悲しいときの歌

水木レナ

冬の悲哀(詩です)

 些末なことは忘れてしまったけれど

 冬になると少し憂鬱になる

 私が小さかった時のこと

 寝床が冷たくて、年中しもやけをこしらえていた時のこと

 登園したら先生はストーブに当たっちゃいけませんと言ったんだ

 子供は風の子なんだからと


 小さい時のことだからね、憶えてないけれど

 だれにも顧みられないってことは

 声をあげてないってことなんだ

 私が若かった時のこと

 だれもいじめたりなんかしてなかったんだ

 私が声をあげなかっただけなんだ


 冬月、心がささくれ立つよ

 あったかい部屋にいるのに

 凍ってしまいそうだよ

 寂しいんじゃない

 わかってもらえなかったことが

 ただかなしいんだ


 冷たい玄関の外でうずくまっていると

 野良猫の子がよってきて膝に乗った

 ぽっとそこだけあったかくて

 地上との絆を感じた

 この子のために生きてみようと思った

 幼い決意だった


 暖かい部屋が用意されて

 保護されてようやく涙がこぼれるようになった

 どんなにか嫌な目にあったのだろうかと他人は思うかもしれない

 思わないかもしれない

 ただ、何があったってかなしみに終わりはないんだ

 生きていく限り、だれにでもあることなんだ


 飼い猫に問いかけると

「たぶん、みんなが思っていることだよ」

 と目線で語った

 近所で鳴いているあの真白な猫は、

 寒夜どこでどうやって過ごしているんだろうか

 声もあげずに


 花も咲かないではないというのに

 曇り空ばかり数えていた

 灰色の路面ばかり見つめて歩いた

 家に帰れば飼い猫がいるのに

 寂しさをまぎらわせたいんじゃない

 かなしみを忘れたいだけ


 冬晴の日は、寝起きの仔猫と庭をお散歩したいな

 胴輪を嫌がる猫だから叶わない夢だけれど

 そのときはきっと空と大気と緑とが、とてもきれいだと思うんだ

 おまえと見るものはきっとうつくしいと思うんだ

 言うべきことはそれだけだ

 ああ、青い空が見たい。

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