第33話

 「秋穂が面倒見てあげたら?」


 冗談を言ったつもりだったのに秋穂はこちらを見ないし笑いもしない。


 私たちは少し言葉を交わしただけで、ゴミを置いてもう公園に背を向けて歩き出している。少女はまだ木を見つめているだろう。これから目的も何もなく、ただ有り余る膨大な時間を消費するために今日もあの公園を一人彷徨い続けるのだ。


 親は何してるの?


 私は堂々巡りの思考から抜け出したいのに抜け出せないでいた。気にしたくないのに気になってしまうのは、あの少女へ向けた微かな母性なのかもしれない。


 「あの子さ、いつもあそこにいるんだ」


 「そう。やたら人懐っこいんだけど気持ち悪くて嫌なのよ」


 秋穂は遠くを見ている。恋人でも夫婦でも同士でもない私たちはもうただの他人だ。家をシェアしてお金を出し合って倹しく生きているだけの他人。今夜辺りに話を切り出してみようか・・・。


 そうなると今の部屋には住んでいられなくなる。また漂流するように桃香と二人、人生を彷徨うのかと思うと私はアスファルトのグレーから目が離せなくなる。


 夏の青が恋しい。ため息をつくと更に青は遠のいた。

 

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