夢の先
目を覚ました。知らない天井が広がっている。少なくとも私の知っている場所ではないことは確かで、海の中にいたはずだったのに。
「乾いてる……」
海に入ったはずだった私の体は、乾いており、ついでに言うと服だって、あの日着ていたものではなかった。普段着ることのない和服を着せられている。誰かに助けてもらったのだろうか?考えられるとしたらあの赤い二つの目だと思う。だって、あそこに人は一人だっていなかった。と、ぐるぐる思考を回したが、急に億劫になり、どうでもよくなり、考えを放棄。だって、考えたって仕方ない。
「…………」
ぼんやりと天井を眺めた。
どこまでも広くて、さみしい和室だ。物の一つもおいてなくて、生活感が一切ない。誰にも使われてないのだと、誰からも必要とされていないのだと言われているような部屋だ。かなしくてさみしい空間。そこに置き去りにされている私はとてもこの部屋に似合っているのかもしれなかった。
どうでもいいことだと、目を閉じた。
□□□
『こども』
眠ってしまっていたのか、不意に降ってくる声に驚いて、起き上がった。黒くて丸くてもさもさしていて、猫のような耳があって、それに赤い目が二つ。それが私を見ていた。あの海の中で見た赤い二つの目だ。
『こども、われの観測者となれ』
こども、とは私のことだろうか。無言で自分自身を指さすと、黒くて丸くてもさもさした猫のような耳をもったものは、短く肯定した。
「あの、観測者って……」
『ただわれを認識していればいい。やることはそれだけだ、それ以外は自由にしておれ』
「……ここにいていいの?」
『いなければ認識できない上に観測もできんだろう。もう帰りたくても戻れんぞ』
帰りたくても。もう帰るとこなんてないのだから、好都合だ。ここでなら、私はいていいんだ。かけられていた布団をぎゅっと握った。
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