第65話 予兆

 



 ジオにパワードスーツの依頼をしてから1ヶ月ほどが経過し、11月になろうかという頃。


 俺たちはアガルタの大陸の西にある、巨人連合国へとやってきていた。


 なぜこんなところにいるかというと、ジオにパワードスーツのデザインを送った時に巨人族が俺に会いたがっていると聞いたからだ。


 本当は獣人の国のガユウ獣王国も、ジオの国のハンザリオン共和国も俺を招待したかったそうなんだけど、俺たちが現れたら国中の国民が押し寄せて大変なことになるからしばらく時間を置くことにしたそうだ。


 まあ、あんな映像が流されたばかりだからな。カレンは獣王国での食べ歩きができないと残念そうにしていたけど、これは仕方ない。人に囲まれて食べ歩きなんかできないだろうし。


 ならなぜ巨人族の国に来たのかというと、巨人族なら大丈夫だと確信があったからだ。彼らは非常に温厚でおとなしく、他人を常に思いやる種族なので俺たちに群がるようなことはしないし騒いだりしない。


 現に俺たちが宇宙港に現れた時も、宇宙港を埋め尽くすほどの巨人がいた。しかし皆が歓迎と感謝の言葉が書かれている横断幕や旗を笑顔で静かに振っているだけだった。当然巨人たちが押し寄せてくることもない。


 そして巨大な建造物が建ち並ぶ街を見学している時も、巨人たちは遠くから静かに俺たちを見ているだけだった。


 やはり巨人族の性質は1万年以上経とうとも変わっていなかった。俺はそれがとても懐かしくそして嬉しくなり、楽しくこの国を観光することができた。


 そして議長自ら案内してくれた名所をひと通り見た後、連合国の迎賓館で議長のバラムと夕食を共にした。



「うめえぇぇぇえ! 」


「おいしい……」


「久しぶりに巨人族の郷土料理を食べますが、相変わらずのボリュームですね」


「ご主人様。服にタレが付いているでやす。まったく、そんなに急いで口に詰めて……手の掛かるご主人様でやす」


「毎晩毎晩トワに必要以上に搾り取られてるから、たくさん食わなきゃ死んじまうんだよ! なんで巨人族のとこに行くのに浮気を心配すんだよ! 身長が倍以上違うんだぞ! いくら俺でも手を出さねえよ! 」


「巨人族の女性は巨乳でやす。ご主人様なら見境なく盛ると思いやして」


「ワタルは赤ちゃんプレイも好き……可能性はある」


「馬鹿! こんなとこでバラすんじゃねえよ! メイドの人たちが笑ってんじゃねえか! 」


「グハハハハ! 勇者様は巨人族の女もイケるのか。なに、身長差は気にすることはない。16歳ほどの女ならまだ2mもない。そこで成長を止める薬を投与すれば十分子を作れよう。後日各村から集めるゆえ、何人でも選ぶといい」


「え!? 成長を止める薬なんてあるのか!? 16の巨人族の女の子って……」


 俺はバラムの衝撃的な言葉に、瞬時にアルガルータにいた若い巨人族の女の子たちを思い出した。


 ビビアとクハラが15か16だったはず……確かにあの二人は190cmかそこらだった。そして胸は……Hかそれ以上あったと思う。そして尻もデカかった。種族がら筋肉質だったけど、あの身体で固定されるなら最高かも。


「あれだけ搾り取られたのに大きくしている……恐ろしい子」


「ご主人様の女好きはもう病気でやすね。ますます私が必要でやす。まったく手の掛かるご主人様でやす」


「ふふふ、英雄色を好むという言葉が地上にありますが、まさにワタルさんのことですね。私はワタルさんが望まれるのなら何人増えても大丈夫です。私を変わらず愛してさえくれれば」


「な、なに言ってるんだよ。ちょっとビビアとクハラを思い出してただけだって! あ〜懐かしいなぁ」


 俺は息子の位置を変えながらそう言ってごまかした。


「ビビア……確かあのサイズのままだったらストライクとか言ってた」


「そ、そんなこと言ったっけ? 覚えてないなぁ。ほら、それよりハジル草のサラダ美味しそうだぞ? 凄いよな。アルガルータの野菜がこの大陸に根付いてるんだから。うん! 美味しい! ちょっと小ぶりだけど味は同じだ! 」


 くっ……カレンのやつなんて記憶力だ。


「グハハハハ! 伴侶殿の説得が先のようだ。なに、いつでも言ってくれれば連れてこよう。それよりもハジル草が口に合ってなによりだ。しかしアルガルータのハジル草より小さいのか。エーテル濃度が関係しているのやもしれぬな」


「それはあるかもな。アガルタはアルガルータに比べればエーテル濃度が低いしな。ああ、そうそう。俺も色々と食材を持ってるんだ。サッカリーとかゲルバフの実とかさ。見たところ無さそうだしあとでやるよ」


 ゲルバフの実は調味料に使うんだけど、結構好きで見かけた時に採取しまくってたんだよな。カレンもサッカリーやらほかの植物を結構持ってるはず。食いしん坊のカレンが採取してないはずがない。


「サッカリーにゲルバフの実……? ハッ!? 確かそのような野菜と調味料があると聞いたことがある! そ、それを我らに!? 」


「ああ、この土地で栽培できるかはわからないけどな。あっ、そうだ! この土地のエーテル濃度が低いなら魔物の屑魔結晶をやるよ! アルガルータでも連続して植えたあとは土地のエーテル濃度が低くなるんだ。その時に何の特殊能力もない魔結晶を粉末にして撒くと、問題なく作物が育つようになるんだよ。肥料みたいなもんだな。屑魔結晶は巨人族に頼まれて結構集めてたから全部やるよ」


 小鬼など雑魚魔物の心臓付近にある魔結晶は、特殊能力がないただの魔結晶で肥料以外に使い道がない。巨人族は農耕と狩りの民族だから、集めてくれるようによく頼まれてたんだ。


「魔結晶とはマモノの体内にあるというあの……それを土地に撒くとエーテル濃度が上がるというのか! それを我らに全てくれると!? 」


「別にもともとあんたらの先祖に頼まれてたものだしな。まあ、うっかり1万5千年ほど渡すのが遅れたけど。俺は約束を守っただけだから遠慮せず受け取ってくれ。んで俺が渡した作物を育てて、また食わしてくれ」


 魔王と戦う前に渡す予定だったんだけどな。バタバタしていてすっかり忘れてた。まさか1万年以上経ってから渡すことになるとは……遅いなんてもんじゃねえよな。


「お……おお……我らのために貴重な魔結晶を……ありがとう。これで失われた伝統料理を復活させることができる。必ず栽培を成功させ振る舞わせてもらおう」


「楽しみにしてる。な? カレン」


「ん……残り少ないから増やしてほしい」


「失われた食材に魔結晶まで。私のご主人様はずいぶんと太っ腹でやすね」


「いいんだ。巨人族は俺の恩人なんだ。俺ができることはしてやりたいんだ」


「そうでやすか……義理堅いでやすね。今夜もしっかり搾り取ってやるでやす」


「なんで義理堅いから搾り取るになるんだよ! おかしいだろ! 」


「ん……トワがデレた……ツンデレナイ攻略……ワタル恐ろしい子」


「デレると搾り取るとか愛情表現の仕方がおかしいだろ! 」


「か、勘違いしないでくれでやす。デレてなんかないんだからねでやす」


「棒読み!? 」


「ふふふ、トワは可愛いですね」


「フィロテス。あのニヤニヤしている顔を見てくれよ! 絶対おちょくってるって! そんな表情ばかり豊かになりやがって! もっとこう頬を染めてうつむくとかそういう表情を覚えろよ! 」


「ツンデレナイプログラムにはないでやすね」


「そのニヤニヤした顔も最初無かっただろ! 」


「自動学習機能で覚えたでやす」


「なら頬を染めるのも覚えて俺に見せろよ! 」


「ご主人様にでやすか? フッ……」


「グハッ! 今夜覚えとけよ……」


 鼻で笑いやがって! 俺にそんな表情を向ける価値が無いとでもいいたいのかよ! 絶対今夜こそヒーヒー言わしてやる! 残りの秘薬を全て注ぎ込んででもだ!


「フッ……返り討ちにしてやるでやす」


「おお〜……今夜は熱い夜になる」


「ふふふ、本当に仲が良い二人ですね。毎日とても賑やかで楽しいです」


「グハハハハ! トワ殿は本当にオートマタなのか? これほど表情が豊かなオートマタなど見たことがないぞ」


「口は悪いけど、俺はトワを大切にしてるからな。それに彼女はもうオートマタなんかじゃねえよ。エーテル結晶石に魔結晶まで融合してるんだ。オートマタとはもう別物だ。もうオートマタ族という人間だよ」


「なんと!? オートマタ族という種族だと? ククク……グハハハハ! そうか。我らのアガルタに新しい種族が増えたということか。ならば巨人連合議長として、オートマタ族のトワ殿を歓迎しよう! 」


「バラム議長! 良いのですか? 反発する者も出てくると思いますが」


 ん? フィロテスが何か焦ってるけど、反発する者って誰だ? まあどうせまたエルフだろうな。我々の手で作ったオートマタを同じ人間として扱うなど許せないってとこか? よし、ルンミールに警告しておくか。カレンと同じくトワを侮辱したらぶっ殺すってエルサリオン中に伝わるようにしておこう。


「構わん。勇者様が人間だとおっしゃるのだ。それに我々巨人族は、もともと人の形をし人格のあるオートマタを消耗品のように使うことは反対していた。宇宙船の操縦だけならば、人の顔に似せ人格を植え付ける必要などないのだ。現に我々はそういったオートマタしか使用していない」


「議長がそこまでおっしゃるのなら……私もトワを人間と認められるのは嬉しいですし」


「やっぱり巨人族は巨人族だな。バラム議長。トワを受け入れてくれてありがとう」


「勇者様に礼を言われることではない。トワ殿が人間に見えた。そして勇者様が人間だと言った。ならばトワ殿は人間だ。それだけのことだ」


「そうか。それだけのことか」


「そうだ。それだけのことだ」


「あははは! いいねバラム。そのサッパリした性格はギランそっくりだ。気に入ったよ。これからもよろしくな! 」


「ギラン様に似ているとはなんと光栄なことよ。こちらこそよろしくお願いする。我らが恩人の勇者様」


 俺とバラムは笑顔でお互いの肩を叩き合った。当然身体強化はしている。でなきゃ肩がもげる。


「ん? どうしたんだトワ? ボーッとして」


「大切に……私が人間……連合国議長が認めたオートマタ族……あっ……こ、今夜はとことん搾り取ってやるでやす! 」


「だからなんでそうなるんだよ! 」


「デレた……」


「わかんねえよそれ! 」


 このどこがデレてんだよ! 


 ったく、まあでもなんだかんだで俺はトワが好きなんだよな。別にMじゃないんだけどな。


 彼女は確かに口は悪いけど、どんな時も俺から離れず毎日毎日本当に良く尽くしてくれている。寝る時も俺から搾り取ったあと、ずっと俺の手を握ってるんだ。そんな子を気に入らない男がいるはずがないよな。


 まあこれからもよろしくな。オートマタ族のトワ。






 ーー エルサリオン王国 情報局 局長 レンウェ・ルンミール子爵 ーー




「ギルノール伯爵。火星の状況はどうだ? やはり動きそうか? 」


 私は友人である宇宙警備局長のギルノールへエーテル通信を繋ぎ、火星の情報を求めた。


 《相変わらず空間の歪みを多数確認している。火星の地上に過去にないほどの数の母船級のダグルを確認している。中には見たことのない種の母船もある》


 目の前に立体映像で浮かんだギルノールは、覇気のない声でそう答えた。恐らく寝ていないのだろう。エルフ独特の色白の肌も相まって、まるで病人のように見える。


「空間の歪みがこれほど長期間に渡ってか……精霊神様の記憶の映像と勇者様からの情報によると、準騎士級。我々の基準ではレベル5のマモノが現れ始めたあと、一気に高位のマモノが現れ大侵攻をしてきたという。ダグルも同じパターンになると思うか? 」


 ダグルは次元跳躍。つまりワープを行いながらやってくる。そのため火星にはあまり近づくことができない。遠距離から空間の歪みの回数と、火星の地上にいる母船級のダグルの数で総数を予測するしかないのだが……これは相当な数がいるな。やはりアルガルータと同じように大侵攻が起こるのだろうか。


「恐らくな。ダグルを火星で発見してから50年だ。タイミングとしても、我らが故郷アルガルータがマモノの第二次侵攻を受けた時期に近い。これまで下位レベルのダグルの侵攻をことごとく跳ね返しているのだ。そろそろダグルが本気を出してきてもおかしくはない」


「やはりそうか……」


 マモノとダグルは違う種類の生命体だ。しかしエーテルを求めてやってくるという点では同じだ。そして特殊能力を持っていることも。ならばやはり勇者様がおっしゃっていたように、数の多い狩場にまずは弱いダグルを送り、その後に強いダグルが弱いダグルを狩りに来る。そういったパターンになる可能性は高い。


 私もそう思う。その方がエーテルを得るには効率的だからだ。


「ああ、私としてはレベル5のあのカマキリ型で終わって欲しかったがな」


「アルガルータに侵攻したマモノの強さを見てしまってはな。あのような強力なマモノと戦っていたのだ。勇者様がレベル5のダグルは雑魚だと言っていたのも頷ける」


 あの映像で見たマモノは凄まじい強さだった。レベル3程度のトカゲのマモノでも特殊能力を持ち、炎を吐いていた。ダグルよりは甲皮が柔らかそうだったが、攻撃力は遥かに上に見えた。勇者様にはレベル5のダグルは、レベル3のマモノに見えるのだろう。


「レベル5が雑魚か……その雑魚を前回我々は月の前線基地を犠牲にしてやっと倒せたのだがな」


「宇宙戦艦の砲撃でな。そのレベル5のカマキリ型が今度は大量にやってくる可能性がある。レベル6のダグルもいるかもしれん」


「……月の駐留軍のさらなる増員を議会に申請しておこう。しかし今回は地球の地上は駄目かもしれぬな」


「我々も余裕がなくなる可能性がある。ニホン以外は厳しいだろう」


「ニホン……勇者様と大英雄様がいらっしゃるところか。助けなどは……無理だろうな」


「今は厳しいだろう。いずれお許しをいただけると思うが、我々次第だろうな」


 国外に出て行ったハーフ……いや、ハイエルフたちにエルサリオンに戻ってもらえるまではな。


 あの映像を見てからというものの。エルサリオン王国民全てが、真の歴史と王家の過ちを知ってショックを受けた。それは当然軍にいる者も同様だ。いや、ダグルとの戦いを経験した者はあの映像を見て恐怖を覚えた。それは今までレベル5までしか確認できていなかったダグルに、レベル10という魔王級が存在することを知ってしまったからだ。


 これだけはおとぎ話や神話の存在であって欲しかった。しかし我々はレベル10のマモノの異常な強さを、勇者様の戦いを通して目の当たりにしてしまった。あんなものを見せられ、レベル5のダグルに苦戦している我々でどうにかできるなどと思う者は一人もいない。それゆえにギルノール同様、皆が魔王を倒した勇者様と大英雄様の助けを心の中で求めている。


 口には出せない。我々にはそんな権利がないのだから。


 しかし勇者様は先日巨人族の国に行かれたと聞いた。可能性があるとすれば、彼らを助けるためにというところか。


「しかし1万年以上もの間、アガルタのリーダーであった我らエルサリオン王国が一夜にして堕ちたものよ。これが身から出たサビというやつか」


「王家は歴史を歪め、我らは聖女様のお子であり希望であるハイエルフを差別した。自業自得だな」


 いずれ払わねばならない代償を払うことになっただけだ。それがダグルの侵攻を受けているこの時代に訪れたのは、精霊神様による試練なのやもしれないな。


「我々にできることはハイエルフたちに謝罪し償うこと。そしてご先祖さまのようにアガルタを守るため、この身を捧げ戦うことのみということか」


「あれほどの力は我々には無いがな。しかし数はアルガルータのご先祖さまたちよりいる。これは未確認だが、カマキリ型の体内には魔結晶がある可能性があると勇者様はおっしゃっていた。それを手に入れることができれば、我々もご先祖さまのように戦えるかもしれん」


「魔結晶か。勇者様よりいただいた、あの火球の魔結晶の威力は相当な物だと聞いた。確かにあれがあれば戦えるかもしれんな」


「最終的には勇者様のお力を借りねばならないだろうが、我々でできることはやるべきだ。ご先祖さまのようにな」


 勇者様がお力を貸してくれたとしても、我々がその道を切り開かねばならない。ご先祖さまのように。そのためにはもっと力をつけねばならない。


 この地球とアガルタを守るために。


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