89.悪魔の沙汰
「えっと……名称は悪魔の粉っていうみたい」
「悪魔の粉、か。効果は?」
「これを周囲に振りかけることで、モンスターを一定時間呼び寄せる効果があるんだって。どれくらいかは量で決まるみたい」
「なるほど……」
バニルの基本スキル《調査》で調べてもらったんだが、悪魔の粉っていうのか。名前に比べると効果は地味に見えるが、攻略を目指す上ではかなり頼りになるアイテムだな。
ただ、粉の量自体が少ないので、何度か使ったらすぐなくなりそうだが……。
「あふぅ。お料理に使えそうな粉かもお……」
「ちょっとミルウ、変なの入れないでよね!」
ルシア、いつの間にかまた夢想症になってるし。
「悪魔さんにモテそうなお料理ですねえ……」
「小悪魔のバニルに追い回されるなんて洒落になんないわよ!」
「あー、ルシアそういうこと言うんだ。いいもん。セクト、少し粉を舐めて試してみる?」
「……え、遠慮しとく」
「ふふっ。可愛いっ」
「……」
俺はまだその枠なのか……。早くこの変な空気を変えなくては。
「と、とりあえず使ってみるか……あ……」
俺ははっとした。これをスキルに変えれば無限に使えそうだと思ったんだ。《成否率》だと2.5%だったこともあって、33回という僅かな試行で《スキルチェンジ》に成功した。
派生スキル《デビルチャーム》Cランク
熟練度 Fランク
使用すると一定時間、モンスターの出現確率が通常よりも高くなる。
……よし、俺の思った通りの効果だ。熟練度が低いからそこまで遭遇率は上がらないんだろうが、それでも何度でも使えるのは相当なアドバンテージになる。
「「「「すごーい……」」」」
「……」
石板を確認してたらやっぱりバニルたちも覗き込んできたが、実はわざと見せてやったんだ。みんなに見られたくないなら《ステータス》で確認すればいいわけだからな。
「こういうわけだ、バニル。この悪魔の粉はいらなくなったからペンダント代にしてくれ」
「えー、いいよもう。そのお金はみんなで出し合ったものだし……」
「そうよ、セクト。あたしたちは最初から返してもらうつもりなんてないわよ!」
「そうですよぉ。貰ってください、セクトさん……」
「気にしないでえ、セクトお兄ちゃんっ」
「……いや、義理は果たしたいんだ。必ず返す。わかってくれ、みんな……」
「……はー。あんたのそういう頑固なところ、あたしのお父さんそっくり……」
ルシアが呆れ顔で、両手を左右に広げてしみじみと言う。多分、亡くなった実の父親のほうだろう。俺が引かないことが理解できたのか、みんなそれ以上突っ込んでくることもなかった。
さて……早速、新スキルの《デビルチャーム》でモンスターをここに呼び寄せるかな。そのほうが歩かなくて済む分、体力を温存できて楽だし……って、待てよ。その前にまだやることがあるじゃないか。俺はあることを思いついていた。
「みんな、《デビルチャーム》っていうスキルをやる前に試したいことがあるんだ。だからそれが終わるまで、少しここで休憩してて」
「「「「はーい」」」」
みんなにとって休憩時間になるとはいえ、なるべく早く済ませるつもりだ。俺がここで目指すのはダンジョン攻略だけじゃないんだ。『ウェイカーズ』の連中がやってくる可能性があるから、それに対する準備でもある。
「ゲロロロッ……」
バラバラ死体が転がる古城の大広間、アデロがたまらずしゃがみ込んで嘔吐する。
「ちょっと、アデロさん、吐かないでくださいよ。こっちまで気分が……ゲエエッ……」
「……グエッ……」
「お前たちがいちいち見るからだ。不快な思いをしないように目と鼻を切り取ってやろうか?」
【骸化】して剣を構えるカルバネ。
「「「ひいっ……」」」
「しかし、わざわざこうして足跡を残してくれるんだからありがたいもんだな。とっとと行くぞ」
冒険者たちの陰惨な死体の側を通り過ぎていくカルバネたち。『ウェイカーズ』と衝突しないよう、彼らから少し遅れる形で進んでいたのだ。
「まともな連中じゃねえな! 女までバッサリだ!」
「男はいいんですか? アデロさん……」
「そりゃそうだろ! 男が少なくなりゃ、俺よりモテるやつを見なくて済む確率が上がる! だからピエールとザッハも死ね!」
「アデロさん、あなたが死ねば解決する問題では?」
「……同意……」
「けっ! 一人くらい生きた女を残してくれりゃいいものを――ぶはっ!?」
カルバネが急に立ち止まったため、アデロがその背中に顔をぶつけた。
「ど、どうしたんすかカルバネさん……」
「お前たち、あれを見ろ……」
「「「あっ……」」」
カルバネが剣で指し示す方向には大広間の出入り口があり、今まさに二人組の男が入ってくるところだった。
「お前たち、あれを見てどう思う?」
「こっち方面で死んでないやつなんて珍しいっす……」
「ですねぇ……」
「……んだ……」
「そうだ。やつらも『ウェイカーズ』には遭遇しているはず。なのに殺されていないのは、偶然か、あるいはなんらかの意図があるのか……」
「カルバネさん、ちょっとあいつらを痛めつけてから事情を聴いてみたら……?」
「いいですねぇ」
「……腕が鳴る……」
「おいおい……もちろんかまわんが、殺さない程度に暴れろよ。事情が聴けなくなる……」
「「「ヒャッホー!」」」
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