりました……っ。がんばります!」
ヒュアとともに迎え撃つための準備を行う。
ヒュアには速度重視のバフをかけてから、俺も自分に軽く支援魔法を使用しておく。
今回戦うのは俺とヒュアだけだからな。ある程度、俺も動く必要があるだろう、
向かってきたのは……ダークパンサーだった。
……マジか。
「大丈夫だ。やっぱり弱ってるみたいだからな」
「……そう、ですねっ。いきます!」
一瞬、ヒュアの表情が強張っていたが、すぐに引き締められた。
ダークパンサーが足を引きずるようにこちらへと走り、とびかかってきた。
すでにそこに俺たちはいない。ダークパンサーはそのまま逃げようとしたが、俺が土の壁を作り、それを妨害する。
ダークパンサーが睨みつけてきたが、そのわき腹をヒュアが斬りつけた。
大きくよろめいたダークパンサー。すでに尻尾は斬られているため、反撃の手段も乏しいようだ。
「ヒュア一度下がれ」
「わかりました!」
ヒュアが離れたところで、俺がB・ファイアを三発打ち込んだ。
ダークパンサーの注意が俺へと向いた。
とびかかってきたダークパンサーだったが、俺はB・アースを使用する。
土の魔法を操作し、再び土の壁を作り出す。
ダークパンサーの体を弾いたあと、さらに土を操作し、ダークパンサーの体を拘束した。
そこへ、B・ファイアを叩き込む。
ダークパンサーを覆う土に隙間を造り、内部で爆発させる。
すさまじい音とともにダークパンサーが崩れた。
……まだ、魔力反応は残っているな。
そのタイミングで、一人の男がやってきた。
「おまえたち、町の冒険者か?」
「ああ、そうだ」
戦っていたと思われる冒険者だな。
爽やかな顔たちだが、どこか両目は厳しい。
金髪を揺らしていた彼は、手に持っていた剣に魔力を込めた。
「……かなり、弱らせてくれたようだな。最後は、任せろ」
「了解」
男の魔力がぐんぐんと上昇していく。
彼の全身へと魔力が流れたところで、男がダークパンサーへと迫る。
よろよろと体を起こしたダークパンサーが反撃をしようと足をあげる。
だが、俺の土魔法がダークパンサーの足は押さえつけている。
「うぉぉぉ!」
男は叫びながら剣を振り下ろした。
彼の一撃が、ダークパンサーの横っ腹を捉え、吹き飛ばす。
ダークパンサーはそのまま動かなくなった。魔力反応も薄れていった。
確実に、死んだな。
軽く息をはいた男が、額をぬぐいようやくわずかに口元を緩めた。
そして、俺の前までやってきて男がすっと頭を下げる。
「助かった。このまま町まで逃げられては、町が壊滅する危険があったからな。キミたちに怪我はないか?」
さらにぞろぞろと、奥から冒険者がやってきた。
……合計十名ほどのパーティーだろうか?
「いや、俺たちは無事だ。ダークパンサーもかなり弱っていたみたいで、気楽に戦えたよ」
「……凄まじい魔法だったな。ダークパンサーを爆発させたあの火炎……それに土魔法を即座に放つだけの詠唱速度……まさか、キミのような冒険者が町にいたなんてな」
「最近来たんだ」
苦笑しながら、俺は彼の素性を探っていた。
それなりの実力者、クランリーダーが森の奥地へと調査に向かっていたとも話していたな。
ギルドに飾られていた旗を思い出す。彼もまた、それと同じ模様の入った布を腰に下げていた。
恐らくはクラン関係者……あれだけの実力があるため、クランリーダーあたりなのかもしれない。
「ヒュア。彼らはもしかして、クランリーダーとやらか?」
「は、はい……『剣閃雷撃』のクランリーダー……セルギウスさん、ですね」
やはりそうか。セルギウスは追いついた仲間たちを一瞥し、何やら話をしていた。
それから、セルギウスが声を張り上げた。
「みんな、町に戻ろう」
セルギウスの言葉に、皆が歩き始めた。
一人の男を先頭に、全員がすすんでいく。
それを眺めていると、セルギウスがこちらへとやってきた。
「そうだ。キミたちももう用事がないのなら、一度町に戻ってくれないか? ダークパンサーとやりあえるだけの実力を持ったキミたちにも、話をしておきたい」
「何か、重要なことなのか?」
「ああ、詳しくはあとで話すつもりだが……迷宮を生み出せる可能性を持った魔物――核魔石持ちの魔物を発見したんだ」
「か、核魔石ですか!?」
驚いたように声を張り上げるヒュア。
核魔石持ち、か。
迷宮を生み出せるというのも、ヒュアから簡単に聞いていたが……。
よく見れば、歩いている冒険者たちの表情は険しい。
それだけ、大問題なんだな。
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