第15話


「俺のことなんてほっといてくれよ」


そばに居てほしい。


「俺はアンタが嫌いだったんだよ」


今は違うよ。


「だから帰ってくれよ」


帰らないでほしい。


「どっかいけよ」


離れないでほしい。


「こんなのぜんぜん気持ちよくないんだよ」


つながっていたい。


「もうやめてくれよ、鬱陶しいからさ」


嬉しいよ、ほんとだよ。


「やさしくしないでくれよ」


俺の言うことを信じないでほしい。


リカ姉を犯した。グチャグチャにしてやった。かき回してやった。

おもいっきり胸を掴んでやった。噛んでやった。ケツを叩いてやった。

力まかせに腰を振ってやった。首を押さえてやった。後ろからヤってやった。

出したらすぐにコンドームつけなおして、また犯してやった。モノみたいに扱ってやった。


カツラは、さわれなかった。強引にキス、できなかった。

俺はビビりだった。どこまでも俺は弱かった。


怒ってリカ姉が帰ってしまえばいいと思った。

キレて俺を半殺しにしたらいいと思った。

呆れて二度と顔も見たくない気にさせたかった。


リカ姉が帰ったら親を説得して、爺ちゃんの家に住んで、学校を変えて、ここには一生近寄らない。それでいいと思った。

だから、これでアンタとは最後だから、最後に俺の本性を思い知らせてやろうと思った。


俺は狂ってるんだと知ってほしかった。

無くなってしまえばいいと思った。ぜんぶ。ぜんぶ。


ぜんぶ嘘だった。



「カツオ」



耳元からいつもの声が聞こえた。

疲れ果てて、かぶさっていた、柔らかくて温かい体から。

驚いて顔を上げた。リカ姉の顔が見えた。

なにもなかったように優しく笑って俺を見ていた。

妄想だったのかと部屋を見まわした。投げ捨てたコンドームがあって死にたくなった。



「大丈夫だカツオ、アタシはオマエを知ってる」



「頭を撫でないでくれ」



ごめんなさい、リカ姉ちゃん。ごめんなさい。



「オマエのことを知ってる」



「撫でないで」



許してほしい。ボクを許してほしい。



「知ってる」



叫んだ。枕に口を押し付けて叫んだ。

生きてきた中で一番やさしい人を抱きしめて叫んだ。


このまま、この声のまま、体ごと裏返って別の人間になりたかった。

汚してしまったその体に入れてほしい、アンタに食われてしまいたい。

一つになれたら、一つになってアンタと生きられたら。アンタのために生きられたら。

好きだって言えたら。美紅を忘れられたら。違う自分になれたら。

アンタの望む俺になれたら。



「リカ姉、ごめん」



それしか言えなかった。それでも幸せだった。



リカ姉は外が暗くなるまで俺を抱いていてくれた。

母ちゃんが帰ってきて、三人でメシを食った。


気を遣ったのか、刺身好きのリカ姉のために寿司が並んで

俺は生魚があまり好きじゃなかったから、玉子やイカばかり食べてた。



「カツオ、あーんしろ。さっきの罰だ。」



一番生臭いサバの寿司が俺の目の前に来た。



「なにリカちゃん、さっきの罰って?」



母ちゃんが食いついた。



「アタシを不安にさせた罰」



一口で食べて、すぐにワサビを舌にのせたあと顔をテレビに向けた。

二人の笑い声が心地よかった。



その夜は同じ布団の中で寝た。

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