第22話

 公園のまわりを見てもあの子の親らしき存在は見当たらない。一人で来ているのだろうか。


 何かを探しに行こうとでもしているのか、二人で離れた茂みの辺りに行ってしまいそうだったので慌てて我が子の名前を叫んだ。すると桃香の動きがピタリと止まって振り返り、私のことを急に思い出したかのようにこちらを見て微笑んだ。隣にいる少女もこちらを見ている。表情のない真っ黒な空洞のような眼が怖いと感じた。


 「桃香、戻ってきて。遠くに行ったら迷子になっちゃうよ」


 急に不安になったのか、慌てた様子で桃香はこちらに駆けて来る。女の子も桃香を追うようにしてこちらに来た。


 「ママ、あっちに猫ちゃんいたよ」


 桃香が満面の笑みで言う。


 「変な色の、猫、いた。ねー?」


 桃香と一緒にいた少女も私のことを見ながら言う。


 「猫、あっち、ね?ね?」


 少女の話し方は年が変わらなさそうな桃香の話し方と大きく違っていて、たどたどしく、片言のような言葉を必死に話していた。

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