K04-04
「ところで、山村(やまむら)刑事さん。あなた、よくこの基地に入れたわね。正面ゲートから堂々と入ってくるなんて、たいしたものだわ。もっとも他のルートだったら間違いなく銃殺されていたけど」
「軍が警察に協力してくれるとは思えないので、第三の力を使いました。教授と同じですよ」
山村光一(やまむらこういち)は家庭裁判所の命令書のコピーを陣野真由(じんのまゆ)に差し出した。
「神崎彩菜(かんざきあやな)は両親と弟を失い現在は戸籍上、孤児となっています。僕が彼女の未成年後見人に申し出たら、家庭裁判所が本人の同意書を直接もらってこいって。お役所仕事ってやつですよ」
陣野真由は山村光一の行動力にあきれた。
「あなた、結婚もしていないですよね。それでよく家庭裁判所が認めましたね」
「天下の警察ですから。信用はバツグンです」
「あなたが考えたことなの」
「野島(のじま)さんが『バイオメタルドール』が見られるぞ。っていうもので。それに、スーパーヒロインの役に立てるのですから」
山村光一は満面の笑みを浮かべている。陣野真由はこの男のオタク度には頭が下がった。
「三村(みむら)さんの話だと、アメリカの盗聴とか面倒なことにっているみたいですし、ここなら安全でしょ。軍の関係者も一部しか知らない秘密基地ですから」
陣野真由は頭を抱えた。
「あなた、ここをロボットアニメかなにかの秘密基地と勘違いしていない。ここは軍に所属するれっきとした調査研究施設ですよ」
「えっ。じぁあ。『バイオメタルドール』を射出する緊急発進用のカタパルトとか、パイロットが移動する長いシューターとかないのですか」
「あるわけないでしょ。そんな非効率なもの」
山村光一はガッカリしてうつむいた。
「まあいいわ。せっかくなので、後で『バイオメタルドール』を見せてあげるは。みんな施設に監禁された上、訓練続きで疲れが出てきているみたいだし、外部の人間にあわせるのも刺激になるわね」
「ほんとですか。見せてもらえるんですか」
山村光一は顔を上げて、陣野真由の手を取って喜んだ。
「ところでれいの調査の方はどう」
「国防副大臣の桐生雅史(きりゅうまさし)のことを調べました。厚生労働省の事務次官の時の担当は、やはり『再生医療』でした。教授の研究を警察にリークしたのも彼です。事務次官になる前は、厚生労働省の研究員として、アメリカに留学してたところまでつきとめました」
「そう。やはり。で、なにを研究していたの」
「それがなんともなんですよね。AIを使った地球環境の改善についての研究をしていたみたいです。軍はおろか『再生医療』ともまったく接点がないと言うか」
「彼がこの件にかかわっているのは間違いないわね。野島(のじま)刑事さんと彼の研究内容についてもう少し探ってください」
「わかりました。で、あの」
山村光一は大人げもなく、モジモジしながら陣野真由の方を見ている。
「それでは『バイオメタルドール』を見にいきますか」
「はい。もちろんです」
山村光一は小学生のように元気いっぱいに答えた。
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