Z02-03
一特(いちとく)の調査船の右手の奥の方で巨大な海洋生物がはねた。後部デッキでバーベキューパーティを楽しんでいたクルーの一人がそれを見つけた。
「おい。クジラじゃないか」
右手の手すりに人だかりができる。太陽の光に照らされて見えるシルエットはクジラそのものだった。
「おれ、本物のクジラをみるのは初めてだ。感動だな」
だれかが海に向かって叫ぶ。
「おーい。もっとこっちにこいよ」
「違う。クジラじゃない。『カイラギ』だ」
久我透哉(くがとうや)が叫ぶ。
「どうしたの。透哉」
神崎彩菜(かんざきあやな)がたずねる。
「水を吐き出す音。間違いない。『カイラギ』の呼吸器官の音だ。いくぞ。神崎、修(しゅう)」
三人は『フェイクスキン』塗布室に向かって走り出した。
「山村(やまむら)さん。医務室にアルコール分解剤があるわ。志穂(しほ)さんを操舵室(ブリッジ)に連れてきて」
陣野真由(じんのまゆ)は山村光一(やまむらこういち)につげて、一足先に操舵室に向かった。
陣野真由はAIを使ってパッシブ式(受動式)ソナーでひろった音を分析させる。判定はやはり新種の『カイラギ』だった。
「警報を鳴らして。『カイラギ』の奇襲よ」
ウゥー。ウゥー。
けたたましいサイレンが調査船の中を鳴り響いた。山村光一と園部志穂(そのべしほ)が操舵室に駆け込んでくる。園部志穂はインカムを身に着けて、モニターを確認した。
「敵『カイラギ』、数5。種別不明。新種と思われます。真っすぐ調査船に向かってきます。A01、T07、Z13は水中戦闘装備にて出動してください」
山村光一が割ってはいる。
「ちょっとまってください。敵は明らかに水中特化型の形をしていました。『バイオメタルドール』は人型なので不利です」
「山村刑事。あなた。なにか案でもあるの」
たずねる陣野真由に山村光一が説明した。
「敵の狙いは調査船のクルーです。ほっといても船によってきて『サースティーウイルス』をまき散らそうとします。水中では水に溶けるだけで『サースティーウイルス』は拡散しませんから。必ず飛びあがって攻撃をしてきます。甲板の上から攻撃しましょう」
「それもアニメのアイデア」
陣野真由がたずねる。
「いえ、オリジナルです」
山村光一は自信満々に告げた。
「ツインタワービルを使った攻撃の件もそうだったけど。よくそうポンポンと思いつくわね。あっ。これ、ほめているのよ」
陣野真由は船内マイクをとった。
「本船はこれより、敵クジラ型『カイラギ』を船上にてむかえ撃ちます。総員船内に退避。対『サースティーウイルス』用マスクを装着。A01、T07、Z13は水中戦闘装備をとき、ランクA装備にて甲板で待機」
陣野修ののるBMD-Z13はランクA装備『マサムネ』を握ってゆっくりと立ち上がり、船首甲板に向かった。波を割って進む調査船の船首はパーティをしていた船尾と違い、上下に大きくゆれている。BMD-Z13はそこに立った。『マサムネ』をさやからゆっくりと引き抜く。
キーン。
『マサムネ』の発する超音波独特の響きがBMD-Z13の感覚器官を通して伝わってくる。陣野修は戦闘を前にして高まっていく興奮に驚いた。
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