第6話 パワードスーツ『サク』
「グロッ! つーか怖え! 蟻が人くらいの大きさとかグロ怖え! 」
「……気持ち悪い」
「あ〜やっぱ戦うのはないわ〜。俺さ、虫ダメなんだよね。蜘蛛型とかいたら逃げる自信あるわ」
これ絶対斬ったら体液ビシャーってなるやつだろ。それにこの無機質な目。
生理的にこれは無理だわ。もし向かってきたとしても剣で戦うとか無理! 魔法でひたすら遠距離からだな。
「私は銃だから平気……ガンソードは封印する」
「こんなバッチいのに近付くなよ? まあ北海道に近づかなきゃ大丈夫だろう。日本なんて小さな島国だから、インセクトイドもお隣の大量に人のいる大陸に行くだろうしな」
いくら等級の高い再生の魔結晶のおかげで病気にならないっていっても、それとこれとは別だ。絶対バッチいに決まってるよこんなの。
それにしても本当に宇宙生物の侵略を受けてたんだな。
一瞬並行世界に来たんじゃないかって疑っちゃったよ。マジで現実だったとかナイわ〜。
俺は婆ちゃんと別れてから家に戻り、2階にある懐かしの俺の部屋でカレンと2人でベッドに寝転がってスマホを弄っていた。
カレンは検索をかけるとなんでも出てくるインターネットに目を丸くして、M-tubeで様々な動画を目にしておーおーとかずっと言っていた。表情は変わらないが、うつ伏せで足を曲げたり伸ばしたりしていることから楽しそうだ。
俺はというと8年前にやってきたという、インセクトイドと地底人のことを調べていた。
このインセクトイドの第一次侵攻で中国やロシア、アラブ諸国にアメリカの都市は大打撃を受け、日本も北海道の大都市やその他の都市が壊滅した。
壊滅したと言っても被害は人的被害に集中していて、中国やロシア以外は建物とかはそれほど被害はない。北海道を含め現在はほとんどの都市が復興しているが、核を使った中国とロシアの街は廃棄されている。まあそりゃそうだな。
その第一次侵攻から世界を救った地底人だが、情報が非常に少ない。
彼らが乗っていたというロボットの写真はあったが、遠くからの非常に画質の粗い物しか無かった。
ただ、確かに婆ちゃんの言ってた通りロボットというか、中央の人らしき者の四肢の先にデカイ鉄の腕や足が付いていた。そして背部には翼のような物も複数あった。
そして中央の人の身体はむき出しで、ウェットスーツみたいな物を着ているように見えた。紙装甲にしか見えないが、きっと何かその高い文明の技術でシールド的なものを張っているんだろう。
限られた映像しか公開されておらず、そのどれもが画質が悪いことから明らかに意図的に外に出す情報を抑えているとネットでは言われていた。俺は多分地底人の指示なのかなと思った。UFOの正体が地底人だったわけだしな。
これまでUFOは数多く目撃されてきたにも関わらず、地上の人間と接触してこなかったことから、地底人は地上の人間と関わりたくないんだろう。インセクトイドが来た時は、これはこのまま放置をすれば自分たちのところにも来ると思って戦ってくれたんじゃないかと思う。そして地球の今の科学力じゃ対応できないだろうと、技術供与をしてくれたんじゃないかな。地底人の盾として頑張れよ的な感じじゃないかね。
映像を解析した人の投稿を見る限りでは、地底人の見た目は浅黒い肌で、髪は恐らくグレー。鼻から上はバイザーみたいな物をしていて顔はわからなかったが、確かに口もあり胸もとや腕も人と同じに見えた。アームに隠れて見えない指が3本だとかかもしれないが、確かにその造形は人に似ていた。
まあこれくらいしか地底人の情報は無かったよ。
次に各都市を襲った蟻型インセクトイドを調べたんだけど、その姿がグロい……
まさに見た目は黒い蟻のまんまなんだけど、人ほどの大きさで二足歩行する蟻のなんと気持ち悪いことか。絶対近接戦闘はしたくないと思った。
だって斬ったら体液でドロドロになりそうなんだもん。
現在自衛隊はこの蟻型インセクトイドの捜索に苦心しているようだ。広い北海道の山や森に逃げ込まれ、8年経っても全てを掃討できていないらしい。これは中国やロシアにアメリカや、その他の国なんかも同じのようだ。山や森で大きいとはいえ、体温の低い虫を見つけるのは大変そうだ。
日本以外の国は第二次侵攻の時の討ち漏らしもいるからもっと数が多いそうだ。
このインセクトイドが地方のアーティストのライブ会場とか、村や小さな街に現れて人を襲うことが何度もあったそうだ。その都度掃討しているらしいが、減ってきたとはいえまだまだあるらしい。
第二次侵攻は北アメリカ・南アメリカ・オーストラリア・アフリカ大陸に、ダンゴムシ型のインセクトイドが各1体ずつ降下してきたそうだ。
これは前回に比べて数が少ないということと、対インセクトイド用の兵器の開発が終わっていたこともあり僅かな被害で人類は蟻型インセクトイドを殲滅することに成功した。
対インセクトイドの兵器とは、パワードスーツと呼ばれる2.5m~3mほどの高さのある人型のロボットみたいなやつだ。これは地底人の乗ってた物と違って、外からパイロットの姿は見えない。
なんだか難しい名前の特殊金属でできた人型のパワードスーツの背面からパイロットが大の字になって中に入り、中で自分の身体を動かすとパワードスーツの四肢も同じように動くというものらしい。
パワードスーツの両腕と両足の半分くらいにしかパイロットの四肢は届かないんだけど、残りは機械でアシストして動くらしく、指の動きなんかも割とスムーズにパワードスーツの指先に伝わるみたいだ。その細かな指の動きで銃を持って撃ったり走ったりして戦っているそうだ。
動力は小型の超大容量の蓄電池で、これは地下世界から供与された技術だそうだ。
大型トラックをひっくり返せるほどのパワーがあるのに、連続稼働時間も12時間と長い。
7年前に出た初期型は連続稼働時間が5時間だったらしいが、この7年でここまで稼働時間を伸ばすことに成功したと書かれていた。
そして肝心の武器だが、これも地底人から供与された技術らしく全長1.5mほどの小型のレールガン《電磁砲》とプラズマソードを使っている。
地底人曰くレールガンを発射する時にプラズマが発生するらしく、そのプラズマはエーテルを帯びているそうだ。だからレールガンの弾で撃たれたインセクトイドは、その硬い甲殻をやすやすと貫通させられるそうだ。
プラズマソードも似たような原理で、剣にプラズマを発生させてインセクトイドを斬るそうだ。接近戦用だな。しかし長時間の使用は電力が保たないらしく、プラズマのオンオフの切り替えに相当な技術が必要らしい。
このパワードスーツと、大型レールガンを積んだ戦車との連携により第二次侵攻でインセクトイドを駆逐したらしい。
エーテル……まさか地球でこの名称を聞くことになるとはな。
アルガルータでは似ているもっと長い名称だったけど、俺が勝手に縮めて地球にある言葉でエーテルと呼んでいた。宇宙に漂う未知の物質であり、人の身体にもありオーラと呼ばれているものであったり、霊体であったりと。その特徴から地球の人たちもエーテルと呼んでいるんだろう。まあほかに形容する言葉が見つからないしな。
人だけを襲いエーテルを纏った攻撃が有効だと地底人が言うんだから、インセクトイドはエーテル体で間違いないだろう。一番悪い方の予感が的中しちゃったな。
エーテル体には、より強力なエーテルを纏った攻撃じゃないと上位の個体には通用しないんだよな。厄介だ。
んでそんなに有効ならと現在地球ではエーテルの研究がなされているようだが、さっぱりわからないらしい。巨大なレールガンを作って撃ったりして観測しているらしいんだけどね。プラズマによって起こる現象の観測は未知の部分が多いから苦戦しているようだ。
まあ目に見えないものだし、ぶっちゃけ幽霊の正体を分析するようなものだ。あれは死んだ生き物のエーテルが、大気に溶けないまま残っているものだからな。それがわかってからは幽霊が怖くなくなったよ。
そんな性質のものだから、計器類に映ってもそれがなんなのかはわからないだろう。自然にできたエーテルの塊は一つの場所に留まらないから、観測するのも大変なんじゃないだろうか。
誰かがエーテルを扱えるようになれば研究は進むだろうが、恐らく地底人は地上の人間にエーテルの扱い方を教えてないっぽい。
それだけ地上の人間を警戒しているってことかもな。うん、正解。
まあ今のところはこれだけ地底人から得た科学技術があるなら、エーテルを扱えるようになって剣を持ってインセクトイドに突撃するよりも飛び道具がある分勝率は高いだろう。
十人隊長級くらいまでは、パワードスーツでレールガンをぶっ放してプラズマソードで戦った方が強いと思う。
現に蟻型の殲滅に成功しているしな。百人隊長級が出てきたらどれだけ通用するかはわからないけど。
でもパワードスーツにレールガンか……俺もこれに乗って撃ちたいな。
「レールガン……強いの? 」
「ん? まあ物理的な威力はね。ただインセクトイドのどのレベルまで通用するかはまだわかんないな。十人隊長級までは通用はするとは思うんだけどな。あの弾にどれだけエーテルが込められてるかによるかな。撃ってるとこ見れば弾が纏っているエーテル量でだいたいわかるんだけど」
どうやら銃マニアのカレンも興味を持ったようだ。
「そう……見てみたい……」
「そうだな。俺もこの自衛隊の三九式強化装甲服は見てみたい。いや、乗ってみたい! 」
「この一つ目のツルツル頭の? 」
「これ絶対狙って作ってると思うんだよな。緑だし口もとのホースといい三九式というネーミングといい……著作権大丈夫なのか? 」
そう言う俺にカレンは首を傾げているが、これは男の浪漫の話だから説明してもわかってくれないだろう。
そう、自衛隊の対インセクトイド部隊である第1特殊機甲連隊のパワードスーツ部隊が乗っていてる機体は、まさにあの有名なロボットアニメ『ガンドム』に出てくる敵側の量産型ロボットそっくりだった。緑の機体に丸っとした頭と一つ目のカメラ。そして口もとから後頭部にかけて伸びるホース。右肩に盾と左肩には棘こそ無いが、亀の甲羅のようなショルダーカバーが付いている。
なによりも三九式というどこから出てきたのかわからない名称に、通称『サク』と呼ばれ親しまれている。間違いない。確信犯だ。
この機体を作っている六菱重工の開発者たちと、自衛隊のトップ連中はガンドムファンとしか思えない。きっとそのうちこの10倍の大きさの30m級サクを作るに違いない。
いや、もしかしたら106式のトムになる可能性も……意表を突いてガンドムかも。
でもそれにはタンクとキャノンをまず先に作らないと……
俺は妙に自衛隊に親近感が湧き、その後も体験搭乗会とかないかなとネットで調べるのだった。
だって男だったら乗ってみたいよな?
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