M04-03

 どうする。逃げるか。


 片腕を失った『カイラギ』と小刀しか持ち合わせていないBMD-T07。戦力は互角と見た。敵が2体なら、360度の視覚を使って、相手の力をうまく利用することもできた。一対一となると話は別だった。走るスピードなら戦士型の『カイラギ』の方が上だろう。剣のリーチも相手の方が格段に長い。振りかざして打ち込んでくるなら受けきることもできるが。


シュン。


久我透哉(くがとうや)が考えをめぐらせていると、腰を落として身構えていた『カイラギ』が飛び跳ねるように突いてきた。瞬時に首を横にたおして避けたが遅かった。『カイラギ』の長剣の先がBMD-T07のゴーグルを切り裂いた。ゴーグルが外れて、配管の下に波打つ海へと消えていった。


「ちっ」


幸いBMD-T07の本体への損傷はなかったが、本部との連絡ができなくなった。頭部の各所に配置された36個の目が露出する。異変を察知した『カイラギ』は長剣を引き戻しながら飛びのいて再び身がまえた。距離を取ってBMD-T07を観察している。


「ちっ」


久我透哉は二度目の舌打ちをした。能力を知られてしまった。さらに事態は悪化する。BMD-T07の右の目が、応援に駆けつける別の4体の『カイラギ』をとらえた。ビルの屋上をジャンプしながらこちらへと向かってきている。4体が工場の屋根へとジャンプした時だった。海中からなにかが飛び跳ねた。


「Z13」


陣野修(じんのしゅう)のBMD-Z13は呼吸器官から水流を吹き出しながら空中で、背中に収めた日本刀を引き抜いた。その勢いを使って最後尾の『カイラギ』の脚をなぎ払った。太ももから下の脚を失った『カイラギ』は着地できずに工場の屋根の上をぶざまに転がる。後ろを追って着地したBMD-Z13は久我透哉のBMD-T07に向かって走り、背中にしょったもう一本の日本刀を投げた。


 BMD-T07は小刀を腰に戻して、それを受け取った。ゆっくりとさやから引き抜く。


キーン。


高速で震える金属にような音が響きわたる。BMD-T07のランクA装備『ライキリ』がそこにあった。


BMD-T07は『ライキリ』を振り上げて、片腕の『カイラギ』に振り下ろす。『カイラギ』は長剣をかざしてそれを受けた。


ズザーッ。


『ライキリ』はその長剣をたやすくたたき割り、固い表皮に覆われた『カイラギ』の頭から股間に向かって一刀両断に切り裂いた。『カイラギ』の体は配管の上で左右、二つにわかれて海へと落下していった。


 久我透哉のBMD-T07は『ライキリ』のさやを腰につけると工場の屋上へと飛び降りた。脚を失った『カイラギ』の首は既にBMD-Z13によってはねられており、追ってきた残りの3体の『カイラギ』は久我透哉のBMD-T07と陣野修のBMD-Z13にはさまれる形となった。

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