第28話 独占スクープ



《 みなさんこんばんは。産恵さんけいテレビアナウンサーの鮫島 実です 》


《 同じく入社4年目の日野 彩香です 》


《 『ワールドニュース22』の時間となりましたが、ここでみなさんにお知らせです。本日は予定していたニュース内容を変更しまして、当産恵テレビの独占スクープをお送りさせて頂きます 》


「お? 始まった! カレン! 早く早く! 」


「……ワタル興奮し過ぎ」


「ちゃんと編集が間に合うか心配だったんだよ。いいから早く来いって 」


 俺はベッドの上で買ったばかりのタブレットをいじってるカレンに、早くソファーへと来るように言った。


「ん、今いく」


 カレンはベッドから起き上がり、寝そべっていたことで乱れていたピンクの浴衣を直し、俺の隣へと腰掛けた。俺は隣に座ったカレンの肩を抱き、番組が始まるのをワクワクしながら待っていた。



 自衛隊の習志野駐屯地での政府の高官と面会が終わり、俺とカレンは小長谷が運転する車に乗り犬吠埼の華恋館に戻ってきていた。


 車の中では小長谷に、自分が国に仕えているせいで色々と悪いって謝られた。そんな小長谷に俺は宮仕えは大変だよな、気にするなと言って笑って返した。

 現時点では大金が手に入ったし、義務も無いのに婆ちゃんを守ってくれるみたいだから、俺としては見せしめに警視庁の奴らさえしっかり裁いてくれれば不満はないんだよな。


 警視庁はネットやテレビで凄く叩かれてる。国の機密事項を他国に流して、さらに国民を守るべき警察が拉致に加担したんだからな。そのうえそれは日本を救ってくれた人間を、日本から引き離すために行ったってんだから最低でも執行猶予無しの懲役刑にはなるだろうって識者が言ってた。これから警視庁は信頼を取り戻すのに長い時間が掛かるだろうとも。


 小長谷が言うには神奈川県警が警視庁を見てビビったのか、婆ちゃんの護衛をかなり増員したそうだ。俺は婆ちゃんにバレるからやめてくれと、やるなら私服警官にしてくれと言っておいたよ。


 まだ婆ちゃんにはグレイマスクだって言ってないからな。というか米兵を虐殺しちゃったし言えない。別に俺は間違ったことをしたつもりは無いから、婆ちゃんにどう思われようと構わない。心配なのは婆ちゃんだ。あんなに純粋無垢で心優しく虫も殺せなかった可愛い航が、大量殺人をしたなんてって卒倒しちゃうかもしれないからな。いずれ知られるだろうけど、知らないなら知らないままでいてくれた方がいい。今はな。



《 それではニュースです。本日午前10時頃。佐藤総理ほか、複数の閣僚が習志野駐屯地へと訪問しました。その理由は正式には明らかにされておりませんでしたが、実はあの日本の救世主であるグレイマスク及びグレイピンクと面会をしていたことがわかりました 》


《 少し前からグレイマスクと会うのではないかということが、ネットで噂されてましたね。やはり会ってらしたんですね 》


《 はい、そのようでした。そこで当局の突撃レポーターでお馴染みの天宮レポーターが、駐屯地の入口でグレイマスクが乗っているであろう車を待っていたんです。そしてアプローチを掛けたところ、グレイマスクの目に止まり当局だけが駐屯地内での撮影を許されたんですよ。これがその時の映像です 》


《 さすが天宮さんですね。他の報道局や新聞社を差し置いてグレイマ……あれ? このピンクのグレイマスクを被って、ボードを掲げているのが天宮さんですか? これは突然レポートというよりは、ただお礼を言っているように見えるのですが…… 》


《 ははは、天宮さんの地元は奈良県で、あの第三次インセクトイド侵攻時に足の悪いお母様が避難できずに取り残されていたらしいんです。彼女も奈良へ向かおうとしていたらしいのですが、当時はすべての交通機関が止まってましたからね。もう駄目だと泣き崩れていたところに、グレイマスクが奈良で暴れていたインセクトイドを殲滅してくれたというわけです。そのおかげでお母様は助かり、どうしてもお礼が言いたかったようなんです。局としても駐屯地に入ることは諦めていたので好きにやらせたところ、グレイマスクの目に止まったという訳です 》


 なるほど。あれはそういう理由だったのか。ずっとありがとうって言ってたもんな。


「ん、助けてよかった」


「まあな」


 カレンが俺を見つめて言った言葉に、少し照れながらもそう答えた。

 あれだけ全力で感謝されれば悪い気はしないよな。次も呼んでやろうかな。


《 そんな経緯があったんですね。心のこもった感謝の気持ちに、グレイマスクさんが応えてくれたんですね。素敵です 》


《 はい。天宮レポーターのおかげで、とても貴重な映像を撮ることができました。それではその貴重な映像をご覧ください 》


「いよいよだ! ちゃんと撮れてるかな〜 」


「んふっ……ワタル可愛い」


 俺はいよいよ俺が乗るサクの勇姿を見れることにワクワクしていた。


 そしてテレビの画面が習志野駐屯地の訓練場のものへと切り替わった。そこには天宮レポーターが映っており、自己紹介をした後に俺がサクの操縦を小長谷にレクチャーされている姿が映し出された。


 その光景を天宮レポーターが興奮気味に解説していて、俺がサクに乗り込んだ時なんかは大騒ぎをしていた。


 そして画面には俺がサクをアニメのサクと同じような動きで自由自在に操り、最後にレールガンを連射して戻ってくるまでの一連の動きが流れた。

 その華麗なる動きに天宮レポーターも、画面の右下に映っているスタジオのニュースキャスターも魅入っていた。俺は目を輝かせていた。


《 こ、これはなんという動きでしょう……あのサクがこれほどの機動性を持って動くとは……さすがグレイマスクと言ったところでしょうか。それにしてもガンドムのサクの動きそっくりでしたね。グレイマスクが日本人だということが、これだけで信じることができましたよ 》


《 凄かったです……グレイマスクさんもそうですが、グレイピンクさんがその隣で生身でレールガンを撃っていたような…… 》


《 え? いやまさかそんな……も、もう一度見てみましょう 》


「わははは! 俺カッコイイ! 俺超カッコイイ! 見たかカレン! いや、あの場で見てたか。でも俺はあの時、違いなくガンドムのサクのパイロットだった! この映像M-tubeでも流れるらしいしダウンロードしとかなきゃ! 次は宇宙で乗りたいな! 早く開発してくれないかな」


「んふっ、ワタルはしゃいで可愛い……」


 俺はソファーから立ち上がりテレビの前で腕でを振り、全力で自画自賛をしていた。カレンは薄っすらと笑みを浮かべてそんな俺を眺めていた。


 乗ってる時も興奮したけど、自分が操縦した機体を映像で見るとより興奮するな。それにしてもカッコイイ。これはちょっと欲が出ちゃうな。ダンゴムシの甲殻を使って次はトムを作ってくれないかな。


 確か六菱重化学工業がサクを製造してるんだったな。平沢がグループ会社だし、ちょっと頼んでみるか。製造会社がGOサインを出せば、俺から防衛大臣とかに言えば通りそうだ。トムのあのズングリしたデザインもいいんだよな。3機揃えてやりたい技もあるしな。


「あ〜楽しかった。それじゃあカレンもう寝ようか」


 見たいものが見れたし大満足した俺は、カレンの浴衣の胸もとに右手を差し入れて乳を揉みながらそう言った。


「んっ……また知らない女にワタルが興奮しないよう搾り取る……ワタルの恋人は大変」


「今日は趣向を変えてロープを使いたいんだ。いいよな? 」


 俺はカレンに女性自衛官へエーテルを流すのを邪魔されたお仕置きをするために、それとなく今日はいつもと違ったプレイをしたいと提案した。


「ロープ? また変態なこと思いついた? 」


「ぐっ……き、きっとカレンも気にいると思うからさ。さあさあベッドの横で両腕を後ろで組んで」


 変態とか! 見に覚えはあるけどそんなヤレヤレって顔で言うなよな! カレンだってエロフじゃねえか!


 俺は内心で文句を言いながら、カレンを警戒させないように笑顔でカレンをおベッドの横へと誘った。


「……仕方ない……マンネリしないために工夫は必要」


「きっと喜んでくれるさ」


 この特別性のロープで身動きできない状態で、俺に色んな恥ずかしい格好をさせられるんだ。そして姿鏡を置いてその姿を見せてやる。カレンの羞恥に染まる顔を見るのが楽しみだ。


 俺はそそくさとカレンの腕を縛り、ネットで調べた亀のような縛り方で浴衣の上から全身を縛り上げた。そして俺のお仕置きが始まった。


 カレンはロープで身動きが取れない状態で俺に浴衣をズラされ千切られ、そしてひっくり返されて明るい所で大事なところをジッと俺に観察され、色々な道具を突っ込まれてその姿を鏡で見せられたりで、何度も羞恥に染まったその顔で『もう許して』と懇願してきた。俺はそのカレンの表情に興奮して、縛られたままのカレンを何度も抱いて身体中を俺の体液でドロドロにした。


 少しやり過ぎたかなとロープを解きながらカレンに謝ったら、『いい……興奮した』と恥ずかしそうに返してきから、それにまた俺は興奮して結局朝までお互い愛し合った。


 たまにはこういうのもいいかもな。今度は目隠ししてみようかな?

 俺はカレンの可愛い顔を見れたうえに思った以上に興奮したことで、たまにはこういったプレイもいいなと今後色々試してみようと考えていた。


 しかしそんな俺の隣で、カレンがこっそりロープを回収している事に俺は気付かなかった。







 ーー エルサリオン王国 情報局 局長 レンウェ・ルンミール子爵 ーー




「そうか、ニホン政府がセカイ氏との接触に成功したか。ミサワの時に接触していたので、もしやと思ってメッセージを伝えておいて良かった」


 私は部下のフィロテスによる報告に胸を撫で下ろした。


 これで一応は敵対の意思が無いことを伝えることができた。言い訳でも言わないよりは言った方がいくらかマシだ。


「はい。アトランティウス大陸のホールを通してニホンの受信施設に連絡したところ、昨日チバ県のナラシノにある日本軍基地にて接触したそうです」


「地上ではアトランティウスではなく、南極と呼んでいるらしい。彼らは1万2千年前に、あそこが高度な文明を持った帝国がある緑あふれる大地だったとは知らないからな」


 その文明を滅ぼし氷の大陸にしたのが我々だということもな。その出来事以降は地上との接触を絶っていたが、ダグル《インセクトイド》の先遣部隊がこの星を見つけたことで状況が変わったと文献には記述されていた。


 ダグルが現れたことで、先祖が過去に栄えたいくつかの地上の文明に戦う力を与えた。そして一緒にダグルを撃退するべく戦ったが、その都度裏切られた。我々はその都度報復のために、地上人の軍基地を壊滅させた。その結果ダグルにより地上の文明は滅んだ。


 地上人は今より遥かに人口は少なく、上陸したダグルの数もそれに比例していたことで、我々は決死隊による遅滞戦闘により地下へと逃げることに成功し見つからずに済んだ。


 そんなことを何度か繰り返していれば、地上人を信じられなくなるのも無理はない。地上人たちは欲深く、その短命さゆえに学習能力の無い愚かな生き物と我々は理解した。


 ただ、ニホンのあるあの島の人々だけは、いつの時代も我々を裏切ることが無かった。それどころか我々に味方し、決死隊に参加してくれた者もいた。そして千年前には、宇宙船の故障により脱出ポッドでニホンへと降りたった幼き王家の姫まで彼らにより命を救われた。


 あの島は我々にとって特別だ。先祖の言い伝えもあり、長い間ずっと見守ってきた。100年ほど前にニホンがアメリカと戦争を行った時も議会では助けるべきだという声と、ダグルが現れた訳でもないのに我々の存在を地上の人間に知られるわけにはいかないという意見で割れた。


 最終的にはニホンの陸軍が暴走していたこともあり、我々は手を出さない事となったが、その結果があの原子力爆弾の開発に繋がってしまった。我々は後悔した。先祖代々見守っていた島に多くの犠牲を出させてしまったと。


 その後は原子力爆弾を落としたアメリカを監視しつつ、ニホンに二度と大きな災害が起こらないよう陰ながら見守っていた。火山の噴火に関してはかなりの数を抑えた。噴火の予兆のあったフジヤマも我々によって今は抑えられている。


「失礼しました。ニホン政府によりますと我々のメッセージを受け取ったセカイ氏は、我々に敵意が無いということよりもアガルタという名に驚いていたようでした」


「この世界の名前に? 恐らく地上で滅んだ国の生き残りが伝えていたのであろう。インターネットという情報通信では、伝説の地として扱われていたようだからな」


 我々もインターネットは監視をしているが、その辺はオートマタ任せだ。オートマタたちからの報告で、アガルタという名が地上に残っているということだけは聞いている。セカイ氏はそれを知っていて現実にあったことに驚いているのだろう。


 まあ正式な名は違うがな。アガルタとは呼びやすいことで我々の中で定着してしまった名称だが、それは各種族の共通言語も同じだ。今では古代語を完璧に話せる者は王家の者くらいだ。言語翻訳機があっても、古代語だけは絶やさず受け継がれているようだ。王はいつか必ず使う日が来ると言っていたが、何のことか私にはさっぱりわからなかった。


「確かにおっしゃる通りかと。しかしいかがいたしますか? 地上人へセカイ氏によってエーテルの使用法が伝えられると予想されますが……」


「それは世界セカイ氏がニホン人である事がわかった時点で想定済みだ。ダグルの攻勢が過去にないほどに強い。遅かれ早かれ伝えることになったであろうから問題ない」


「承知しました。確かに軍が苦戦しているのは事実ですね」


 そう、先日の大攻勢の際に、過去の文献にあったレベル4のダグルが現れた。火星にも多くのダグルが、次元跳躍をして星系から集結しているようだ。おそらくこの50年で地上を食い尽くせなかったことで、本隊が来た可能性もある。


 もしも今以上に強いダグルが現れたら……レベル5のダグルは未知の存在だ。先日のレベル4のダグルの攻勢でギリギリの戦いを行った我々に防げるかどうか……考えたくはないがレベル6のダグルまで現れれば、月の基地を手放すことを想定しなければならないかもしれん。そうなった時に、地上人には今以上に戦ってもらわねばならない。


 これだけ地上人が増えてしまえば、ダグルも数多くこの星に上陸してくるだろう。そうなれば我々の世界も見つかる可能性が高い。

 エーテルを扱えなければ、今の地上の装備ではレベル3のダグルに蹂躙される。そして何十億という地上人のエーテルを吸収し、力を付けたダグルがアガルタへとやってくる。悪夢だな。


 それならば地上人にエーテルを扱えるようになってもらう方がマシだ。だが過去の二の舞にならぬよう、エーテルを扱う技術は信頼できる国にのみになんとか留めさせねばならない。そう簡単に地上人が扱えるようになるとは思えないが、セカイ氏は未知の力を持っている。ニホン政府と一度話し合わねばならないな。


 ニホンがエーテルを扱えるようになれば、エーテル技術を教えることも検討すべきであろう。それと引き換えにセカイ氏との仲介を依頼するか……王が大変興味を持っておわれるセカイ氏と、なんとか接触をしたい。


 そしてあの強大な力を、我々ではなくダグルに向けさせたい。できればあの力の秘密も知ることが……いや、やめておこう。私は彼の力を探ろうとする者を見つけ、排除せねばならない立場だ。私がそんな好奇心を持っては、いつか彼を敵に回すことに繋がりかねない。


 それだけは、それだけは絶対に避けねばならない。


 私はフィロテスの報告を聞き終わり、彼女を退室させた後もセカイ氏とどう接触し、プライドばかり高く種族至上主義者の多い貴族を抑え味方に引き込めるか考えていた。



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